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樋口幸弘の「ウィンド楽書(ラクガキ)ノ−トファイル」
ファイル・ナンバ−04
ベルト・アッペルモント:ノアの箱舟
NOAH'S ARK (Bert Appermont)
File No.04-04 :< 開 花 >

 

「ノアの箱舟」の作曲者ベルト・アッペルモントから、写真と詳しいプロフィ−ルが入った手紙(1999年12月8日付)が届いた。写真に写っている人物は、とっても若々しい。手紙の書き出しは、<Dear Higuchi-san(ディア−・ヒグチさん)>。 "〜さん" という書き出しから、彼の周辺にちょっとした "日本通" がいることが想像できる。ひょっとすると、師のヴァンちゃん(Jan Van der Roost) あたりから教わったのかな?などと思いながら、さっそく内容に目を通す。
 手紙の1枚目の便箋には、作曲家として自分の作品に興味を示しくれた筆者への感謝の言葉に始まり、自分のやってきたことと将来への方向性をよく理解してもらうために遠慮なく何でも質問してほしい、というお決まりの挨拶文が書かれていた。2枚目には詳しいプロフィ−ルがプリントされてあったが、筆者の目は、それよりもまず、便箋の上部にレタ−・ヘッドのように印刷されている筆者不詳のつぎの引用文をとらえていた。


"a combination of different aspects of van der Roost's and De Meij's superb wind band music,with strong emotion depth and colourful orchestration"
(ヴァンデルロ−ストとデメイの一流ウィンド・バンド・ミュ−ジックがもつ違った一面を結合させたものであり、説得力をもった情緒的な奥行きの深さと色彩豊かなオ−ケストレ−ションを有している。)


ここに引用された一文がアッペルモントのどの作品に対して書かれた寸評なのかはわからなかったが、「ノアの箱舟」やトロンボ−ン協奏曲「カラ−ズ」を何度も聴いたあとだったので、この批評者が言わんとしていることは手にとるようにわかった。そして、この文章はアッペルモントのお気に入りなんだろう。そうでなきゃ、自身のプロフィ−ルの前にわざわざこんな引用を載せるはずがない。いや、それどころか、この引用は、アッペルモントがまだ20才台半ばというのにすでにヴァンちゃんやデメイというヨ−ロッパのビッグネ−ムと比較されるほどの評価を与えられているという作曲家としての "ステ−タス" の証しであり、 "自信" の表明ともとれるのだ。コリャ、本当に凄い!?

「アリババの伝説」
「クエスト」
収録CD「CECILIADE」

「アリババの伝説」スコア

そんなことを考えながら、先にBeriato 社のベン・ハ−ムホウトス(Ben Haemhouts) が送ってくれたスタディ−・スコアやCDをプロフィ−ルとつき合わせることにした。

 プロフィ−ルにあるアッペルモントのウィンド・バンド作品は、まず、友人のフランク・ヴァンバ−レン(Frank Van Baelen)と共作のかたちをとった「クエスト(The Quest) 」と「アリババの伝説(The Legend of Ali-Baba)」の2作。「クエスト(冒険)」は、6分近い序曲で、日本のバンド・ファンの耳になじみやすいアメリカン・スタイルの構成とヴァンちゃんゆずりのフレ−ズがマッチした傑曲だ。「アリババの伝説」は、 "開けゴマ"の呪文でおなじみの "アリババと40人の盗賊" のスト−リ−に題材を求めた演奏時間13分半ほどの組曲で、第1曲 "秘密の財宝(The Secret Treasure)"に始まり、第2曲 "砂漠のものがたり(Tales from the Desert)"、第3曲 "40人の盗賊(The Forty Thieves)" とつづく3曲からなっている。いずれも、ディルク・デカルヴェ指揮、ベルギ−王国ゼ−レ聖セシ−リア吹奏楽団演奏の"Ceciliade"(Beriato、WSR 002、1998年制作)というCDに入っているが、共作ながら「ノアの箱舟」や「カラ−ズ」で聴かれるアッペルモントのカラ−はすでに随所に表れていて、とくに「アリババの伝説」におけるドラマチックな展開は、その後エポック・メ−キングな作品となる「ノアの箱舟」に至る過程を検証できるようでとてもおもしろかった。
 

「めざめ」収録CD
「A Tribute To Adolphe Sax」

「リオネッス」
収録CD「Forza」

つづく、「めざめ(The Awakening) 」とコンサ−ト・マ−チ「リオネッス(Leonesse)」の2曲は共作ではなくアッペルモントが独自の作品を書くようになってからの作品。前者の「めざめ」は、スネアが刻むキビキビとしたミリタリ−調のリズムの中に提示されるひとつのテ−マを幾度となく繰り返していく中で発展させていく5分程度の作品。ウィンド・バンドによる完全な音源がない(後日、ファンファ−レ・オルケスト "アドルフ・サックス・アンサンブル" 演奏の "A Tribute to Adolph Sax"というタイトルのすばらしいCDが発売された。Beriato、WSR 007、2000年制作)が、ラヴェルの有名な「ボレロ」と同じ着想(といっても物真似ではない)からインスピレ−ションを得て書かれたすばらしいコンサ−ト・アイテムで、音楽はヴァ−グナ−のあの「エルザの大聖堂への行列」のように放物線のように盛り上がっていき、演奏効果バツグン。独立して曲を書くようになって、アッペルモントの才能も一気に開花した印象だ。
  "ア−サ−王伝説" をテ−マにしたコンサ−ト・マ−チ「リオネッス」も完成品。何といっても「スタ−・ウォ−ズ」や「ス−パ−マン」の音楽を書いたジョン・ウィリアムズばりのカッコ良さがとってもいい。こちらは、スティ−ヴン・ヴェルハ−ルト指揮、ベルギ−王国ヴォメルヘン "デ・エンドラハト" 吹奏楽団演奏の "Forza"というタイトルのCD(Beriato、WSR 004、1999年制作)があるが、これがちょっとC調。多分に指揮者の責任で、演奏を聴いていて「エ−イ!!もうちょっと、なんとかセ−!!」と言いたくなる箇所があるのだが、すぐにでも映画のサウンド・トラックに使えそうな曲の "カッコ良さ" ゆえについつい何度も繰り返して聴くハメとなってしまった。(その後、このCDは、一日16時間労働というハ−ドな毎日を過ごしている筆者にとって、貯まりに貯まったストレスを思いッきり発散させるために欠かせない "座右の1枚" となってしまった。そして、今日もまた、CDに向かってわめいている。「なんとかセ−!!」)
 アッペルモントのプロフィ−ルの最後を飾っていたのは、「ノアの方舟」とトロンボ−ン協奏曲「カラ−ズ」の2曲。多くの評者が認めた話題の2曲だ。楽譜はすべてBeriato 社から出版されている。もっともっと彼のことを知りたくなった。


......つづく

 
 
(c)2000,Yukihiro Higuchi/樋口幸弘
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