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樋口幸弘の「ウィンド楽書(ラクガキ)ノ−トファイル」

2000年1月、オランダの音楽出版社de haske(デ・ハスケ)から、かねてより発注していた「大仏と鹿」の出版スコアが入ったパ−セルが届いた。
 早速、封を切って中身を確認する。「ア、ア−ッ!? !? !?」手にした新しいスコアの表紙を見て、筆者は、思わずズルッとイスから滑り落ちそうになるくらい、オ−バ−なアクションでズッコケてしまった。吉本新喜劇でおなじみの定番ギャグのように。
 そして、事件は美しく印刷されたスコアの表紙、まさにその上で起こっていた。なんと曲名が、こともあろうにロ−マ字(!?)で印刷されていたのだ!!<DAIBUTSU TO SHIKA>と・・・・。すなわち、「たなばた」「おおみそか」の前2作につづいて、今度もまたまた、出版タイトルは作曲者の意向とは別物になってしまったのだ。
 それにしても、作曲者があれほど「これしかない。」と言い、当然出版社にも伝わっていたはずの「GREAT BUDDHA AND DEER」は、一体どこへ行ってしまったのだろうか。慌ててスコアのペ−ジをめくる。
 まず、開いて最初に目に入る中表紙には<Commissioned by the Nara Prefecture Band Association for their 40th Anniversary >と<奈良県吹奏楽連盟結成40周年記念委嘱作品>の英語と日本語の説明句。それにつづいて、ロ−マ字と漢字による曲名、作曲者名が印刷されている。さらにペ−ジをめくると、ついに発見"Great Buddha and Deer"という文字は、作曲者のプロフィ−ルを紹介したペ−ジの作品リストの中にあった。面白いことに、同じリストの「たなばた」が "Tanabata(The Seventh Night of July)"、「おおみそか」が "Omisoka(New Year's Eve)"となっているのに、その流れだったら当然そうなっているべきはずの "DAIBUTSU TO SHIKA"の文字は見当らなかった。また、つづく作品ノ−トのペ−ジには両タイトルが混在。印刷著作物としての統一はなく、ちょっとした混乱が見てとれた。そして、これらの事実から、このスコアは、最初、作曲者の意向どおりに "Great Buddha and Deer"という曲名で印刷作業が進みながら、途中<何らかの理由>でロ−マ字タイトルに変更することになったが、最終的に細部まで目が行き届かなかった、ということが容易に想像できた。出版を急ぐ印刷物ではままあることだ(もちろん、未然に防ぐ努力は払われたのだろうが・・・・・・)。
 しかし、<何らかの理由>とは、・・・・・・。ムムム・・・・・・。筆者は、思わず頭を抱え込んでしまった。この一件の真犯人(?)は、またしても筆者なのかも知れない。つまり、思い当たるフシがあるのだ。
 それは、昨年(1999年)2月、スイスにいるde haskeのMr.Garmt van der Veen にこの曲のなるべく早い時期の出版とレコ−ディングを勧めたときのやりとりにまで遡る。
 そのとき、ある程度予想されたことだったが、ハルムトはこちらの案件に対する返答だけでなく、「イタル・サカイの今度の新曲は、日本語ではどう読むのか?タイトルは本当にこれでいいのか?また、"Great Buddha"とは何なのか?」と尋ねてきていたのだ。西洋人にとって "大仏" と "鹿" を組合せているタイトルがよく理解できなかったのだろう。戸惑っている様子がアリアリだった。これに対し、筆者は「漢字(ハルムトはこれを "サイン" と表現する)を使ったオリジナル・タイトルは、日本語では "DAIBUTSU TO SHIKA"と読む。しかし、あなたも知ってのとおり、アルファベット・タイトルは作曲者がすでに "Great Buddha and Deer"と決めている。奈良県の吹奏楽連盟の40周年記念委嘱作品でもあるし、タイトルの変更は馴染まない。」と、まず予防線を張った。なぜなら、この出版社は曲のイメ−ジから出版時に曲のタイトルをガラリと変えることが過去に何度もあったからだ。今度は犯人になるわけにはいかない。筆者は、幾重にもクギをさしたその上で、「 "Great Buddha" も "Deer" も、かつて日本の都だった奈良を象徴するシンボルだ。もし、どうしてもイメ−ジできないのなら、ベルギ−のヤン(Mr.Jan Van der Roost)に尋ねたらいい。彼は奈良に行って実際に "現物" を見ているし、外国人向けの観光案内も持っているから。」とアドバイスした。
 このやりとりを受けて、ハルムトはすぐにヤンに連絡をとったようだ。同じその日の内に「今、ハルムトから電話があった。」という内容のFAXがヤンから届いた。日本→スイス→日本→スイス→ベルギ−→日本。レコ−ディングの方も、4月に予定されていたリトアニアでのセッションに急遽組み入れられた。地球は狭い!!
 しかし、しかしである。実際に出版された「大仏と鹿」のアルファベット・タイトルは<日本語タイトル>をストレ−トに読んだ<ロ−マ字タイトル>がメインとなってしまった。作曲者が決めた "Great Buddha and Deer"は、最終的に実際に音符が印刷されている最初のペ−ジには残されたものの、でかでかと印刷された "DAIBUTSU TO SHIKA"のすぐ下に、あたかもその説明句であるかのような小さな活字で・・・・・・・・。
 今度、酒井さんに会ったとき、この一件をどう切りだせばいいのだろうか・・・・・・・・。

                                   ......つづく

 
 
(c)2000,Yukihiro Higuchi
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