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富樫哲佳の「音楽コラム【ぐるしん】吹奏楽版」

 さてさて、2005年の課題曲も出揃い、すでに選曲に入っているバンドも多いことだろう。
 曲の詳細については、吹奏楽連盟の刊行物でも細かく紹介されているし、今後、様々なクリニックや解説が流布することと思うので、そちらに譲るとして、ここでは、ちょっと違った角度から、今回の5曲を解説・紹介してみたい。

 課題曲のテーマは、ほぼ1年おきに、「マーチ」と「一般的な曲」とが、交互に採用されている。そして今回は「マーチ」の年だ。

 マーチは、吹奏楽の原点であるが、演奏時間はどれも短い。デモ演奏のタイムを見ても、どれも3分代である(以下に掲げた演奏時間は、吹奏楽連盟が発行しているデモCDのタイム)。その分、今回は自由曲の選択の幅も広がりそうだ。


【I】パクス・ロマーナ(松尾善雄) 03'48"

 朝日作曲賞受賞作品。阿部勇一作曲の、同名の序曲があるが、それとは無関係。
 冒頭、実音「♭♭」の序奏で始まり、中間で「♭♭♭」に転調、さらに「♭♭♭♭♭」になって、冒頭の調に戻り、終わる。
 フル編成。ティンパニのほかに打楽器奏者は5人(チューブラー・ベルズあり)。
トランペット最高音は「五線譜外、記譜上A」。

 もう課題曲では何度か登場しているベテラン作曲家の意欲作だ。
 タイトルの「パクス・ロマーナ」とは、直訳すれば「ローマによる平和」。いわば、古代ローマ帝国がいちばんよかった時代のことを指す。特に、ローマ帝国初代皇帝アウグストゥスによる統治の時代が最も平和だったとされている。共和制システムを改変して「皇帝」の地位を生み出した人である。
 この人は、あのカエサルの養子で、本名は、ガイウス・オクタヴィウス。「アウグストゥス」は後名で、意味は「尊厳者」。のちに皇帝を指す一般名にさえなった。
 つまり、この曲は、古代ローマ帝国が、最も栄え、平和だった時代を、行進曲で表現した音楽なのだ。

 もし、「パクス・ロマーナ」がどんな時代だったか、キチンと知りたかったら、塩野七生著『ローマ人の物語』(14)〜(16)が、「パクス・ロマーナ」(上・中・下)にあたるので、ぜひ、お読みいただきたい(新潮文庫版)。これを読んでから課題曲を演奏したら、絶対に響きが変わるぞ!・・・・(と思う)。

 それともうひとつ。この課題曲を演奏するにあたって、絶対に観なければならない映画が『ベン・ハー』(59)である。
 この映画は、まさに「パクス・ロマーナ」時代の後半が舞台であり、音楽的にも、今回の課題曲の原点ではないかと思えるほど、共通項が感じられる。実は、作曲者自身、ミクロス・ローザへのオマージュであると語っているほどなのだ。だから、ローザの音楽を知らずして、この課題曲を演奏してはならないのだ!

 映画『ベン・ハー』の音楽は、巨匠ミクロス・ローザが、2年間もの歳月をかけ、当時の音楽状況や楽器などを徹底調査し、書き上げた、映画音楽史上に残る、超ド級の名作である。米Rhinoレーベルから出ている同映画の2枚組完全版サントラCDは、まるでワーグナーを思わせる、重量級の内容だ。本を読んで、映画を観て、音楽を聴いて、とにかく頭の中を古代ローマ漬けにして演奏すれば、もう、コンクール予選通過は間違いなし!・・・(と思う)。


【II】マーチ「春風」(南俊明) 03'13"

 冒頭、実音「♭♭」で始まり、Trioで「♭♭♭」に転調、以後そのままラストまで。
 フル編成(ピッコロにオッブリガート・ソロあり)。ティンパニのほかに打楽器奏
者は4人。トランペット最高音は「五線譜外、記譜上B♭」。

