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樋口幸宏の「ウィンド楽書(ラクガキ)ノ−トファイル」
ファイル・ナンバ−08
ベルト・アッペルモント:ガリバ−旅行記
GULLIVER’S TRAVELS  (Bert Appermont)
File No.08-03 : 世界初録音

アッペルモントの新作「ガリバ−旅行記」のスコアをはじめて見た日から2ヵ月あまりが過ぎた2000年11月4日、大阪市音楽団(市音)プログラム編成委員の田中 弘(たなか ひろむ)さんから、久しぶりに電話が入った。年末のミッドウェスト・クリニックや、例年、年明けの2月に予定されている市音自主制作CD「ニュ−・ウィンド・レパ−トリ−」の2001年盤のレコ−ディングへ向けて、いつも11月頃に行なっている食事をしながらの "秘密の例会" (関係者の間では、一応、情報交換のための "ミ−ティング" と称している)ができるかどうかの打診だった。
 当時、筆者は、母親の四十九日の法要もまだ済ませていない上に自分自身の事故の後遺症で箸はおろかスプ−ンすら満足に握ることができないという有り様で、毎日の "ハ−ドワ−ク" をこなすだけで肉体的にも精神的にもかなり参っていて、自分自身が企画を立ち上げた佼成出版社のCD「ヨ−ロピアン・ウィンド・サ−クル(5)パリのスケッチ」(KOCD-3905 )のノ−ト執筆すら(ノ−トだけなら書ける人はいっぱいいるはずだから)何とかキャンセルできないかと申し出ていたほどだった。母親の通夜にも顔を出していただいた田中さんも、ある程度こちらの状況に察しがついておられたようで、まずは「どうしてはります(どうしていらっしゃいます)?」と話を切りだされた。明らかに恒例の "例会の打診" を口実にしながら "近況" をたずねてこられた様子だった。筆者は、「恐ろしいほどやることがたまっていますけど、月の終わりぐらいだったらなんとか時間を作れると思います。例によって(仕事を終える)夜8時半以降でしたら、いつでもOKです。」と答え、日取りは "プログラム委" の方で決めていただくことにした。
 この年は、4月に発売された「ニュ−・ウィンド・レパ−トリ−2000」(大阪市教育振興公社、OMSB-2806 )の楽曲ノ−トを久しぶりに(青息吐息ながら、なんとか)執筆させて頂いたこともあって、市音の方々には筆者が置かれている状況に何かと気を遣っていただいているのがわかっていた。今度の "例会" のお誘いにも "たまには気張らしもどうですか?" という意味が込められていたに違いなかった。とても有り難かった。
 とは言うものの、いくら先方がこちらの状況をある程度承知していて "情報収集" に関してあまり多くを期待していないとしても、とにもかくにも "例会" は "情報交換の場" でもあるから、顔を出す以上、当方もまったくの手ブラでその場に望むわけにはいかなかった。そこで、田中さんの電話を切った後、すぐに頭を切り替えて "さ−て、何をもっていこうか?" と周囲に点在している "新譜ネタ" を拾い集めることにした。すると、フルタイムで情報に接していないワリには結構ゾロゾロ。まず最初に目についたのは棚の上に無造作にポンと置かれていた何冊かのスコアと届いた順に足元に積み重ねてあった何枚かのCDだった。続いて、商品ストッカ−の片隅からは出版されたばかりの楽譜セットがいくつか出てきた。幸いなことに、手元(と足元)にあったこれら資料の自分なりの分析はこのときまでにすべて終えていたので、 "プログラム委" に情報提供すべき作品の選り分けはアッという間に終えることができた。
 一方で、市音にはアメリカの出版各社からの新譜情報は充分に届いていると聞いていたので、このときに選んだのはすべてヨ−ロッパの作品から、イギリスのフィリップ・スパ−ク(Philip Sparke )の「ハノ−ヴァ−の祭典(Hanover Festival)」、ベルギ−のベルト・アッペルモントの「ガリバ−旅行記(Gulliver's Travels)」、チェコのパヴェル・スタニェク(Pavel Stanek)の「メイド・イン・ヨ−ロッパ(Made in Europa)」、ノルウェ−に移り住んでいるイギリス人レイ・ファ−(Ray Farr)が編曲したカ−ル・デ−ヴィス(Carl Davis)の「ギャラクシ−ズ(Galuxcies )、イギリスのナイジェル・ヘス(Nigel Hess)の「イ−スト・コ−ストの風景(East Coast Pictures )」および「スティ−ヴンスンのロケット号(Stephenson's Rocket )」などだった。この内、スパ−クの作品は、市音の方でも当然チェック済みだと思われた(実際そうだった)が、これをワザと外す理由はまったくなし。また、ヘスの一連の作品は、新曲ではなかったが、ちょうどこのタイミングでそれまでの手書きのオ−ソライズド・コピ−の販売からきれいにコンピュ−タ浄書された出版譜に移行していたので国内録音でキチンと紹介する機会が必要だと考えてリスト・アップすることにした。
 以上のように、筆者の仕事場のおよそ半径1.5メ−トルの空間を探索した結果は、最終的に(自分でも驚いたことに)結構いい曲が出揃うこととなった。みんな個性的ないい作品だった。しかし、その中から敢えて、タイムリ−、かつ、初めて曲名を活字で見た人にもフレッシュにひびく "超目玉" のタイトルを挙げる(つまり、個人的意見として "これだけは落とせない" )となると、それは、実現すれば "世界初録音 "となるアッペルモントの「ガリバ−旅行記」と旧共産圏に埋もれていた都会的センス溢れるすばらしいコンサ−ト・マ−チ「メイド・イン・ヨ−ロッパ」の2曲と思われた。当然、 "例会" でも筆者は力説した。スコアをプログラム委の面々の前に広げ、「ガリバ−〜」第1曲のピッコロ・ソロを(久しぶりのアルコ−ルで少々音程の狂った)口笛で吹きながら....。同様に "いい調子" になってきた面々も身を乗り出してきた。その後の展開が一体どうだったのか????。今となってはあまり記憶にない。しかし、はからずも、このメロディ−には人をウキウキとさせる絶大な演奏効果があることが証明されたのは確かなようだった!?

