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【コラム】

富樫鉄火のグル新
第91回 新鮮だった、エリシュカ&東京佼成W.O

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東京佼成ウインドオーケストラ
第115回定期演奏会
4月27日(土)東京芸術劇場にて

ラドミル・エリシュカ指揮
(曲目)
序曲《謝肉祭》 ドボルザーク作曲/スルカ編曲/ヴラフネク校訂
シンフォニエッタ ヤナーチェク作曲/上埜孝編曲
交響曲第9番《新世界より》 ドボルザーク作曲/スルカ編曲/ヴラフネク校訂

 管弦楽曲を吹奏楽で演奏することに疑問を呈する人がいる。私なども、管打楽器が活躍する近現代曲ならまだしも、ベートーヴェンの《運命》や《第九》、モーツァルトの交響曲を、全曲・原調による吹奏楽で聴いたことがあるのだが、意欲は感じたけれど、なかなか厳しいものを感じたのも事実だった。

 今回、東京佼成ウインドオーケストラの定演で、ドボルザークの交響曲第9番《新世界より》の「全曲」が「吹奏楽」で演奏されると知り、正直、きついんじゃないかと思った。
 ところが、指揮がラドミル・エリシュカとある。私はエリシュカはCDでしか聴いたことがなかったが、この人が80歳を超えたチェコ音楽の巨匠で、ドボルザーク協会の会長をやっているらしいことくらいは知っていた。

 そんな人が、突如、今まで縁があったとは思えない東京佼成W.O.にやってきて、専門であるドボルザークの「吹奏楽編曲譜」を振るという。プログラム解説によれば、プラハ城警備隊&チェコ警察音楽隊の指揮者であるヴァーツラフ・ブラフネク大佐(このコンビのCDは一時、輸入盤で日本にも入ってきていた)がエリシュカの弟子で、東京佼成W.O.との間に立って実現に奔走してくれたらしい。そして、吹奏楽を振るのは、今回が「最初で最後」だという。

 行ってみて驚いた。とてもよかったのだ。

 まずは1曲目、ドボルザーク《謝肉祭》の出だしを聴いてびっくりしてしまった。てっきり、クラシック本流の指揮者が吹奏楽を初めて振るのだから、大人しくキレイに奏でるのだと思っていた。ところが冒頭から、まことに威勢のいい、元気いっぱいの「ブンチャカドンチャカ」が始まったのである。なんとなく昔の軍楽隊やブラスバンドを思わせる雰囲気だった。

 ところが、確かに「ブンチャカドンチャカ」なのだが、決してうるさくなく、しかも品があるのだ。うまく表現できないのだが、「美しいにぎやかさ」とでもいえばいいか。

 そしてメインのドボルザークの第9だが、これには、さらに驚いた。高校生のころに買ったミニチュア・スコアなど、もうボロボロになっている、それほどかつて、聴き込んできた曲だったが、初めて聴いたような新鮮さだった。それは、吹奏楽で聴いたのが初めてだからという意味ではない。スコアに書かれた音符が、すべて「見える」演奏だったのだ。

 吹奏楽をやっている方は、指揮者から「スコアの音がすべて見えるように演奏せよ」と指導された経験はないだろうか。指導者によって意味は様々だが、この言葉の裏には「モヤモヤさせず、しっかり吹け」といったニュアンスもあるはずだ。

 ところがここから先が難しくて、「スコアの音がすべて見えるように」演奏すると、やたらみんながデカい音で吹いて、それらがぶつかって、ただうるさいだけの演奏になることがある。これを整理するのが指揮者の仕事で、とりあえず「見える」演奏ができるようになったら、次は、強弱や表情などで具体的な「料理」に入っていくのだと思う。

 先日のエリシュカの《新世界より》は、その「料理」の仕方がまことに絶妙で、すべての音が「見える」けどうるさくなく、やはり品があって、しかもたいへんじっくりと、ていねいに演奏されていた。予想するに、各パートごと、特に音量や強弱、表情づけなど、かなり細かくリハーサルがなされたのではないだろうか。最近の、やたらとスピード感を強調する演奏に比べると、かなり遅い演奏タイムだったようにも思う。しかしとにかく私は、通常のオーケストラ演奏よりも、はるかに面白く感じたし、そして、感動させられた。

 今回使用された編曲譜は、上述の「プラハ城警備隊&チェコ警察音楽隊」が所蔵していた門外不出の譜面で、同隊のヒネック・スルカのアレンジだという。それを、これも先述のブラフネクが(おそらくチェコの軍楽隊とは楽器編成がちがうので)、今回、東京佼成W.O.のために校訂したもののようだ。

 基本的に弦楽器を木管、サクソルン属に移植するトランス譜面のように感じたが、そのために意外な効果が感じられる部分もあった。たとえば第2楽章78小節目から、第1ヴァイオリンがC#から上がっていく旋律を奏でるが、このたいへん長い印象的な部分を、サクソフォンが請け負っている。これがとてもいいのだ。管楽器が奏でることで、人間の息が加わり、じっくり感が数倍にもなって(少々苦しそうな様子も加わって)達意の度合いがさらに増していたように感じた。楽器編成も、フリューゲルホーンやバス・トランペットが加わっていたり、ユーフォニアムが4本あったりして、通常の吹奏楽とはかなりちがった響きが感じられた。

 なお、演奏はさすがにベテラン揃いの東京佼成W.O.だけあってみなさん素晴らしかったが、特に印象に残ったのは、イングリッシュ・ホーンの上田恵さんで(エリシュカ自身がチェコに連れて帰りたいとまで言ったらしい)、あの第2楽章の名旋律を、エリシュカの棒に見事に絡んで、とてもすてきな演奏で聴かせてくれた。

 そのほか、オーボエ宮村和宏さん、トランペットや、(紙幅の都合でもう触れないが)ヤナーチェク《シンフォニエッタ》でのバンダ(ワーグナー・テューバやバス・トランペットなど)、さらにドボルザーク《謝肉祭》できれいなタンバリンを披露してくれたベテラン山口多嘉子さんなど、多くの名人芸も堪能させていただいた。

 もし、今回の演奏がライヴCD化でもされたら、(果たして会場でのあの響きを追体験できるかどうか何とも言えないが)、ぜひ、多くの方に聴いていただき、こういう吹奏楽もあることを知ってほしいと思う。

 なお最後に反省を。

 このコンサートは、通常の東京佼成W.O.ファンのみならず、幅広い吹奏楽関係者、さらには、オーケストラ・ファンにも、聴いてほしかった。残念ながら会場は7割くらいの入りで、決して盛況とはいえない様相だった。これには、東京佼成W.O,事務局のアピールも足りなかったかもしれないが、エリシュカの名前を見た時点で、事前にちゃんと取材して告知しなかった私のような解説屋にも責任があると思う。申し訳なかったと、心から反省したい。
(一部敬称略)

※次回は5月13日(月)前後に更新します。

(2013.04.30)


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