 何とも、タイトルどおりの、これ以上ない、というほどのさわやかなマーチである。まさに、運動会当日、快晴の朝に流れていたら、涙が出ちゃいそう。

 しかも、マーチ本来の形に、実にキチンと乗っ取っているのだ。
 つまり、前奏があって、テーマがあって、Trioがあって・・・中音部の気持ちいい対旋律も、ひんぱんに出てくる。最後は、お約束のリピートがある。リピート部分は、1回目は「p」で、2回目は「ff」で。しかも、ピッコロのオッブリガートや、トロンボーンの対旋律がある。要するに、あの≪星条旗よ永遠なれ≫と同様パターンなわけで、スーザへのオマージュとさえ、思える。

 だから、この曲に挑むには、とにかく、マーチの基本をひたすら身につける意識が重要だ。

 

V】ストリート・パフォーマーズ・マーチ(高橋宏樹) 3'03"

 冒頭、実音「♭」で始まり、Trioで「♭♭」に転調、(一瞬三拍子が現れ)以後そのままラストまで。
 フル編成だが、オーボエ、バスーン、エス・クラ、アルト・クラ、ホルンW、弦バス、ティンパニはオプション扱い。打楽器奏者はティンパニ以外に4人。トランペット最高音は「五線外、記譜上A」。

 2003年の課題曲≪イギリス民謡による行進曲≫の作曲者、再登場である。ただし、今回は、かなり曲調が違う。ストリート・パフォーマーズ=大道芸人(西洋風)がモチーフなのだ。
 日本では、「大道芸人」と聞くとイメージが浅いかもしれないが、要するに、繁華街や遊園地の街頭で、滑稽な仕草を演じているピエロをイメージすればいい。向こうからは手回しアコーディオンや、回転木馬の音楽も聴こえてくる。あるいは、昔ながらのサーカスを想像してもいい。空中ブランコ、綱渡り・・・。

 とにかく、そんな、遊園地やサーカスの芸人たちが、にぎやかにパレードを繰り広げる曲なのだ。

 なお、ピエロは、単に滑稽(こっけい)なだけではない。どこか、哀れさも秘めている。だから、よく見ると、目の下に「涙」をメイクしているピエロも多い。この曲には、それらしきムードの部分もある。

 [F]手前のリタルダンドやダ・カーポ〜レントを大袈裟に感じる方も多いだろう。だが、ここは、思い切り大袈裟に、たっぷりやった方がいいのだ。なぜなら、ここは、サーカスの綱渡り曲芸のシーンなのだから。そのうえ、ラストには、アンコールまで付いている(芸人たちが、引っ込んだ後、またすぐに出てきてご挨拶!)。

 果たしてサーカスの雰囲気が、どこまで表現できるか・・・最近は「アレグリア」だの、「シルク・ド・ソレイユ」だの、半ばアート的なサーカス・パフォーマンスが流行しているので、若い方々には、なかなか、昔ながらのサーカスやピエロのイメージは、湧かないかもしれない。

 そんなメンバーが多いバンドは、ぜひ、映画『地上最大のショウ』(52)をご覧あれ! 全米の二大サーカス団「リングリング・サーカス」と、「バーナム・ベイリー・サーカス団」の全面協力で撮影されただけに、迫真度満点(特に、後者のサーカス団は、バンド関係者なら、キング作曲の名マーチ≪バーナムとベイリーのお気に入り≫で知った名前でしょう?)。

 特に、ジェームス・スチュワートが、全編、ピエロのメイクで通していて、泣かせます。イメージつくりの基礎になると思うよ。

 

【W】サンライズマーチ(佐藤俊介) 3'17"

 1982年の名課題曲≪サンライズ・マーチ≫(岩河三郎)とは無関係(今回は「・(ナカグロ)」が、ない)。
 冒頭、実音「♭♭」で始まり、Trioで「♭♭♭」に転調、以後そのままラストまで。
 フル編成だが、オーボエ、バスーン、エス・クラ、アルト・クラ、ホルンIV、弦バスはオプション扱い。打楽器奏者は4人(ティンパニ不要)。トランペット最高音は「五線外、記譜上A」。

 今回、最大の話題曲かもしれない。なにしろ、現役高校生の作曲による課題曲なのだから(応募時、1年生!)。作曲者は、茨城県立水戸第一高校吹奏楽部でテューバを吹いているという、佐藤俊介クン。ということは、佐藤クンは、このコンクールに、自分の課題曲で出場するのか!? いったい、どんな気持ちなんだろうか。うらやましいぞ! 水戸一高!

