ビムス・エディションズ・バンド・コレクション(キスカ・マーチ収録)
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富樫哲佳の「音楽コラム【ぐるしん】吹奏楽版」
吹奏楽でドラマ対決勃発か!?

≪華麗なる一族≫vs≪風林火山≫ 
あなたのバンドはどっちを選ぶ ?

 近年、TVや映画のテーマ曲が吹奏楽版になって楽譜や音源が発売されるケースが多いが、今回は、その頂上対決である。どちらも、原曲が本格的なシンフォニック・オーケストラ曲で、まるで吹奏楽版になるためにあるような曲であり、その楽譜が、ほぼ同時に世に出たのだ。

■≪華麗なる一族≫メイン・テーマ

 まず『華麗なる一族』。
 2007年1月〜3月までTBS系列で毎週日曜日21時から放映され、最終回は視聴率30%、物語の舞台となった関西地区では、瞬間最高40%を突破し、紅白歌合戦をも上回ったオバケ・ドラマである。

 もちろん、木村拓也を始めとする豪華キャスティング、山崎豊子原作のドギツくて派手なストーリーが人気の理由だが、音楽もスゴかった。

 作曲は服部隆之。一昨年の大河ドラマ『新選組!』のテーマは紅白歌合戦でも演奏され、吹奏楽版楽譜も数種出て大ヒットした。近年は、航空自衛隊航空中央音楽隊・創立50周年記念曲≪碧空≫も発表し、吹奏楽オリジナルにも本格進出している。

 この服部による『華麗なる一族』のメイン・テーマは、何と、イギリスの名門オケ、フィルハーモニア管弦楽団の演奏。自らの指揮で、ビートルズでおなじみアビーロード・スタジオで録音された。曲は重厚にして骨太。三拍子で滔滔と流れるシンフォニック・テーマである。

 これが、最近、ミュージック・エイト社(M8社)から山里佐和子編曲による吹奏楽版となって、楽譜が発売された。ヒット曲を次々と出版するM8社だけに、さすがに早いと思わされたが、スコアを見て驚いた。これは、TVの冒頭で流れていたヴァージョンではなく、サントラCDでしか聴けない、演奏時間10分のオリジナル版メイン・テーマをまるごとそのまま編曲したスコアだったのだ(TVで流れていたのは、これをカット短縮したもの)。

 TVドラマ・テーマ曲の吹奏楽版楽譜が、演奏時間10分とは異例である。全体はいわゆる「A〜B〜A形式」で、後半繰り返しA部分では打楽器も大活躍し、トランペットの高音が盛り上げる。何しろ家長たる父親が、正妻と愛人を一緒に寝室に連れ込んでいる一族である。音楽も、そんなドロドロぶりが、決して品格を落とすことない荘重さで表現されていた。M8の楽譜としてはかなり高度な内容だが、ちゃんとオプション音符も書かれていて、中級バンドでも十分演奏できる編曲になっている。ただし、全体の緊張感を10分間、落とすことなく持続させるのは、なかなか大変である。

 ここに、吹奏楽版を許諾した服部隆之と、M8社の意気込み・自信が感じられる。安易にTV版短縮ヴァージョンを取り上げず、あえて「原曲」をそのまま吹奏楽版にしたところに、この曲をTVドラマ音楽としてとらえず、純粋なシンフォニック楽曲として演奏してほしいとの熱い思いが見て取れるのだ。デモ音源がないのが残念だが、噂では、さっそく某有名プロバンドが取り上げようとしているそうなので楽しみだ。早くこのスコアをナマで聴いてみたい。


■≪風林火山≫メイン・テーマ

 さて次は、NHK大河ドラマ『風林火山』。作曲は、こちらも人気作曲家の、千住明である。実は筆者は、昨年暮れに、ある場所で本人に会った際、「どんな音楽なのか楽しみです。ぜひ、全国の吹奏楽部が演奏できるような曲だとうれしいんですが」と勝手なことを言ったら、何と「期待していてください。(吹奏楽にも)バッチリ合う自信作です!」と語っていた。で、年が明けて第一回を見て(聴いて)みたら、何ともカッコイイ、確かに、最初から吹奏楽で演奏されてもおかしくないような名曲だった。私は、千住作品をすべて聴いているわけではないが、これは作曲者の、おそらく代表作のひとつになるであろう。

 大河ドラマのテーマ曲は、毎年、NHK交響楽団が演奏する(今回の指揮は高関健)。ところが今回、千住は、ドラマ内のいわゆる劇伴音楽をワルシャワ・フィルハーモニー管弦楽団に演奏させた(マリオ・クレメンツ指揮)。通常、劇判部分は、日本のスタジオ・ミュージシャンで演奏されていたので、これまた異例の企画だった。『華麗なる一族』=フィルハーモニア管、『風林火山』=ワルシャワ・フィルと、海外の一流オケ対決が演じられていたのである。

 それゆえ≪風林火山≫も、吹奏楽版が出るのも時間の問題と思っていたら、さっそく、雑誌「バンドジャーナル」5月号付録楽譜で出た。まさに、前記M8版≪華麗なる一族≫メイン・テーマとほぼ同時の登場だった。編曲は中原達彦。

 これは、なかなか難しいスコアだ。原調である。特にトランペットの主題は取り組みがいがあろう。中原は、容赦なしで「千住スコア」を吹奏楽に移植した。音符ヅラが難しいだけではない。これは、勇ましさと、かすかな哀しみが同居した、いわゆる「相反する要素」が同居した曲なのだ。主人公・山本勘介こそ「相反する要素」と戦い続ける人生だった。それが、そのまま音楽になっているのだ。だから音符ばかりを追いかけていると、こういった内面の表現がおろそかになる。そんな曲である。

 4月20日に、NHKホールで「千住明個展コンサート」があった。年に1回、自作を新日フィルで演奏する人気コンサートである。ここで、おそらく最初のコンサート演奏と思われる、≪風林火山≫組曲が、作曲者自身の指揮で演奏された。これを聴いて私は「これ、最初から吹奏楽で演奏する方がいいんじゃないか」とさえ思った。

 千住作品は、たいへんデリケートな曲想が多く、それには「弦」が欠かせないことは言うまでもない。この日演奏された曲も、それを感じさせる曲が中心だった。ところが、時折「管」、特に「金管」が活躍する曲が登場すると、私のような吹奏楽人間は「これだよこれ、もっと!」と言いたくなってしまう、そんな素晴らしさがあるのだ。特に、ハウステンボスの映画音楽≪グランオデッセイ≫や、フジTV系列≪スーパー競馬≫メイン・タイトルなど、吹奏楽感覚と紙一重である。おそらく千住作品の中で最も多くの人が耳にしているはずの、アサヒ・スーパードライCM曲≪ドライ&ウェット≫など、なぜ、吹奏楽版が出ていないのか、不思議で仕方がない(それとも、もう出ているのかな)。

 服部隆之は、すでに吹奏楽オリジナル曲に進出している。ぜひ、千住明も、吹奏楽の世界に「来て」いただきたい! そして全日本吹奏楽連盟は、服部隆之や千住明に課題曲を委嘱していただきたい。これに映画『日本沈没』や大河『義経』の岩代太郎や、≪マツケンサンバU≫の宮川彬良なども加えて、日本全国13000団体が、ひと夏、彼らの課題曲を演奏するなんて、何だか楽しいことになりそうではないか。

 さあ……あなたのバンドは≪華麗なる一族≫と≪風林火山≫、どっちを選ぶ?
<敬称略>

Text:富樫哲佳

(2007.04.24)


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