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【コラム】

富樫鉄火のグル新
第86回 藤田玄播作曲、行進曲《若人の心》

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 1月30日に、作編曲家の藤田玄播氏が亡くなった(行年76)。

 おそらく多くの方々にとって、藤田作品といえば、《天使ミカエルの嘆き》が浮かぶだろう。ヤマハ吹奏楽団の委嘱新作シリーズの一つで、1978年の同団の定演で初演、同年のコンクールにもこの曲で全国大会に進出し(当時の名称は「ヤマハ吹奏楽団浜松」)、金賞を獲得している。

 その後は、オリジナルもさることながら、編曲でも大活躍で、ファリャ《恋は魔術師》、バッハ《トッカータとフーガ》ニ短調、ドビュッシー《海》、レスピーギ《ローマの祭り》などは、多くの団体が藤田編曲版で演奏したものだった。

 もう一つ、藤田玄播の名前が刻まれているのが2曲のコンクール課題曲、行進曲《若人の心》(1977年)と、幻想曲《幼い日の思い出》(1979年)であろう(補作を除く)。

 この《若人の心》のほうは、全国大会のライヴ音源がない。演奏した団体がなかったわけではなく、「演奏できなかった」のだ。この曲は、コンクール史上唯一の「中小編成部門用」課題曲だったのである。正確には、「地方大会B、C(小編成)用課題曲」として発表された(全日本吹奏楽連盟機関誌「すいそうがく」17/1977年2月20日発行)。

 同誌では、このように説明されている。
<この曲は小編成の部のB、Cクラスでも使用出来る全国共通の課題曲が欲しいという要望により、はじめて今年設けられたマーチの課題曲で、この曲は、全国大会につながるコンクールに出場する団体は、課題曲としてとり上げることは出来ません>

 コンクールの予選=地方大会では、大編成部門(地域によって名称は違うが、要するに、最終ゴールとして「全日本吹奏楽コンクール」=全国大会を目指す部門)のほかに、たとえば30名前後のB部門、20名前後のC部門など、さまざまな部門を独自に設けている地域がある。

 ところが、これらの部門には、全国大会はない。いまでこそ「東日本学校吹奏楽大会」があって、これは北海道、東北、東関東、西関東、東京都、北陸の各吹奏楽連盟が一体となって主催する小編成(現在30名以内)のコンクールである。しかし1977年当時は、この催しすらなかった。あくまで中小編成部門は、予選段階のみの付随的な催しだったのである。

 ところが、いまでもそうだが、当時から、地域によってはA部門よりも、B・C部門のほうが参加団体が多かった。これらは、全日本吹奏楽連盟の主催ではなく、各地方連盟の独自主催だったから、自由な規定で実施できた。ほとんどは自由曲のみの審査だったが、前掲誌にあるように、審査の共通基盤としての課題曲を求める地域もあった。そこで、全日本吹奏楽連盟が、いわば「参考」として、この《若人の心》を発表したのである。厳密に考えると、全日本吹奏楽連盟が、他団体のイベントのための課題曲を用意したわけで、なんとなくお節介のような気がしないでもないが、しかしそのおかげで、たいへんユニークな行進曲が誕生したともいえるのである。

 《若人の心》は、中小編成部門用なので、各パート1名にすると23名で演奏できるように書かれている(作曲者コメントより)。ユニークなのは、短調の少々陰鬱なムードで始まる点だ。マーチ=明るくて勇ましい、との概念からはちょっと外れている。タイトルから敷衍するに、悩める若者の心情を描いているのかもしれない。どこかロシアのマーチを思わせる。

 ところが、中間部のTRIOになると、まるで暗雲が晴れるように、さわやかな曲想になる。ここは、現在50代以上だったら、「歌詞」付きでメロディを口ずさむ方がいるのではないだろうか。

 このTRIOのメロディは、作曲者による既出曲で、1975年に、東京都合唱連盟による「愛唱歌」募集で第1位入選した合唱曲《地球を花で飾ろう》がそのまま使用されている。マーチの中間部にほかの曲が使用されるのはよくあるケースで、たとえば《軍艦行進曲》(瀬戸口藤吉)のTRIOは《海ゆかば》(東儀季芳作曲の明治13年版)だったし、1972年札幌冬季オリンピック入場行進でも演奏された、《虹と雪》(岩河三郎)のTRIOは、トワ・エ・モアの歌で大ヒットした《虹と雪のバラード》(村井邦彦)だった。

 この合唱曲は(確か詩も作曲者自身だったと思う)「♪この地球が花で埋まるなら、世界中に愛があふれる」という詩で、文字だけを見ると何とも青臭いというか、ちょっと恥ずかしいような内容なのだが、メロディを付けて歌うとまことに素晴らしい曲であった。

 そんなメロディが含まれているために、「歌う」ような雰囲気に満ちたマーチで、「譜面づら」は簡単なのだが、きれいに演奏するのは、意外と難しい曲であった。いわゆる「ボロが出やすい曲」とは、こういうマーチのことをいうのだろう。小編成で演奏するので、各楽器がむき出しになり、ごまかしがきかない。

 作曲者自身、演奏上の留意点の一つとして、こう述べている。
「行進曲は音楽的に気軽に見られがちですが、芸術性においても、音楽には変わりはないのですから、音楽性豊かに演奏されるべきです。いっぽう、行進曲という音楽になれてしまって、雑な演奏になっても気がつかなくなります。これも演奏者にとって危険なことです。なれ親しんだ行進曲でも一度はていねいに練習してみるのも必要です」(「バンドジャーナル1977年7月号)

 これを機会に、《若人の心》がもっと演奏されるようになってほしいと思う。できれば、TRIOは「合唱」付きで。それが、作曲者の追悼としても、ふさわしいように思う。

【余談】
1977年の地方大会で、この課題曲《若人の心》の演奏のされ方は、様々だったそうなのですが、みなさんの地域・部門では、どうでしたか。経験された方、BP編集部までご教示いただければ幸いです。
A)課題曲+自由曲の2曲を演奏した
B)課題曲のみを規定で演奏した
C)課題曲か自由曲か、どちらか1曲を選んで演奏した

【Mail】bpmaster@bandpower.net

 

■バンド・クラシックス・ライブラリー8 「天使ミカエルの嘆き」
http://item.rakuten.co.jp/bandpower/cd-1460/

■全日本吹奏楽コンクール課題曲 参考演奏集 Vol.1【CD4枚組】 
http://item.rakuten.co.jp/bandpower/cd-1859/




※次回は3月4日(月)前後に更新予定です。

【お知らせ】
3〜4月にかけて、テレビ朝日「題名のない音楽会」で、吹奏楽特集が数回、放映されます。私(富樫)も、少しばかりお手伝いさせていただきました。放映日近くになりましたら、本欄で告知しますので、楽しみにお待ちください。

(2013.0218)


※本稿の著作権は富樫鉄火が、出版権・公衆送信権はバンドパワーが独占しています。両者の許諾なく、出典元表記のない引用や、引用の範囲を超えた複写、コピー&ペーストを固く禁止します。
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