 曲は、ひたすら美しく、素直に進む。これを、現代の高校生が作曲したんだったら、このニッポン、まだまだ大丈夫なんじゃないか?
 Trio後、ちょっと面白い下降フレーズも出てくる。十六分音符による、音のエコー効果だ。なかなか、技巧派ではないか。

 この曲は、ぜひ、多くの高校生に、自信をもって、素直に、のびのび演奏してほしい。高校生がつくった曲を、同じ高校生が演奏するなんて、実にすてきじゃないですか。

 

【V】リベラメンテ 吹奏楽による(出塚健博) 3'14"

 一種の無調音楽。すべてのパートに「調号」がない代わりに、全編、臨時記号だらけ。
 フル編成。ティンパニのほかに打楽器奏者は4人。トランペット最高音は「五線譜外、記譜上C」。

 さすがは課題曲【V】(大学・職場・一般のみ)である。毎年、この【V】には、一筋縄ではいかない曲がくるが、今回は、特に「キター!」って感じの問題作だ。
 チラリと聴けば、変拍子だらけの難曲・・・これが2拍子(もしくは4拍子)の「マーチ」だとは、いくら何だって無茶な・・・あれ? スコアを見ると・・・こりゃ、確かに、最初から最後まで見事な「4分の4拍子」ですよ。変拍子になってる小節なんか、1箇所もないよ。しかも・・・よく見れば、低音部や打楽器が、キチンと、マーチのリズムを刻んでいるし・・・。ウ〜ム、どうやら、これも「マーチ」の一種のようですよ・・・。

 この曲は、昔、遊園地によくあった「鏡の迷路」である(いまでもあるのかな?)。一歩踏み込むと、自分の姿が、前後左右に、少しずつずれながら、あるいは、形を変えながら映し出される。進んで行くうちに、どれが、ホンモノの自分の姿なのか、分らなくなる。
 この曲でも、あらゆる旋律が、あちこちから突如、飛び出す。しかも、ズレながら。
 どれが「実体」で、どれが「影」なのか・・・。時折、ショスタコーヴィチやプロコフィエフの香りもする。いや、バルトークかストラヴィンスキーかな・・・こりゃあ、よくよくスコアをチェックして、バランスを考えながら演奏しなければ・・・。

 この曲を演奏するには、作曲者のコメントを注意深く知る必要がある(最近、音楽関係者の書いた文章で、これほど面白いものは、読んだことがない)。


「木管が聴こえるように書きましたが、安易に金管を休みにしている場合が多く、理想とする木管中心の奥行きある響きを求めることは実現できていません」
 ・・・なに? これが、作曲者自身のコメントなの?

「旋律は柔軟性が無く、不器用に選んだ音が世界を狭くしています。柔軟性の欠如は断片を交替させる等の意外性で補い、不器用さは私が正直に書いた証拠です」
 ・・・おいおい・・・

「技術的には難しくない筈ですが、部分を明確に形作ることを避けたため、多少難しく聴こえるかも知れません」
 ・・・マジっすか?


 要するに、作曲者・出塚健博(東京芸大作曲科〜大学院修士課程修了)は、自ら「自分は不器用で柔軟性がなく、奥行きある響きは書けなかった」と、告白しているのだ。
 これ、正直なのか、自虐的なのか、あるいは、自信の逆説的表現なのか? とにかく、作曲者自ら、ある種の「制約」を課しているわけで、その中で、「自由に=リベラメンテに」音楽を奏でなければならないのだ。これって、もしかしたら、とんでもなく難しいことなんじゃないか?

 さあ、大学・職場・一般のみなさん。いったい、どう解釈して、どう料理します?
 この「技術的には難しくない」曲を!

Text:富樫哲佳

(c)2005,Tetuka Togashi
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