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【コラム】

富樫鉄火のグル新
第98回 「革命家」フランス・ブリュッヘン

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同じような話題をグルグルめぐるけど、基本は最新の話題。グル新。

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『涙のパヴァーヌ〜オリジナル楽器によるブロックフレーテ曲集1』
フランス・ブリュッヘン(ブロックフレーテ)、
ニコラウス・アーノンクール(ヴィオラ・ダ・ガンバ)、
グスタフ・レオンハルト(チェンバロ) 1965年11月録音


 1970年代、リコーダー(ブロックフレーテ)奏者として来日したフランス・ブリュッヘンのソロ公演は忘れられない。無造作に伸ばした長髪で、ラフなジャケットとネクタイ姿のままステージに登場した。椅子に座ると、長身を持て余すように背を丸め、長い足を組む(ステージ上で足を組む演奏家なんて、初めて見た)。確か靴も、いまでいうウォーキング・シューズみたいなカジュアルなものだったと思う。そしてリコーダーを斜めに構え、頬を膨らませながら吹いた。その辺を散歩していた外人が、ちょっと演奏したくなったので寄ってみた、とでもいうような雰囲気だった。古楽のイメージがガラリと変わった。

 彼の出す音は、どこか「不安定」だった。音色も曇っていて、学校で吹いていたリコーダーとは、あまりにちがう響きだった。合っているような、いないような、ふわふわした音程だった。どうやら古楽とはそういうものらしいと、初めて知った。

 バッハの≪無伴奏チェロ組曲≫をリコーダーで演奏したのも新鮮だった。その編曲譜が全音から出版され、私同様、多くのリコーダー小僧≠ェ買いに走ったものだ。アルト・リコーダー用の譜面のはずが、ヘ音記号で書かれていて仰天した。

  エイク/ダウランド≪涙のパヴァーヌ≫や、コレッリ≪ラ・フォリア≫などがポピュラー名曲になったのは、明らかに彼の功績だ。シェイクスピアと同時代に「涙の」なんて演歌みたいな題名の曲があったなんてこと自体、驚きだった。

 大ヒットしたLPアルバム『涙のパヴァーヌ』のジャケットを見ると、なんともいえない、懐かしい思いに駆られる往年のファンも多いだろう。あのころ、ブリュッヘンはクラシック界のヒーローであり、アイドルだった。大音量も、大人数も、派手なヴィジュアルも必要ない、革命は1本のリコーダーで成立する――そういっているようだった。少しあとにカラヤンがベルリン・フィルを率いて来日し、普門館でベートーヴェン交響曲の全曲演奏会を開催した。私はそちらにも行ったが。まったくちがう2人なのに、なぜか比較対照して、明らかにブリュッヘンのほうがカッコいいなどと思い込んだ。巨象が闊歩するクラシック界に単身挑む姿は、私には『忍者武芸帳』の影丸に思えた(外見も似ていた)。 

 1980年代に入ると、「もうテレマンは十分だ」みたいな意味の発言をして、18世紀オーケストラを組織し、指揮に移った。その後の業績、活躍ぶりはいまさら述べるまでもないが、相変わらず1人で闘っているように見えた。

 フランス・ブリュッヘンは最期まで革命家だった。
 (Frans Bruggen 2014年8月13日逝去、享年79)

 

富樫鉄火(音楽ライター)
FMカオン、毎週(土)23時〜「BPラジオ/吹奏楽の世界へようこそ」 パーソナリティもやってます。パソコンやスマホでも聴けます。


(2014.08.19)


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