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樋口幸弘の「ウィンド楽書(ラクガキ)ノ−トファイル」

 2006年6月の「タッド・ウインドシンフォニー第13回定期演奏会」のライヴ録音は、最初録音を演奏者にお渡しした時点で、仕事としては完結するはずだったが、その後さまざまな経緯から、筆者がお手伝いをしてCD化されることなった。その最大の理由は、録音を聴いた指揮者の鈴木孝佳(タッド鈴木)さんをはじめ、演奏者の方々に手放しで喜んでいただけただけでなく、後日アメリカ空軍ワシントンD.C.バンドやダラス・ウィンド・シンフォニーにも少なからぬショックを与え、録音を聴いた彼らも賛辞を惜しまなかったからだ。一方で、演奏されたレパートリーも新鮮で、プログラミングもすばらしかった。

 しかし、いざCD化が決まると結構忙しい。12月5日、タッド団長の田島和男さん、インスペクターの佐野日出男さんと東京駅で最初のミーティングを行い、CDはコンサートの流れに従って2007年4月と6月の2回に分けて2枚発売することを決定。即日アメリカとのやりとりが始まった。アメリカでは、ネヴァダ大学ラスベガス校の院生で、鈴木さんのアシスタントをされている山浦誉史(やまうら しげふみ)さんがアメリカ国内の関係者との連絡役をしていただけることとなった。

 4月1日発売の1枚目のタイトルに決めた『灰から救われた魂たち』の作曲者トミー・ユーとも至急連絡をとらねばならなかった。タッドの演奏が世界初演であり、楽譜も未出版。CD化の録音許諾をとるだけでなく、詳しいプロフィールや写真も必要だったからだ。

 録音許諾はすぐにOKがきたが、プロフィールと写真がメールで送られてきたのは、年が明けた1月10日だった。現地も急なことでバタバタしているんだろうと思いつつ、ファイルを開いて真っ先に作曲者のプロフィールを確認する。

 送られてきたプロフィールは、山浦さんが気を利かせて日本語に訳してくれたものだったが、こういったプロフィールによくあることながら、出身や生年など、いくつかの重要な情報が不足していた。これではダメだ。タッドのCDに印刷されるノートは、彼について日本語で出るはじめての情報になるだけに、必要最小限の情報だけは盛り込んでおかねばならない。すぐに原文のプロフィールを送ってもらうことと、不足情報についての照会をリクエストする。また、写真のファイルを開くと、なんと、これには何も写っていなかった。これも合わせてリクエストする。

 それにしても、プロフィールに書かれてあった「1994年、14才で単身渡米し、・・・」というくだりがとても気になった。ということは、作曲者は、1979年か80年の生まれであり、まだ20代後半の若さだということになる。しかし、初めて聴いた彼の作品は、ひじょうに完成度が高く、“心に染み渡る”という言葉がピッタリくるようなとても美しい音楽だった。また、「フルートソロ曲“The Morning Nocturn(朝の夜想曲)”は、2006年4月、ユタ州で行われた米作曲家協会第7地区カンファレンスで230曲のエントリーの中から選出され、・・・」というくだりもひじょうに気になった。これは、久しぶりにすばらしい才能との出会いとなったのかも知れない。

 やがて送られてきた追加情報で、作曲者は台湾出身で、アメリカ国内にいた友人のすすめで渡米したことなどがわかった。しかし、未だに生年などが不明。どうもレスポンスが悪い。山浦さんに訊ねると、2006年夏にネヴァダ大学ラスベガス校の大学院を卒業後、作曲者はニューヨークに居を移し、なかなか連絡が取れずに困っているとのこと。一方、4月1日発売は既定の事実。時間はどんどん過ぎていくばかりで、次第にこちらにも焦りの色が・・・。

 その後、写真は1月30日に無事届きひとまず安堵したが、その翌日、山浦さんから、驚くべきメールが届いた。それは、久しぶりに訪ねてきた作曲者から、『来週、急に台湾に帰国することになり、帰国後、2週間程度はまったく連絡が取れないだろう』と聞いた、いう内容だった。慌てて“永久帰国”かどうかを訊ねると、しばらくして『そうです』との回答。

 急いで連絡を試みるがすべてはアトの祭り。リクエストに応じて自費で作ってくれることになった楽譜の受け渡しについてもまだまだ打ち合わせ不足。こちらからは何の手も打てない状況だけに、すべては帰国後の作曲者からの連絡待ちとなった。

(つづく)


トミー・ユー / Tommy Yu

1979年11月23日、台湾に生まれる。本名は、余 昶賢。1994年、14歳で単身渡米。作曲家への可能性に目覚め、本格的に作曲の勉強を始める。高校生の頃より、いくつかの作曲賞を受け、奨学生としてブリガム・ヤング大学に入学、2003年、同音楽科で学士号を取得して卒業。翌2004年にラスベガスへ移り、ネヴァダ大学ラスベガス校(UNLV)作曲科に院生として入学。在学中は、作曲をDr. Virko Baley、Dr. Jorge Grossmannに師事し、2006年8月、修士号を取得。2007年2月、母国台湾へ帰国した。作品中、フルート独奏曲「朝の夜想曲(The Morning Nocturn)」は、2006年4月、ユタ州で行われた米作曲家協会第7地区カンファレンスで230曲のエントリーの中から選出され、初演も行われた。また、2006年6月には、東京で、タッド・ウインドシンフォニーの演奏により「灰から救われた魂たち(Their Souls Were Lifted From The Dust)」の初演が行われた。
(c)2007, Yukihiro Higuchi/樋口幸弘
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■タッド・ウィンド・コンサート(1)/トミー・ユー/灰から救われた魂たち(世界初演)
■タッド・ウィンド・コンサート(2) /矢部政男:吹奏楽の為の交響的舞曲「月の宴」
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