 さて、このときプログラム委に渡ったスコア類や録音テ−プは、その後、何度も開かれた深夜におよぶ選曲会議で他の候補曲とともに採否を検討するための資料となった。その間、まだ書き上がっていない委嘱作品があったり、CD全体のバランスも考えなければならなかったために、作業は慎重の上にも慎重をきたしたという。そして、演奏時間や楽器編成の関係もあって何曲かが降り落とされたものの、12月2日までに、スパ−ク、アッペルモント、スタニェクの3曲が「ニュ−・ウィンド・レパ−トリ−2001」(大阪市教育振興公社、OMSB-2807 )の収録曲として採用されることが決まった。よ−し、OK!!

▲セッション風景

▲録音モニタールーム風景

アルバム収録は、翌年2月7〜8日の両日、兵庫県尼崎市のアルカイックホ−ルで行なわれた。セッションの後、録音ディレクタ−をつとめた百線錬磨の音楽プロデュ−サ−佐藤方紀(さとう やすのり)さんと電話で話をする機会があったが、そのとき、佐藤さんは「 "ガリバ−〜" って曲、アレは樋口さんの推薦なんでしょう?イヤ−、本当にいい曲ですね。これは流行りますよ。」と、率直な感想を述べてくださった。曲を書いたのは、日本ではまだ名前をほとんど知られていなかったベルギ−の若き才能ベルト・アッペルモント。そして、作品の本質を見いだしたのは市音の愉快な仲間たち。筆者はわずかにその橋渡しをしたにすぎなかった。しかし、東芝EMIのプロデュ−サ−当時から吹奏楽を録音しつづけてきた佐藤さんのこの言葉のもつ意味は大きかった。

 その後しばらくして、「ガリバ−旅行記」と「メイド・イン・ヨ−ロッパ」の2曲への市音サイドの取り組みは、さらにすばらしいニュ−スとなって筆者のもとへ届いた。信じられないことに、まだ一般の日本人がまったく耳にしたことのないこの両曲が、大阪市内の学校を対象に行なっている市音の "音楽観賞会" の2001年度用プログラムに正式に選ばれたというのだ。ということは....。1年を通じて、もの凄い数の子供たちが(古今東西の名曲にまじって)これらウィンド・ミュ−ジックの新曲を耳にすることになる。ヤッホ−!!なんて、すばらしいことなんだ
 東京佼成ウインドオ−ケストラが録音した「ノアの箱舟(Noah's Ark)」につづいて、大阪市音楽団が世界初録音した「ガリバ−旅行記(Gulliver's Travels)」のCDもリリ−スとなったベルト・アッペルモント。そのすばらしい作曲センスは、紹介後わずかな時間の中で、日本の音楽ファンのハ−トを確実に捉えはじめていた。

......つづく

 
 
(c)2002,Yukihiro Higuchi/樋口幸弘
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