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樋口幸弘の「ウィンド楽書(ラクガキ)ノ−トファイル」
ファイル・ナンバ−06
フィリップ・スパ−ク:交響曲第1番「大地・水・太陽・風」
− Symphony No.1 −
EARTH、WATER、SUN、WIND (Philip Sparke)
File No.06-05 :< シンフォニ− >

世界初演-プログラム

フィリップから届いたスコアとカセットは、筆者の脳味噌を揺り動かして深い眠りから覚醒させるとても刺激的なものだった。結果、およそ30分の大作だけに聴いていても途中で邪魔が入ることは分かっていたが、バタバタと動きまわらねばならない仕事場にまでテ−プを持ち込んで辺り構わずラジカセの音量をフル・ボリュ−ムにして流しながら、何度もスコア・リ−ディングをすることになった。事情を知らない周囲の人間や来客たちには"とうとう○○○にきたか" と思われていたかも知れない。しかし、何かの用件で電話を掛けてきた愛すべき "ウィンド星人たち(??)" は、受話器の向こう側、筆者の声のバックから流れてくる "正体不明のBGM" に一様に関心を示していた。
 東京の巣鴨学園吹奏楽班OB会会長の山崎武久さん(File No.01-06 参照)も、その中のひとり。氏から電話が掛かってきたとき、テ−プはちょうど "第2楽章" から "第3楽章" へと進んでいる最中だったが、 "第3楽章" のホルンの咆哮が始まると、とうとうシビレが切れてしまったのだろう、氏は用件をさっさと切り上げて「さっきからずっと気になっているんですが、今、鳴っているのはいったい何ですか?」と質問を浴びせてきた。種を明かすと、「エ−ッ!?スパ−クとは思えない曲ですね。また、新しい世界に進んだというか。イヤ−、凄い曲ですね!!」と、驚きの声を隠さない。東京からの長距離電話にもかかわらず、氏はその "気になる" テ−プが終わるまで電話を切らなかった。

 4月3日、それまでに得られたさまざまな感想も含めて自分自身の印象をつぎのようにフィリップに伝えた。「ディア−・フィリップ。ボクは、送ってもらったスコアをとても愉しくリ−ディングさせてもらったよ。ほんとうにグレ−トな作品だ!!キミのいうとおり(演奏は完全ではないが)、テ−プも作品のディティ−ルをよく伝えていると思う。しかし、カセットで聴かれる最終楽章のエンディング部分の解釈はキミにとってOKなんだろうか?さらに、これはボクの提案なんだけど、もしキミがOKなら、このエンディングに "ウィンド・マシ−ン" かなんかを加えてみるというのはどうだろうか。....... 」
 筆者の質問は、このライヴ・テ−プの演奏が "風(Wind)" とタイトルのつけられているこの曲の最終楽章の終わり方としては、紋切型のエンディングになっていることにかなり不満を感じたからだった。 "この指揮者の解釈は絶対におかしい。作品全体の起承転結というか、ここまで展開してきた作品のスト−リ−を台無しにしている。フィリップは曲のエンディングに、独特の感性を示すことが多い。ここはウィンドオ−ケストラのすべてのサウンドが消えていき、その演奏空間に静寂だけが残っているような充分な時間(とき)の流れが絶対に必要だ。" そう思った筆者は、結果、いつもよりずっと踏み込んだ感想をフィリップに書いていた。

 返答はすぐに届いた。

「ディア−・ユキヒロ。 "EARTH、WATER、SUN、WIND" を愉しんでくれたということで喜んでいる。これは<バンドのための交響曲(Symphony for Band )>というサブ・タイトルを持つことになるだろう。
 アリゾナのバンド(テ−プの演奏者)は、最終楽章のエンディングを完全にやり遂げていない。キミは正しい。しかし、ボクは曲を改良する必要はないと思う。実際、ボクは最終楽章にワザとウィンド・マシ−ンを使わなかった。最終楽章が "風" を表現した音楽であることはあまりにも明白(ボクはそう感じるのだが)で、 "風のようなサウンド" の音楽ではないことも明らかだ。この点で、それは他(の楽章)とは違っている。たとえば第3楽章、これは音の絵画(Sound-Picture) だ。今度のことは音楽についての最も興味深い事柄のひとつを明らかにした。すなわち、音楽はディスクリプティブ(叙述的)なのか、イミテイティブ(模倣的)なのか、ということを。」(4/4 付け通信)

"こいつはおもしろい!!" これまでのフィリップとのやりとり(送られてきたスコアや、その後に届いた世界初演のプログラムなどの資料も含めて)の中には "SYMPHONY" という文字はまったく見られなかった。しかしながら、4楽章構成のこの作品は、なるほど "交響曲" とサブ・タイトルをつけるにふさわしい内容をもっている。いいアイディアだ。 "シンフォニ−" 。この言葉を使うだけでウィンド・ミュ−ジックの世界に新風を巻き起こすに違いない。また、筆者の初演への不満表明に対してのフィリップは作曲家として思うところを真摯に答えてくれた。
 筆者は久しぶりになんとも言えない "いい気分" に浸っていた。

......つづく

 
 
(c)2001,Yukihiro Higuchi/樋口幸弘
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