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【コラム】

富樫鉄火のグル新
第97回 書評『音楽の進化史』
(産経新聞より再録)

ツィッターほど短くもなく、ブログほど個人的でもない、
同じような話題をグルグルめぐるけど、基本は最新の話題。グル新。

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『音楽の進化史』
ハワード・グッドール著、夏目大訳
(河出書房新社・本体3200円+税)

■「見てきたよう」な音楽史

 1960〜70年代は、レコード・コンサートが盛んだった。
 レコード会社が、発売直前の新譜LPを、ホールで、最新オーディオ設備を駆使して聴かせてくれるプロモーション・イベントである。
 そこでの解説者といえば音楽評論家の志鳥栄八郎さんだった。
 中高生だった私は、最前列に座って志鳥さんの解説に聞き入ったものだった。
 チャイコフスキーとフォン・メック夫人の純愛物語など、「見てきたよう」に語ってくれたのを思い出す。
 時折、面白すぎると感じたが、志鳥さんのおかげで、多くの人たちがクラシック音楽を身近に感じたはずだ。
 近年、その種の解説が少ないのが残念だが(私など、いつも「余計な話が多い」とお叱りを受ける)。

 本書は、太古の昔に誕生した音楽が、どのような変化を経て現在に至ったかを「見てきたよう」に語る「音楽物語」(原題)だ。
 著者は作曲家でジャーナリストだが、その筆致は息をも継がせない。
 まさに現代の志鳥栄八郎である。

 たとえば、モノフォニーの単旋律聖歌しかなかった13世紀、「どこかの大聖堂」で「一人の修道士」が、いたずら盛りの少年を聖歌隊に加えた。
 すると同じ旋律のはずなのに、少年のピッチが高いため「不思議な音程」となることに気づく。
 ポリフォニー(多声音楽)誕生の瞬間である。
 まるでタイムマシンで「見てきたよう」な描写だ。

 比喩も実に楽しい。
「西洋音楽の重要な到達点」である『ポッペーアの戴冠』は「人生のサウンドトラック」だそうだし、17世紀のシャコンヌの和音進行は、いま、アデルのポップス曲の中で生きているという。
最終章ではデヴィッド・ボウイがライヒやグラスなどの現代音楽を取り入れた話も登場する。

 私は、スマホ片手に、音楽配信サイト「ナクソス・ミュージック・ライブラリー」で登場楽曲を聴きながら読んだが、至福の数日間だった。
 翻訳も見事。
 頁を捲る間が惜しいどころか、次の文章に早く目を移したくてたまらなくなる。

 本書は、ぜひ音楽教師や、合唱部・吹奏楽部の指導者に読んでいただきたい。
 そして、気に入った逸話を生徒に話してあげてほしい。
 きっと何人かは、音楽が「人生のサウンドトラック」になるはずだ。

 今ごろ、天上の志鳥さんも微笑んでいるにちがいない。
 「見てきたような解説だって重要なんですよ」と。

【2014年8月3日付・産経新聞読書面より再録/一部加筆あり】

 

富樫鉄火(音楽ライター)
FMカオン、毎週(土)23時〜「BPラジオ/吹奏楽の世界へようこそ」 パーソナリティもやってます。パソコンやスマホでも聴けます。


(2014.08.11)


※本稿の著作権は富樫鉄火が、出版権・公衆送信権はバンドパワーが独占しています。両者の許諾なく、出典元表記のない引用や、引用の範囲を超えた複写、コピー&ペーストを固く禁止します。
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