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【コラム】

富樫鉄火のグル新
第80回 マーチングの世界

ツィッターほど短くもなく、ブログほど個人的でもない、
同じような話題をグルグルめぐるけど、基本は最新の話題。グル新。

(不定期で更新しています。バックナンバーは最下段「目次ページへ」からお入り下さい)

 恒例の、JMBA(日本マーチングバンド・バトントワーリング協会)の主催によるコンテスト全国大会が12月17〜18日、さいたまスーパーアリーナで開催された。私は、18日(日)、一般・高校の部に行ったのだが、早々と当日券は完売し、最寄り駅の改札口に「チケット求む」を掲げた人が、けっこういた。

 当日、会場内ロビーの物販コーナーでぶらついていると、旧知の吹奏楽トレーナー氏とバッタリ会った。普段、コンクール指導で飛び回っている男なので、まさかこんな所で会うとは思わず、「あなたは、マーチングも指導しているの?」と訊いたら、「いえいえ、まさか。実は、知人が、今日出場している高校のマーチング指導をしていて、前から一度見に来てくれ、と言われていたもんで……。だから今日が、生まれて初めてのマーチングなんです」とのことだった。

 しばらく立ち話をしていると、初マーチング鑑賞にしては、それなりに楽しんでいるようだったが、何だか話がかみ合わない。

「昨年は、〇〇音大の△△さんが審査員だったそうですねえ」
「今年は、全国大会が大阪城ホールじゃないんですね」
などと、時折、変なことを言う。
どうやら彼は、全日本吹奏楽連盟主催の「マーチング・コンテスト」と、JMBA主催のこのコンテストとをごちゃ混ぜで認識していたらしいのだ。

 吹奏楽をやっていても、マーチングの世界を知らない人は、けっこう多いようだ。
実際にマーチングに携わっている方には「釈迦に説法」だろうが、そうでない人と話していると、確かに、時折、こういう混同がある。簡単に解説しておこう。

 現在、マーチングにまつわるコンテストは、大きく以下の4つがある。

【全日本マーチング・コンテスト】(マーコン)
 全日本吹奏楽連盟の主催。よく「マーコン」などと略称される。前身が「パレード・コンテスト」だっただけあり、派手なショーよりも「コンサート・バンドがそのままパレードする」シンプルで基本的なマーチングが要求される。よって楽器編成も(時折、ビューグル・コーやドラム・コーもあるが)、多くは通常の吹奏楽編成が多い。
 参加団体も、多くは「吹奏楽コンクール」とダブっており、その年の課題曲マーチを使用する団体もよくある。審査員にマーチング専門家はおらず、ほとんどは、コンクールと同じような顔ぶれである。音楽大学の先生や、プロ・オーケストラの奏者がマーチングを審査するのは、何となく妙な気もするのだが、これをもってして、主催者の目指しているものが何であるか、想像できよう(そのため、「審査員は一度も顔を上げず、音だけ聴いて審査している」なんて冗談がある)。
 全国大会は、毎年秋に大阪城ホールで開催されており、「コンクールの聖地」が東京・普門館なのに対し、こちらは「マーチングの聖地」となっている。
 もちろん、これに参加するには、コンクール同様、各地の吹奏楽連盟に加盟していなければならない。
 観覧する際は、正面席がいいのはもちろんだが、審査規定の中に「場内をパレードで一周する」という項目があるので、客席のどこで観てもそれなりに楽しむことができる。

【マーチングバンド・バトントワーリング・コンテスト】(JMBC)
 冒頭に挙げたJMBA(日本マーチングバンド・バトントワーリング協会)の主催。前身から含めると1960年代からある老舗のコンテストである。全国9支部の傘下団体から勝ち上がってきた代表が、毎年12月(バトントワーリングは1月)、さいたまスーパーアリーナで日本一を競う(10年ほど前までは、日本武道館で開催されていた)。
 前記マーコンが「パレード」色が強いのに対し、こちらは完全なエンタテインメント・ショーである。ガード(ダンサー、ライフル)や小道具・大道具なども登場する。たとえば高校の部だと、小編成・中編成・大編成の3部門に分かれており、大編成ともなると、総勢200人近い部員による壮大なショーが展開する。映画『ドラムライン』や、ブロードウェイ・ショー『ブラスト!』の世界に近い。楽器編成も、コンサート・バンド、ファンファーレ・バンド、ブラス・バンド、ビューグル・コー、ドラム・コーなど、実に多種多様である。
 なお、JMBAは、ほかに「ステージ・マーチング」の大会も主催している。
 ここも、参加するには、JMBAに加盟していなければならない。
 観覧する際は、何としても正面「指定席」で観てほしい(5,000円!)。左右席は「自由席」3,000円だが(背後席は、参加団体の控え席で、一般観覧席はない)、ここのマーチングは、前記マーコンのように、場内をパレードしたりしない。ほとんど、正面を向きっぱなしでのフォーメーションである。だから左右の自由席で観ると、音がまったく飛んでこない。そもそも「審査」が正面席から観て行なわれるせいか、左右席から観ると、意外と横一列に気を使わないで乱れた団体も多く、ちょっとガッカリしかねない。

