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樋口幸弘の「ウィンド楽書(ラクガキ)ノ−トファイル」


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酒井 格の「大仏と鹿」の世界初演が盛り込まれた「奈良県吹奏楽連盟結成40周年記念/第26回奈良県トップバンドフェスティバル」は、1999年2月7日(日)、奈良県橿原文化会館大ホ−ルで午後1時30分に開演された。そして、この記念委嘱作品は、3部構成のコンサ−トの第2部、招待演奏のステ−ジで、大阪市音楽団名誉指揮者、木村吉宏が指揮する大阪市音楽団の演奏で多くのウィンド・ミュ−ジック・ファンに披露された。

 作曲者は、コンサ−トのプログラムにつぎのようなメッセ−ジを寄せている。

「このたびは、奈良県吹奏楽連盟結成40周年に寄せて、新しい作品を書かせていただいたことを大変光栄に、そして嬉しく思っています。1300年の歴史を持つこの古都には、貴重な文化財が数多くありますが、なかでも東大寺の盧舎那仏座像(大仏)と、奈良公園の鹿たちはこの街の象徴と言えるでしょう。重厚な歴史と伝統、未来への生命の躍動、そして恵まれたこの地の風景、この街で暮らす人のエネルギ−。私はこれらをヒントに4つの主題を導き出し作品を構成しました。
 もっとも作曲を進める上では、若い演奏者たちにも楽しんで演奏ができるよう、そしてコンク−ルに向けてある程度の時間をかけてこの曲に取り組むときに、常に新しい発見があるようにと、心がけました。この作品が、奈良を発信地として、世界中で愛奏されるようになることを夢見ています。
 最後になりましたが、作曲の機会を与えて下さった奈良県吹奏楽連盟。初演をして下さる大阪市音楽団の皆さんと木村吉宏先生に、心より感謝いたします。    酒井 格」
(「第26回奈良県トップバンドフェスティバル」プログラムから。)

同じプログラムには、作品委嘱時に提示された条件(抜粋)も掲載されている。これがこの作品の演奏技術上の中身を決めていてなかなかおもしろい。


 「中高生が楽しんで演奏でき、また、夏のコンク−ルでも使用できるものであること。難易度は、5段階で、3〜4とする。全日本吹奏楽連盟が公募する「全日本吹奏楽コンク−ル課題曲」に準じた編成とする。ただし、25〜30人程度のいわゆる小編成バンドでも演奏可能な楽曲であること。そのため、Oboe、Bassoon、String Bass等の楽器が単独の動きを行う場合は、必ず他の楽器にCueを入れておくこと。また、打楽器の場合は、5〜6人程度であるが、4人でも演奏可能なように配慮する。もしくは、人数を減らす場合の方法を明記すること。」(同プログラムから。)

 曲は、アレグロ・ヴィヴァ−チェの提示部に始まり、途中アンダンティ−ノにテンポを変え、ブリッジ的な導入からリステッソ・テンポへと展開してユ−フォニアムやクラリネット、オ−ボエ、フル−ト、アルト・サクソフォンの各ソロがフィ−チャ−されている穏やかな中間部を挟んだ後、元のテンポを取り戻して再現部となり、クロ−ジングをプレストでしめる比較的シンプルな構造をもっている。作曲者に尋ねると、4つの主題は曲中つぎのように現われる。まず、イントロのようにも聴こえる曲の冒頭のテ−マ、これが「奈良に暮らす人々のエネルギ−」を表現し、曲中もっとも多く現われる。つづいて、曲は少しのびやかに歌われる部分が移るが、この部分で「奈良の情景のイメ−ジ」を表している。その後、ティンパニのトレモロにつづきトランペットのユニゾンで現われるのが「大仏」のテ−マ(市音の初演では、トランペット6本で演奏された!!)で、つづいて「鹿」が跳躍を伴って現われる。このパッセ−ジは "子鹿が戯れる様子" を表現したもので "曲の終わりに向かって楽しい気分を盛り上げる大切な役割を果たしている" という。
 「大仏と鹿」という漢字が入った曲名から、いかにも純和風の作品をイメ−ジする向きも多いかも知れないが、そうではなく、委嘱者の40周年を意識した祝賀調の華やかなム−ドをもつと同時に、その一方でまるでディズニ−・アニメのメルヘンの世界をのぞいているようなファンタスティックな気分にさせられる作品だ。

曲目プログラムはこちらをクリック


仕事上の都合から、ご招待いただいたにも拘らずコンサ−トに顔を出すことは適わなかったが、コンサ−ト終了後、酒井さんから初演成功の知らせとともにお願いしていた件に関する返答を電話でいただいた。それによると、CDの制作は残念ながら取り止めになったけれど、放送で紹介されることは連盟としても大歓迎で楽団サイドも快く了解してくれたという。録音テ−プは、後日、連盟の副理事長をつとめられている奈良県立志貴高等学校の山瀬真美先生から送っていただく手筈となった。
 2月18日、「大仏と鹿」のDATテ−プが届いた。インデックス・カ−ドに書き込まれている演奏タイムは[6分55秒]。早速、テ−プを再生する。木村吉宏指揮、大阪市音楽団ならではの沸き立つようなライヴがヘッドホンを通じて伝わってくる。聴いていて元気が出てくるとても切れ味のいい演奏だ。他方、世界初演を聴く会場内の空気の微動もよく録れていたが、逆に会場ノイズ、とくに曲の中間にある緩やかな部分でのノイズがかなり気になった。しかし、少し手を加えればFM放送では問題にならない程度のノイズに小さくできるという結論に達した。
 テ−プを聴いた印象が薄れないうちに、早速ワ−プロに向かう。通常、NHKへの提案は、最初に中核になる曲を1曲決めて文章で提案の趣旨を説明し、それが了承された後、秒単位のタイムの入った具体的な曲目一覧を提出する。これはその最初の趣旨説明だ。
 「以前番組で取り上げて大好評を博した "たなばた""おおみそか" の作曲者、酒井格の待望の新曲 "大仏と鹿" が2月に世界初演された。番組では、そのライヴ演奏を中核に据えて・・・・・・」とワ−プロがカタカタと提案を打ち出していく。
 まとめ上げた提案は、早速FAXで担当ディレクタ−氏に送られた後、提案会議を経て了承され、あとはスクリプトを完成させ、東京・渋谷のNHK放送センタ−での収録を待つばかりとなった。
 ところが、ここに大ドンデン返しが待ち受けていた。

...つづく


 

 
 
(c)1999,Yukihiro Higuchi
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