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樋口幸弘の「ウィンド楽書(ラクガキ)ノ−トファイル」
ファイル・ナンバ−04
ベルト・アッペルモント:ノアの箱舟
NOAH'S ARK (Bert Appermont)
File No.04-06 :< 箱舟伝説 >

ベルト・アッペルモントの「ノアの箱舟」は、そのタイトルのとおり、聖書に出てくる有名な "ノアの箱舟" のスト−リ−を題材にした作品で、連続して演奏される4つの音楽からなっている。曲全体の導入部を構成する第1曲 "お告げ" は、ノアが "箱舟" を作るようにとの神託を授かる場面の音楽で、マエスト−ソ、テュ−バのロングト−ンに乗ってトランペット(もしくはコルネット)がまるで "神が何かを告げている" かのようにテ−マを歌いだし、それにユ−フォニアムが呼応して始まる。作曲者の師ヴァンデルロ−ストゆずりの節まわしが顕著に聴かれるこの部分は、わずか18小節で終わり、それに続いてまったく気分が違う第2曲 "動物たちのパレ−ド" が始まる。ピウ・モッソ〜メノ・モッソ〜アンダンテと展開するこの音楽は、ノアの呼び掛けに応えて、動物たちが三々五々集まってくる場面の音楽で、動物たちの歩みが楽しげであり、ユ−モラスでもある。(それにしても、今も昔も "人間たち" はどうして........。)
 つづく、プレスト・フリオ−ソの第3曲 "嵐" はこの曲のハイライトだ。 "お告げ" にあった嵐と大洪水の場面を表現した一種の描写音楽で、シンセサイザ−もしくはウィンド・マシ−ンなどを使っての "暴風" が吹き荒れ、音楽も荒れ狂う。しかし、その表現手法はコンテンポラリ−・ミュ−ジックのそれではなく、まるでハリウッドの冒険映画のスクリ−ン・ミュ−ジックであるかのようなオ−ケストレ−ションとなっている。かのジョン・ウィリアムズの「E.T.」や「インディ・ジョ−ンズ」の音楽のように。
 音楽をしめくくる第4曲 "希望の歌" は、嵐を乗り越えたノアや動物たちが水の引いた大地に戻って新しい生活をはじめる場面の音楽。アダ−ジョでクラリネットが "希望" のテ−マを歌いだし、再建への槌音はバンド全体へと広がっていく。やがて、第1曲のテ−マが戻ってきて、まるで "昔むかし、こんなことがありましたとさ" と語りべが語っているように、音楽は忘却のかなたへと消えていく。このあたり、師のヴァンデルロ−ストの大の親友であるオランダの作曲家ヨハン・デメイ(Johan de Meij) の交響曲第1番「指輪物語(The Lord of the Rings) 」の第5楽章 "ホビットたち(The Hobbits)" に共通するアイディアが使われている。

▲アララト山
▲ライフマガジン 1960/9/5号より

聖書によると、ノアや動物たちを乗せた "箱舟" は、何日も続いた嵐が過ぎ去った後、アララト(Ararat)という場所に漂着したという。そして、現実の世界でも、トルコのアララト山(現在はトルコとイランの紛争地帯となっているために立入り禁止)の山中で、トルコ軍の調査隊が "舟" のかたちをした巨大な木造構造物を発見したというニュ−スが世界を駆けめぐり、写真も公表され、さらにアメリカでも "大きな舟の形状をしたもの" の存在を航空写真で確認したと報じられて大騒ぎとなったことがある。いつも外国の地名をチェックするときに使っている世界的に著名な地名辞典 "ニュ−・ウェブスタ−地名辞典(Webster's New Geographical Dictionary)" を見ても 、"Ararat" の項目に "ノアの箱舟の伝説上の漂着場所(legendary landing place of Noah's Ark)"という記述があって本当にビックリさせられる。この作品のテ−マは、キリスト教世界に生きる人々にとってそれほど身近な存在なのだ。そして、その伝説的スト−リ−をさらに身近にし、理屈なく楽しませてくれる作品、それがアッペルモントの「ノアの箱舟」というわけだ。

 はじめてこの曲を耳にしたときから思っていたが、この音楽は、映画やテレビ・ドラマなどのビジュアル用のバック・グラウンド・ミュ−ジックとしても使えるかも知れない。聴けば自然と "映像" が浮かんでくるからだ。そして、聴く回数を重ねるごとにイメ−ジはどんどん脹らんでいく。また、各シ−ンのメロディ−が耳に残るのもポイントだ。
 作曲者のアッペルモントは、現在 "映画とテレビのための音楽デザイン" の修士号をとるべくロンドンに留学中だ。さもあらん。ウィンド・ミュ−ジックのジャンルで初めて名前を知ったこの作曲家は、ひょっとすると、近い将来、映画音楽のシ−ンでも名前を知られるようになるかも知れない。そんな予感がする。
 2000年は、佼成出版社の「ヨ−ロピアン・ウィンド・サ−クル」第5集(KOCD-3905)のレパ−トリ−としてこの作品のレコ−ディングを提案し、ダグラス・ボストックの指揮による東京佼成ウィンドオ−ケストラの演奏で、国内初レコ−ディングも実現できた。聞くところによると、今、多くのバンドがこの作品の演奏準備に入っているという。そして、今度手にした新作「ガリバ−旅行記(Gulliver's Travels)」も、2001年2月に大阪市音楽団によるレコ−ディング(CD:大阪市教育振興公社、OMSB-2807 /2001年4月発売予定)が決定した。ベルト・アッペルモント。若く煌めく才能に乾杯!

 
 
(c)2001,Yukihiro Higuchi/樋口幸弘
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