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樋口幸弘の「ウィンド楽書(ラクガキ)ノ−トファイル」
ファイル・ナンバ−04
ベルト・アッペルモント:ノアの箱舟
NOAH'S ARK (Bert Appermont)
File No.04-02 :< 推 薦 状 >

 

1999年10月、ベルギ−の友人から1つの郵便物が届いた。それには、つぎのような内容の手紙(10/10付)とともに1枚のCDが同封されていた。

 

 

 



 「......同封のCDをご覧ください。それは "王立アントワ−プ音楽院" のウィンド・バンド(Harmonieorkest Conservatorium Antwerpen) によって作られたものです。......私はこれはNHKで放送されるに値するCDだと思います。もしあなたに大切に扱っていただけるならば感謝に耐えません。これは彼らの初めてのCDですが、これを作ったことは彼らを大いに勇気づけることになりました。
 とくに "ノアの箱舟" と "カラ−ズ" を書いたベルト・アッペルモントの作品は、日本でももっと知られる価値があると思います。彼は、若いがとても才能ある作曲家であり、"レマンス音楽院(Lemmensinstituut)" で "ウィンド・バンド指揮法" を学び、さらにイギリスで音楽の勉強をつづけています。......」



長い間、海外の音楽家とつきあっていると、自薦他薦を問わず、この種の "音源つき推薦状" はちょくちょく受け取ることがある。ちょっと "訳あり" なので送り主の名前は明かすわけにはいかないが、この推薦状は、ベルギ−では立派な音楽家、そして教育者としてとてもよく知られている人物からのものだった。先方は、筆者が個人的な事情からほとんどすべての音楽活動から身を引き、NHK−FMの番組「ブラスのひびき」も降板したことも知らずにこのCDを送ってきたわけだ。(海外の友人すべてに事情を話したわけではなかったので......)
 相手がとても大切な友人だったこともあるが、推薦状の "書きっぷり" も気になったので、このCDは、余裕をもって聴くことができる時間がとれる日まで聴かないでとっておくことにした。昼間の仕事(ほとんど肉体労働)中の "BGM的流し聴き" やそれを終えた後の "ボケボケの耳" で聴くなんて失礼なことはとてもできないと思ったからだ。
 CDを聴いたのは、それから20日以上たった11月のことだった。CDの1曲目は、わが国でもおなじみのヤン・ヴァンデルロ−スト(Jan Van der Roost) の「クレデンティアム(Credentium)」だった。その演奏を聴いてまず思ったのが、指揮者ディルク・デカルヴェ(Dirk De Caluwe)のバンド・コントロ−ルのすばらしさと、ブレンドされたサウンドがとても耳ざわりのいいことだった。演奏者の個々のレベルもひじょうに高い。

