吹奏楽マガジン バンドパワー 吹奏楽マガジン バンドパワー
スペシャル >>インデックス
樋口幸弘の「ウィンド楽書(ラクガキ)ノ−トファイル」
ファイル・ナンバ−08
ベルト・アッペルモント:ガリバ−旅行記
GULLIVER’S TRAVELS  (Bert Appermont)
File No.08-02 :冒険の始まり
▲ジョナサン・スウィフト
▲講談社英語文庫
(マカイヴァーのリライト版)
 
▼和訳本も多種多様▼
▲岩波文庫(平井正穂訳)
▲講談社
少年少女世界文庫館4
(加藤光世訳)
▲新潮文庫(中野好夫訳)
▲ビデオ、「ガリバー」
「小人の国、巨人の国」篇
(チャールズ・スターリッジ監督)

あまりにも慌ただしい毎日に少し落ち着きが見え、ベルギ−の新進作曲家ベルト・アッペルモント(Bert Appermont)の「ノアの箱舟(Noah's Ark)」について "ラクガキ" (File No.04-01 〜 参照)を当初の予定の半年以上の遅れでやっと始めた2000年8月、筆者はそれとは別にもう1曲、同じ作曲者の新作のスコアを受け取っていた。真新しいインクの匂いがかすかに残る刷りあがったばかりの作品のタイトルは「GULLIVER’S TRAVELS」。ダイレクトに日本語にすると "ガリバ−の旅"!! アレ?ひょっとすると、これは......。そうか!!あの「ガリバ−旅行記」か
 なんのことはない。最初、ピンとこなかったのは、たいていの日本人と同じく、筆者も少年時代から親しみ、映画やテレビで何度も見たことがあるはずのあの有名な冒険小説の英語の "原題" にただなじみがなかっただけの話だが、そのあまりにもストレ−トなネ−ミングに少々戸惑いを覚えながらも、タイトルに惹かれてスコアを眺め始めると、今度はその音楽的な中身に引き込まれることになった。
原作の「ガリバ−旅行記」は、アイルランドのダブリンにある聖パトリック大聖堂の首席司祭だったジョナサン・スウィフト(Jonathan Swift,1667.11.30., ダブリン〜1745.10.19.,同)が、当時のイギリス(スウィフトのサイドにたつと "イングランド" と呼ぶ方がより正しい)の宮廷と政治家の有りさまを風刺の槍玉にあげながら、船医ルミュエル・ガリバ−が語る4つの冒険談として著した1726年の小説で、あまりの風刺の強烈さから、発表当時、スウィフト著としてではなく、「Travels into Several Remote Nations of the World in Four Parts by Lemuel Gulliver/ルミュエル・ガリバ−著 "いくつかの遠い国々への旅行記4部作" 」として匿名で発表されたほどの問題作だった。当時のアイルランドとイングランドの政治状況や出版関係者の身の安全を考えると、これはある程度仕方ない措置と言えたが、1726年10月28日にこの作品が出版されると、おもしろいことにこの本はジョ−クや風刺好きのイングランドの上流階級に飛ぶように売れた。船医ガリバ−が嵐の末に漂流してまずは身長15センチほどの人間たちが住む小人国リリパットに、ついで今度は逆に身の丈18メ−トルほどもある巨人が暮らす巨人国ブロブディンナグに流れついたり、その後浮遊する島ラピュ−タや属国バルニバ−ニ、妖術の島グラッブダブリブ、さらにはオランダや日本への寄港、最後に人類のヤフ−ではなく馬に知性が与えられている馬の国フウイヌムを訪れるという奇想天外なスト−リ−展開が、作品の裏にこめられた著者の辛辣な風刺や皮肉をうまくオブラ−トに包んでいたこともあったが、ともかく、「ガリバ−旅行記」は子供から大人までを楽しませる大ヒット作となった。
 その「ガリバ−旅行記」全4部と同じ小題がつけられた独立した4つの楽章からなるアッペルモントの新作は、スコア表示の演奏時間がおよそ7分30秒。先の「ノアの箱舟」がもともと音楽大学の卒業試験のために作曲された経緯(File No.04-05 参照)から、使用楽器の種類も多様であり、技術的に高度な要求も結構盛り込まれているのと比べると、今度の「ガリバ−旅行記」は、楽器編成もかなり一般的であり、技術上も "冒険" がなく、より作品に親しみながら愉しんで演奏できそうな第一印象を覚えた。メロディ−・ラインの処理もトラディッショナルであり、親しみやすい。とくに、最初の楽章でピッコロ・ソロによって提示されるテ−マは、一度聴けば耳にこびりついてしまうほど魅力的なメロディ−だった。また、前記のとおり、原作小説の "各部のタイトル" がそのまま "小題" として使われている各楽章は、そのタイトルを念頭に置きながら演奏を聴けば、それだけで冒険小説「ガリバ−旅行記」のスト−リ−が目の前に浮かんできそうだった。これぞ、ベルト・アッペルモントの真骨頂とするところ。いかにも、作曲活動のかたわらロンドンで映画音楽のための勉強も続けているという彼らしいスコアの展開となっていた。そして、何よりも、年々高度になっていくウィンド・ミュ−ジックの新作オリジナルの多くが "音楽性" 追求の一方でときおりどこかに置き忘れがちになってしまう "大衆性" を、この作品はもっていた。スウィフトの原作と同じように。
 これはいい。ひととおりスコアを見終わったところで、機会があれば、すぐにでも紹介したい衝動にかられたが、これまでの経験から日本での楽曲紹介には音源を用意できないとほとんど "徒労" に終わってしまうことがわかっていたから、早速ドイツのバンベルク交響楽団の首席トロンボ−ン奏者でこの作品を出版したベルギ−の音楽出版社 Beriatoの社長でもあるベン・ハ−ムホウトス(Ben Haemhouts/File No.04-03 参照)に照会したところ、残念ながら、現在のところ、カタログ用の部分的な録音以外、全曲を収録した参考音源はないとの返答。それなら仕方ない。一方で「ノアの箱舟」が、2000年9月にダグラス・ボストック(Douglas Bostock )指揮、東京佼成ウインドオ−ケストラの演奏で、佼成出版社のCD「ヨ−ロピアン・ウィンド・サ−クル」第5集(2000年12月9日、「パリのスケッチ」として発売。KOCD−3905)への収録が決まっていたから、まあいいか。「ガリバ−旅行記」のスコアは、日々"肉体労働" にいそしんでいる仕事場のタナに無造作に並べられながら "出番" を待つことになった。
 しかし、当時、筆者はこの作品によほど惹かれていたのだろう。 "出番" を待つ間も、書店に原作を探しにいったり、映画のビデオを探したりと、時間を見つけては "アクション" をおこしていた。
 そして、スコアの "出番" は、意外なほど早くやってきた。

......つづく

 
 
(c)2002,Yukihiro Higuchi/樋口幸弘
>>インデックスページに戻る
>> スペシャルトップページに戻る
jasrac番号 吹奏楽マガジン バンドパワー