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【コラム】

富樫鉄火のグル新
メイキング・オブ『リズムの国のアリス』(1)

ツィッターほど短くもなく、ブログほど個人的でもない、
同じような話題をグルグルめぐるけど、基本は最新の話題。グル新。

(不定期で更新しています。バックナンバーは最下段「目次ページへ」からお入り下さい)

 この夏は暑かった。熱中症の恐怖の中、コンクールやコンサート、フェスティヴァルなどに奔走した吹奏楽関係各位に、ねぎらいをおくりたい。

 そんな多くのイベントの中、少々変わった吹奏楽コンサートがあった。日生劇場主催、シエナ・ウインド・オーケストラ演奏(出演?)の、ファミリー・コンサート『リズムの国のアリス』である(7月18〜19日、計4回公演)。

 これは「コンサート」というよりは、ほとんど「ミュージカル」というべき内容であり、2日間4公演。各1300席が完売する人気ぶりだった(当初、3公演の予定だったが、早くに完売する人気ぶりに追加公演が決定し、4公演となった)。たまたま筆者は、ほんの少しお手伝いをした縁で、企画から本番までの主要過程を見る機会に恵まれたのだが、吹奏楽の新しい楽しみ方や可能性を示唆する、たいへん意義ある催しであったと思う。多くの団体に、少しでも参考にしていただきたく、今回から数回にわたって、ミニ・ノンフィクションとして、そのメイキングを綴っておく。

 東京・日比谷の帝国ホテル横に位置する日生劇場は、1963年10月オープン。主として演劇やポップス、ミュージカルのためのシアターである(ただし、コケラ落としは、カール・ベーム指揮ベルリン・ドイツ・オペラの≪フィデリオ≫だった)。その後は、劇団四季が盛んに使用したほか(筆者は、ここで何度も観た『ジーザス・クライスト・スーパースター』が忘れられない)、なんといっても、「越路吹雪ロング・リサイタル」の会場として、その名を興行界にとどめている。とにかくチケットが入手できないことで有名な公演だった。越路吹雪と劇団四季の共同制作で1969年に開始。以後、1980年3月に53回目のリサイタルをここで開催。その年の11月、彼女は胃ガンで死去するのである(行年56)。

▲日生劇場ロビーには、その歴史がパネルとなって展示されている。オープン当初、隣りの帝国ホテルはまだ旧館だった。コケラ落しはベルリン・ドイツ・オペラ。そして、日本芸能史に残る「越路吹雪ロング・リサイタル」。

 だが、もう一つ、日生劇場の大きな功績は、未成年のための公演を、まるで使命か宿命かと見紛うばかりの姿勢で続けていることだろう。

 まず1964年から、劇団四季による子供ミュージカル、いわゆる「ニッセイ名作劇場」をスタートさせている。読者の中にも、小学校のころ、日生劇場で『はだかの王様』『ふたりのロッテ』『人間になりたがった猫』『エルコスの祈り』(旧題『エルリックコスモスの239時間』)などを観た方も多いのではないか。今では1公演で20万人以上を動員する年もある巨大公演となっている。

 実は筆者もその一人で、『王様の耳はロバの耳』『オズの魔法使い』など、いまでも忘れられない。特に後者などは、ジュディ・ガーランド主演のミュージカル映画よりも日生劇場版のほうが強烈で、「♪出〜てこい、オズ! 魔法使いが出ないならば、大人になってやらないぞ」と全員でステージ上のオズに向かって歌った曲などは、いまでも口ずさめるほどである。

 次に日生劇場は、1979年から、中高生向けに「日生劇場オペラ教室」 をスタートさせた。第1回公演≪夕鶴≫は、作曲者・團伊玖磨自身の指揮だった。その後は歌手をオーディションで参加させるなど、若手の登竜門ステージとしても有名である。

 以上2つの催しで、多くの未成年が「劇場」で、初めてのミュージカルやオペラを体験することなった。ところがこれらは、学校単位での鑑賞制なので、一般公開はされない。しかも、小中高のいわゆる「就学児童・生徒」が対象である。そこで、1993年から、さらに下の未就学児童も取り込んだ「家族向け」公演として、「日生劇場国際ファミリーフェスティヴァル」がスタートした。クラシック、バレエ、演劇、人形劇、歌舞伎、狂言などの本格的舞台公演を、ファミリー向きにアレンジしたもので、毎年、夏休みの最初の時期に、4種類ほどの公演を集中して開催している。

 その中では、やはり、クラシック・コンサートとバレエ公演は定番のようで、毎年、形を変えながらも必ず入っている人気ステージであった。

 2006年のこと。日生劇場は、翌2007年夏に開催される「ファミリーフェスティバル」のクラシック・コンサートを、一挙に、新しい内容にすることを考えていた。それまでは「シリーズ音楽探検隊」と題し、毎年、一つのテーマを設けて、解説やミニ芝居を交えながら楽しいコンサートに仕立てていたのだが、そろそろ、主だったテーマはやり尽くしてしまっていた。もちろん、お客の子供たちは毎年変わるのだから、同じようなことを続けてもいいのだが、それでは制作者側もマンネリになってしまう。何か、面白くて、楽しくて、子供たちも親も一緒になって楽しめる、まったく新しいクラシック系のコンサートはできないだろうか……と。

 日生劇場のスタッフは、もちろん、音楽・演劇制作のプロフェッショナルである。普段から、あらゆる方向にアンテナを張り巡らせている。そんな彼らのアンテナに「吹奏楽」の3文字が引っかかった。さっそくリサーチを開始してみると、いくつかあるプロ吹奏楽団の中で、ずば抜けて楽しい内容で、若者に人気のあるバンドがあることがわかった。

 その名を「シエナ・ウインド・オーケストラ」といった。
<つづく>

富樫鉄火(吹奏楽大好きの音楽ライター)

(2010.08.28)


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