吹奏楽マガジン バンドパワー 吹奏楽マガジン バンドパワー
【コラム】

富樫鉄火のグル新
第92回 チェロが加わった吹奏楽

ツィッターほど短くもなく、ブログほど個人的でもない、
同じような話題をグルグルめぐるけど、基本は最新の話題。グル新。

(原則、第一・第三月曜日〜火曜日かけて更新しています。
バックナンバーは最下段「目次ページへ」からお入り下さい)

 詳しい方にとっては常識だろうが、中学や高校の吹奏楽部員のみなさんにとっては、「吹奏楽にチェロを加える」と聞いたら、ちょっと意外に感じるかもしれない。

 吹奏楽とは、基本的に「管楽器」と「打楽器」による編成で、ここに、低音強化やピッツィカート効果を狙って「弦バス」を1〜2本、加えるのが標準である(余談だが、1983年のコンクール全国大会で、富山県立富山商業高校が、ドビュッシー《海》に5本の弦バスを登場させ、会場を驚かせたことがある)。

 ところが、欧米では、しばしば「チェロ」を加える編成が見られる。音域としては、テナー・サクソフォーン、アルト・クラリネット、ホルン、トロンボーン、ユーフォニアムあたりに重なるラインを演奏する。

 昔、「そんなら、高音部にヴァイオリン、中音部にヴィオラも加えれば、もっといい響きになるじゃないか」「バカ、それじゃ管弦楽だろ」なんてギャグを聞いたことがあるが、とにかく吹奏楽にチェロを加えると、中〜低音部が充実すると共に、たいへん、まろやかな響きになるのだ。

 かつて岩井直溥さんにインタビューした際、「どこのバンドも、チェロを加えてくれるようになると、音が豊かでまろやかになって、バラード調のポップスなどを演奏するとき、とてもいい響きになるんだけどねえ」と言っておられたのを思い出す。

 海外の吹奏楽団や軍楽隊には、最初からチェロを加えた編成もあって、よく例に出されるのが、クロード・トーマス・スミスがワシントン空軍バンドのために書いた《フェスティヴァル・ヴァリエーションズ》や《華麗なる舞曲》など。このバンドには最初からチェロがいるため、作曲時点で、オプションながら、チェロ・パートが書かれていた。日本でも、2010年にタッド・ウインドシンフォニーが演奏した際、チェロを加えて演奏されたのが記憶に新しい(ライヴCDあり)。

■タッド・ウィンド・コンサート(11)
http://item.rakuten.co.jp/bandpower/cd-2193/

 昨年11月、シエナ・ウインド・オーケストラの定期演奏会に、ヨハン・デ=メイが客演し、自作の交響曲第1番《指輪物語》を演奏した際、チェロが4本加わえられた。実はこの曲は、オリジナル・スコアにはチェロの「チ」の字もない。ところが、シエナのCDやDVDを事前に送られ、音を聴いたデ=メイが「このバンドだったら、究極の《指輪物語》ができる」と確信し、本番直前に「チェロ4本」をリクエストしてきたのである。通常、チェロは加わっても2本くらいが多いので、「4本」とは、かなり本格的な要望である。

 もちろん、オリジナル・スコアにはチェロのパート譜などはないから、デ=メイ「自家製」のパート譜が、急きょ、送られてきた。かなり時間的にギリギリだったため、デ=メイからは「もし間に合わなければ諦める」とのメッセージがあったらしいが、シエナ事務局が奔走し、なんとか4人のチェロ奏者が確保できた。

 ところが、あまりにギリギリだったため、このことをきちんと事前告知できないまま、本番を迎えることになった。ほとんどの聴衆は、当日、会場に来て、初めて、そのような編成であることを知らされたのだった(開演前に、急きょ、私がプレ・トークをさせていただき、その点を解説した)。

 そして当日。会場におられた方はもうご存知だろうが、随所で、いままでの吹奏楽とはちょっとちがった響きが聴かれた。当然ながら管楽器と弦楽器とでは音質も響きもちがうから、ユニゾンで一つの旋律を演奏すると、どうしたってピッチがズレる。ところがその微かなズレが、とても人間的というか、温かく感じるのだ。《指輪物語》は、冒険ファンタジー文学の音楽化なので、その温かさが、とても効果的に表現されていたように感じた。

■指輪物語:ヨハン・デメイ&シエナWO
http://item.rakuten.co.jp/bandpower/cd-2824/

 その模様をおさめたライヴCDが、エイベックスから発売された。ライヴなので、当然、当日のみなとみらいホールの客席で聴いた響きとはちがうが、それでも、いつも聴く吹奏楽とは、少々ちがう雰囲気であることは、感じていただけると思う。

 ぜひ多くの方に聴いていただき、そして、もし可能であれば、アマチュア・バンドのみなさんにも、今後、チェロを加えた編成にチャレンジしていただきたい。
(敬称、一部略)

※次回は5月27日(月)ころに更新する予定です。


(2013.05.18)


※本稿の著作権は富樫鉄火が、出版権・公衆送信権はバンドパワーが独占しています。両者の許諾なく、出典元表記のない引用や、引用の範囲を超えた複写、コピー&ペーストを固く禁止します。
吹奏楽マガジン バンドパワー
吹奏楽マガジン バンドパワー
吹奏楽マガジン バンドパワー
 
 
 
 
 
 
jasrac番号吹奏楽マガジン バンドパワー