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樋口幸弘の「ウィンド楽書(ラクガキ)ノ−トファイル」
File No.01-06 : < 金 賞 >

古くからの友人のひとりに、現在、東京の武蔵境で歯科医院を開かれている山崎武久さんがいる。氏はLP時代からの筋金入りのウィンド・ミュ−ジックのファンであると同時に、レコ−ドやCDの蒐集家である。また、中高一貫教育で知られる東京の巣鴨学園吹奏楽班のOB会会長もつとめられている好人物で、現役時代はストリング・バスを弾いておられたのだそうだ。仕事で東京に出たときには、練馬のお宅にもちょくちょくお邪魔させていただき、音楽談義にあれこれ花を咲かせた間柄だ。あるときなどは、お邪魔したその場に指揮者のアントニン・キュ−ネル氏が居合わせていて少々面食らったこともあった。診療中にも、マルセル・ミュ−ルやロイヤル・エア・フォ−ス・バンドのCDが何気なくBGMで流れていることがあったりするから、やはりただものではない。
 さて、NHKのコンク−ル番組の収録から何日かたったとき、氏と電話で話す機会があった。そして、「何かおもしろいことありませんか?」と尋ねる氏の問いに対し、「関東ではまだ誰も聴いたことがない音楽が今度FMでオン・エアされますよ。」といつものように軽く答えた。すると、電話越しに氏の声のト−ンが上がったのがはっきり分かった。そして、「それって、一体何ですか?」と切りこんでくる。
 「例の "たなばた" や "おおみそか" に続く、同じ作曲家の新作 "大仏と鹿" ですよ。もっとも番組テ−マとして使わせていただくことになっていますので、本当は7分くらいの曲なんですが、放送されるのは頭から1分少々くらいになりますけどね。」と答えて、放送日、時間などを伝えると、「ぜひ、聴きます。」との興奮気味の返答。受話器の向こうで目を輝かせておられる氏の姿が容易に想像できた。
 放送の翌日、早速、電話がくる。そして、「イヤ−、テ−プに録音してみんなで盛り上がりましたよ。ぜひとも演奏したいと思うのですが、どうすれば楽譜が入手できるでしょうか。」と質問がくる。やっぱりきたか。
 最初に話したときの氏のボルテ−ジから、そんなこともあろうかと、このときまでに筆者はつぎの2つの手を打っていた。まず、出版する予定というオランダの出版社de haskeへその時期を問いあわせると "1999年の秋" という回答がきた。つづいて、作曲者を通じて奈良県吹奏楽連盟へ "出版までの間、楽譜を貸し出したり、販売したりすることは可能かどうか" を打診してもらった。連盟加盟団体に配布された楽譜セットを作ったときの余剰分が必ず残されているはずだと思ったからだった。そして、睨んだとおり、楽譜の残部は、作品委嘱をした県の連盟に保管されていた。
 数週間後、連盟での協議をへて、このとき連盟が作って持っていた楽譜は、オランダで出版譜が発売されるまでの期間限定という条件つきで希望者に有料で貸し出されることになった。願っていたとおりの回答だ。しかも、有料といってもわずか¥5,000 という配慮の行き届いた料金!!どこかのレンタル譜とはエライ違いだ。
 知らせを受けた巣鴨学園の行動は本当に素早かった。早速、楽譜を発注して、それを受け取ると、この曲を吹奏楽コンク−ルの自由曲に使うことを決定!!しかし、後で聞いた話だが、指揮者でもある顧問の三嶋 淳先生は、その後、「いい曲が見つかった」といって喜んでいる周囲の盛り上がりをヨソに、ひとりスコアを睨みつけながら悩まれていたんだそうだ。というのも曲がいきなりの<8分の3拍子>で書かれていたからだ。「どのように譜割りをして指揮をすればいいんだろうか?」三嶋先生は、武蔵野音楽大学の出身で、サクソフォンのソロイストとしても何度もステ−ジを踏まれている経験豊かな音楽家だ。その先生も演奏を聴いたときには予想できなかった拍子で曲が書かれていたのだ 。

後に、この話を伝え聞いた作曲者は、「そうらしいですね−。でも、仕掛けさえ解れば簡単なんですけどね−。」と涼しい顔。このあたり、作曲者と演奏者の楽譜を通したバトルを見るようで、なんともおもしろかった。
 巣鴨学園吹奏楽班は、平成11年(1999年)8月17日、東京都府中市の "府中の森芸術劇場/どり−むホ−ル" で行なわれた第39回東京都高等学校吹奏楽コンク−ルA組1日目にこの新しい作品をひっさげて登場。見事金賞を得た。
 この年、地元奈良県でこの曲がコンク−ルに使われることはなかったが、奈良県吹奏楽連盟の記録によると、オランダで印刷された正式の出版譜が発売されるまでの貸し出し期間中に、巣鴨学園の他にもう1校、岡山県御津郡御津町の御津中学校吹奏楽部が楽譜を借り出ている(第40回岡山県吹奏楽コンクール、中学校B部門最優秀賞)。曲はこうして広まっていくわけだ。そして、出版譜が日本に入ってきた同じ年の秋以降、全国各地での演奏がいよいよ始まった。
 つぎに演奏されるのは、あなたのバンドかも知れない。


...つづく

 
 
(c)2000,Yukihiro Higuchi
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