吹奏楽マガジン バンドパワー 吹奏楽マガジン バンドパワー
【コラム】

富樫鉄火のグル新
第99回 書評『谷川雁 永久工作者の言霊』

ツィッターほど短くもなく、ブログほど個人的でもない、
同じような話題をグルグルめぐるけど、基本は最新の話題。グル新。

バックナンバーは最下段「目次ページへ」からお入り下さい)
*本文に埋め込みリンクがあるので、カーソルでなぞりながらお読みください。

『谷川雁 永久工作者の言霊』
松本輝夫著
平凡社新書 880円+税

 


■『白いうた 青いうた』の予感
 谷川雁(1923〜95)は、1950年代、『大地の商人』『天山』などの詩集で注目を浴びた。だが58年、「工作者」となって福岡の炭鉱で「サークル活動」に身を投じ、「私のなかにあった『瞬間の王』は死んだ」と宣言して詩作を休止する。その後、語学教育機関「ラボ教育センター」に重役として参画するが、組合と対立して“追放”。以後は「ものがたり文化の会」を主宰し、児童文化活動に入った。

 「詩人」谷川雁の本格復活は1989年だった。作曲家・新実徳英と組んだ、合唱曲集『白いうた 青いうた』シリーズ(略称『白青』) のスタートである。先に書かれた旋律に、あとから谷川が詩をあてた。中国残留孤児の悲しみをうたう《北のみなしご》、「卒業」の二字が一度も出てこない《卒業》など、宝石のような名曲が、月に一曲ずつ、音楽教育専門誌に発表されていった。作曲者も「一体どのような発想からこの詞が生まれたのか」(注)と驚いた。“メタファーの達人”は不滅だった。全100曲を目指したが、残念ながら、谷川の逝去で、53曲で終わった。

 本書は、学生時代に出会った谷川を追うようにラボに入社、以後、会長までつとめ、退社後は谷川雁研究会(雁研)を主宰する著述家が綴った、コンパクトにして濃厚な評伝である。特にラボ時代を含む「沈黙時代」にかなりの分量が費やされており、本書の主目的もそこにあるようだ。

 だが私は、上記『白青』が、谷川の「詩人」「工作者」人生の中で、どのような位置づけにあるのかを知りたくて手にとった。ところが『白青』にまつわる記述は皆無。それでも時折、はっとさせられた。西日本新聞社を解雇、日本共産党を除名、ラボ役員を解任――彼の生涯は「追放歴」に彩られていた。名曲《二十歳》の「子犬よ わらえ/何にもないはたち/パン屋の匂いから/逃げてきたおれを」は、そんな「追放歴」を自ら嗤っているのではないか。寄稿集『私の尊敬する人』であげた、長崎・浦上の名も知らぬ老婆は、《島原》《八月の手紙》につながるのではないか。あるいは「ものがたり文化の会」時代の、宮沢賢治への思いが《北極星の子守歌》《アルデバラン》を生んだのではないか。
 
  読んでいると、『白青』が谷川の「自伝」のような予感を覚えた。著者は、あとがきで、新書のコンパクト性ゆえ「心残りは、晩年の雁が心血を注いだ『白いうた青いうた』について全く言及できなかったことだ。これはまた別の機会を期すほかない」と述べている。ぜひ次作で解き明かしていただきたい。(敬称略)

(注)『うたの不思議 「白いうた 青いうた」の秘密』新実徳英(2009年、音楽之友社刊)より
※本書には、全曲ではないが、谷川雁による詩の解説も収録されている。

富樫鉄火(音楽ライター)
FMカオン、毎週(土)23時〜「BPラジオ/吹奏楽の世界へようこそ」 パーソナリティもやってます。パソコンやスマホでも聴けます。


(2014.08.25)


※本稿の著作権は富樫鉄火が、出版権・公衆送信権はバンドパワーが独占しています。両者の許諾なく、出典元表記のない引用や、引用の範囲を超えた複写、コピー&ペーストを固く禁止します。
吹奏楽マガジン バンドパワー
吹奏楽マガジン バンドパワー
吹奏楽マガジン バンドパワー
 
 
 
 
 
 
jasrac番号吹奏楽マガジン バンドパワー