ヴァルタ−・ブイケンス

一般的に、そのア−ティストにとって最初のCDは、すべてがいい方向に流れる傾向にある。それは、世界的に有名なクラリネット界の大御所ヴァルタ−・ブイケンス(Walter Boeyken /大のビ−ル党で、彼が日本などへ演奏旅行を行なうときなどは、地元ビ−ル・メ−カ−がスポンサ−になるほどだ!?つまり、それほどよく飲む!?彼の国で夕食に招かれた際も、強いことで有名な地元ベルギ−のビ−ルをあたかも "水" のように飲んでいた!?)がわざわざこの "若者たち" の企画に参加していることでもわかる。CDのクレジットを見ると、その他にヴァンデルロ−ストを含む3人の作曲家と1人のオ−ケストラ奏者が監修者として加わっていて、このCDの支援者たちの "熱意" も半端じゃないことがよくわかる。演奏者も "ガンバル" わけだ。バンドと適度な距離感がある録音もひじょうに音楽的な印象だ。
 そして、"推薦状" に特記されていたアッペルモントの2曲から、まずは4曲目に入っている「ノアの箱舟」を聴く。聖書に出てくる有名なスト−リ−に従って、"お告げ(The Message)"〜 "動物たちのパレ−ド(Parade of the Animals)"〜 "嵐(The Storm)"〜 "希望の歌(Song of Hope)" とタイトルがつけられた連続して演奏される4つの部分からなる10分ちょっとの作品だ。
 その第一印象は、とにかく "わかり易い" ことだった。そして、誰もが知っている「ノアの箱舟」のスト−リ−がそのものズバリの音楽として描かれている!!この種のタイトルがつけられる音楽にありがちな "もってまわったような説教調" や "古めかしい宗教色" もなく、モティ−フを見事に処理し構成上も見事な起承転結を見せている。ウィンド・マシ−ンを含め打楽器が多用され、現代的でかつドラマチック。ビジュアルさえつければ、即 "映画音楽" として使えそうな音楽だ。とは言っても、黛 敏郎の「天地創造」のような世界ではなく、もっとメルヘンの世界だ。加えて、アッペルモントという作曲家がすばらしいメロディ−・メ−カ−であることがとても印象的だった。作曲家としては、少なくともヤン・ヴァンデルロ−スト、ヨハン・デメイ、それにジョン・ウィリアムズの影響があるように感じられた。とにかく、これだけ音楽を "簡単" に聴かせてしまう作曲家との出会いは久しぶりで、正直興奮を覚えたというのが偽らざる感想だった。
 ついで、最終トラックに入っているトロンボ−ン協奏曲「カラ−ズ」。ドイツのバンベルク交響楽団の首席トロンボ−ン奏者ベン・ハ−ムホウトス(Ben Haemhouts) とのコラボレ−ションを経て完成されたこの作品は、さらにグレ−ドの高い作品であり、アッペルモントの作曲家としてのさらなる "飛躍" を示している。また、「ノアの箱舟」で感じた稀代のメロディ−・メ−カ−の印象はさらに深まった。 "イエロ−(Yellow)""レッド(Red)""ブル−(Blue)""グリ−ン(Green)"という4つのカラ−(色)がタイトルとしてつけられている4つの楽章からなるこのすばらしい協奏曲については、またファイルをあらためる機会があるだろう。ハ−ムホウトスのソロ・ワ−クも "ブラボ−もの" のライヴ感があり、さらなる興奮を覚えたことを書き留めておきたい。

 さて、推薦状の言わんとすることは分かった。しかし、音楽活動の第一線からリタイアした筆者にできることは何があるんだろうか?けど、なんとかしたいナァ−。アレコレ考えていたちょうどそんな折りも折り、大阪市音楽団(市音)プログラム編成委員、田中弘(たなか ひろむ)さんと延原弘明(のぶはら ひろあき)さんのふたりから市音自主企画CD "ニュ−・ウィンド・レパ−トリ−2000"(大阪市教育振興公社、OMSB-2806)の選曲について相談をもちかけられた。そこで、筆者は、取り急ぎCDを持参してミ−ティングにのぞみ、他の何曲かと一緒に音源を渡してまずは委員全員で聴いていただくことにした(File No.02-02 参照)。
 その結果は、種々の収録上の条件から、CDレパ−トリ−としては惜しくも選に洩れたものの、後日、田中さんから「 "ヘェ−、こんな曲あるんや!?さすが、エエ(いい)曲知ってはる(らっしゃる)" って言って、みんな結構気に入ってましたよ。」と聞いて、まずは一安心した。
 しかし、今後どこかに「こんな曲あるんだよ。」と話をするにせよ、あまりにも情報不足だ。最終的に本人に直接コンタクトを試みるために、まずは出版社サイドの対応を知らねばならない。そこで、年末12月に件の "推薦状" を送ってきたベルギ−の友人にCDの印象とアッペルモントの作品についての感想を書き送った際、「出版社の責任者にいろいろ聞きたいことがあるので、コンタクトしてほしい。」と頼むと、喜んだ友人からもすぐに「了解した。」という打ち返しがあり、先方からの連絡を待つことになった。
 そして、その返事は、ベルギ−からでなく、意外な国から来た!?!?!?

......つづく

 
 
(c)2000,Yukihiro Higuchi/樋口幸弘
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