【ジャパン・カップ】
 前記JMBCの流れを汲む「ジャパン・カップ組織委員会」の主催で、特に組織加盟を問われない、オープン・フリーな催しである。1996年にスタートした、まだ新しい催しで、当初は「JMBCと、どこがちがうのか」疑問に感じたものだが、今ではすっかり定着し、それなりの催しに育っている。
 完全オープンなので、予選などは特になく、毎年9月に、いきなり東京体育館メイン・アリーナで全国大会である。まだマーチングを始めて日の浅い団体もあれば、前記JMBCでトップになるような団体もある。
 「マーチングバンド」「バトントワーリング」「ポンポン」「ドラム・コー」「ドリルダンス」など、多くの部門に分かれており、参加団体は、おおむね、前記JMBAの大会とダブっていることが多い。
観覧は、正面席が「指定席」2,900円、、背後席が「自由席」1,500円である(東京体育館は「左右席」は、ない)。チケット代を節約したくて、安い「自由席」を買いたくなるのは無理ないが、マーチングを「後ろ」から観るほどむなしいものはないので、ぜひとも正面指定席をお薦めする。

【DCJ】
上記のほか、ドラム・コー、ビューグル・コーのためだけの催しとして、DCJ(ドラム・コー・ジャパン)がある(この〇〇コーなる編成と歴史については、説明し始めると長くなるので省略するが、正確にいうと「マーチング・バンド」ではない)。
 全日本選手権は、11月に、横浜の日産スタジアムで開催される(以前は調布・味の素スタジアムだった)。会場は、必ず「野外」であり、よほどの豪雨でない限りは雨天決行となる。
 観覧は、満席になるほどの混み方はないので、正面から観ることができる。自由席のみで、前売り3,000円、当日3,500円。

 というわけで、おおむね、昔ながらの質実剛健なパレードなら「マーコン」、ド派手なエンタテインメントなら「JMBC」「ジャパン・カップ」、ドラム&ビューグル・コーなら「DCJ」……といった住み分けになっているのが、現在のマーチング界のようだ。

 私も学生時代はマーチングに明け暮れていた時期があるが、当時は、まだ現在のような派手な世界ではなかった。ステップも、今とは全然ちがった。「ガード」「ダンサー」なんていなくて、マーチングとは「吹奏楽」に、「バトントワラー」が花を添える「男の世界」だった(マーチングやパレードに女子学生を出さない大学吹奏楽部が、いくらでもあった)。
 合宿に行くと、わざわざ足場の悪い砂浜で、ステップの練習をさせられ、膝上が水平より下がりだすと、ドラムメジャーに竹刀で足を殴られる、そんな光景も当たり前だった。バッテリーのスネア奏者が、練習中、気分が悪くなって、吐瀉物をぶちまけながら気を失って倒れた、なんてこともあった。

 それだけに、昨今のマーチングは(もちろん、それなりにキツイ練習ではあろうが)、実に華やかで、参加者たちも楽しんでやっている様子が感じられるから、観ているほうも楽しい。

 今回のJMBC(2日目)は、以下のような結果となった。
【一般小編成】最優秀賞:GENESIS(関東)
【一般大編成】グランプリ:創価ルネサンスバンガード(関東)
【高校小編成】最優秀賞:名古屋女子大学中学高校マーチングバンド部(東海)
【高校中編成】最優秀賞:茨城県立大洗高校マーチングバンド「BLUE-HAWKS」(関東)
【高校大編成】グランプリ:埼玉栄中学高校マーチングバンド(関東)

 この中で私が驚いたのは大洗高校だ。映画『トロン:レガシー』の世界をマーチングで表現したのである。衣裳もあの映画そのもので、背中にはディスクが装着されており、主要メンバーのそれは、映画同様、光るのだ。演奏はもちろん、全体のドラマ構成も見事で、果たして、これが、あの映画からのインスパイアであることを、審査員は知っているかどうか心配したのだが、十分通じたようで、見事に最優秀賞を獲得していた。

 ≪リバーダンス≫でマーチングした、福井の仁愛女子高校マーチングバンド・ドラムコーは、たいへん珍しい「打楽器」のみの編成である。メロディは、ピットの十数台の鍵盤が奏でる(奏者だけで20人ほどいて、ちょっとしたマレット・オーケストラである)。よってフロア内は全員がバッテリーである。当然ながら通常の管楽器編成とはまったくちがう、意外と柔らかい響きで、とても新鮮だった。

 ほかに、中編成で金賞を獲得した、かえつ有明中・高等学校マーチングバンドESTEAMは、「Street」をモチーフにした構成で、ナイジェル・へス≪イーストコースとの風景≫〜<ニューヨーク>をイントロに、「旅立ち」をたいへん美しく表現していた。ジャパン・カップにも同じモチーフで出場していたが、さらに進化・洗練した内容で、特にラスト・シーンは、観客の目の錯覚を利用した大道具が使用され、「圧巻」の一言であった。

 多くのバンドが、夏〜秋の吹奏楽コンクールにかけているのと同様、これらマーチングに熱心に取り組んでいるバンドも、これもまた「吹奏楽」の世界である。ぜひ一度、ご覧いただきたい。

※料金や席、規定などはすべて2011年の例です。

(2011.12.26)

■マーチング関連のDVD、ブルーレイ
http://www.rakuten.ne.jp/gold/bandpower/other/index.html

■2011年ジャパン・カップ・レポート
http://bandpower.net/news/2011/10/13_japancop2011/01.htm


※本稿の著作権は富樫鉄火が、出版権・公衆送信権はバンドパワーが独占しています。両者の許諾なく、出典元表記のない引用や、引用の範囲を超えた複写、コピー&ペーストを固く禁止します。
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