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【コラム】

富樫鉄火のグル新
第65回 夏の音楽映画4本

ツィッターほど短くもなく、ブログほど個人的でもない、
同じような話題をグルグルめぐるけど、基本は最新の話題。グル新。

(不定期で更新しています。バックナンバーは最下段「目次ページへ」からお入り下さい)

 この夏は、音楽を題材にした映画が多かった。もう公開終了になったものもあるが、いまの時代、DVD発売もすぐと思われるので、ここでまとめてご紹介しておこう。
(地域によっては、いまでも公開中の映画もあると思います。タイトルで検索するなどしてご確認ください)

■『シスタースマイル ドミニクの歌』
(2009年、フランス=ベルギー合作/ステイン・コニンクス監督)

  1960年代、世界中で大ヒットした≪ドミニクの歌≫。日本でもNHK「みんなのうた」で流れ、筆者も小学校時代、遠足のバスの中などでよく歌ったものである。これを歌ったのがベルギーの修道女「シスタースマイル」。この映画は、彼女の半生を描くものだ。
  ≪ドミニクの歌≫は、聖ドミニコの教えをポップス化したユニークな曲だったが、裏では修道会やレコード会社の「カネ」がらみの思惑が渦巻き、知らぬうちに彼女は、その犠牲になっていく。すでに有名な話だが、レコードの印税収入はすべて修道会に入る仕組みになっており、彼女は赤貧の中、ノイローゼになって自殺(親友女性と心中)するのである。
  60年代のフィリップス・レコードの社内の様子などが登場し、往年のポップス・ファンにはたまらない映画だろう。ただ、細かい裏話などは、観客がある程度承知していることを前提にしたような構成になっている。ラスト、なぜ彼女があんなことになるのか、予備知識ゼロで観ると、何だかよくわからないのではないか。最低限、ネットで得られる彼女にまつわる知識くらいは知ってから観るほうが、いいかもしれない。
  なお、1966年のハリウッド製ミュージカル映画で、デビー・レイノルズ主演『歌え! ドミニク』というのがあったが、これも中身は同じ話である。ただ、こちらは終始、きれいごとの楽しい内容になっており、真実は、今回の『シスタースマイル……』のほうが正確なようだ。

■『アルゼンチンタンゴ 伝説のマエストロたち』
(2008年、アルゼンチン/ミゲル・コアン監督)

  まったく期待せずに観たのだが、これは驚くべき映画だった。
  2006年、ブエノスアイレスで、タンゴの名曲アルバム『CAFE DE LOS MAESTROS』が製作されることになった(同時にコンサートも)。そのために、タンゴ黄金時代の大スターたちが再結集する。そのレコーディングやコンサートの過程を記録したドキュメント映画である。
  アーティストはほとんどが70〜80歳過ぎの「超後期高齢者」。一見、「この爺さん、大丈夫か」と言いたくなる人もいる。だが、一度楽器を持つと(歌いだすと)、驚くべき演奏を始めるのだ。後半、世界三大劇場の一つ、ブエノスアイレスのコロン劇場で開催されるコンサートは、まさに圧巻としかいいようがない。複数のバンドネオンが一斉にユニゾンでカデンツァ(のような響き)を奏でるのには度肝を抜かれる。
  筆者は、タンゴというとピアソラくらいしか知らないのだが、母国以外での活動が多かったピアソラに対し、生まれてから死ぬまで、アルゼンチン国内一筋で生き抜くアーティストがこんなにいて、しかも彼らが、いくつになっても情熱を失わずに演奏していることには驚かされた。老人になるのもいいもんだな、と思わされる。
  なお、演奏曲の中には、そのまま吹奏楽版に移植できそうなド迫力曲もあるので、BP読者なら、そんな観点でも楽しめると思う。

■『オーケストラ!』
(2009年、フランス/ラデュ・ミヘイレアニュ監督)

  旧ソ連時代、ボリショイ交響楽団からユダヤ人が排斥されたのに反対したため、指揮者のアンドレイは解雇。以後、ボリショイ劇場の清掃員として働いていた。
  ところが、ある時、パリ・シャトレ座からの出演依頼Faxを見つけ、解雇された仲間たちに声をかけ、偽のボリショイ交響楽団を結成、堂々パリへ乗り込むのだが……。
  いくらなんでも、こんなバカな話、あるわけないだろうと思いながら、あまりに見事な構成とクライマックスの迫力に、いつの間にか拍手喝采を送ってしまう傑作ドラマ。
  スターリン死後、雪どけやペレストロイカで暮らしやすくなったはずのソ連……は、真っ赤なウソだった。ソ連崩壊後、21世紀のいまになっても、当時の苦悩を引きずって生きている人たちがいることも如実にわかる。
  指揮者役アレクセイ・グシュコブ、ヴァイオリニスト役メラニー・ロランともに、あまりにヘタクソな演奏ぶりに少々しらけるが、ただし、アレクセイの渋さは説得力抜群。メラニーの美しさにも圧倒される。
  クライマックスで演奏されるのはチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲。音楽監督アルマン・アマールによってたいへんうまくダイジェスト再構成されており、思わず吹奏楽曲のコンクール用カットを頼みたくなってしまった。

■『シネ響マエストロ6』サイモン・ラトル&ベルリン・フィル
(2010年、ユーロアーツ)

  これは、いわゆる「フィルム・コンサート」である。シリーズ化されており、今後、アバド、ムーティ、バレンボイム、マゼール、ドゥダメルと計6人の映像が順次公開される。今回はその第1弾で、ラトル指揮ベルリン・フィルの、2009年暮れのジルヴェスター・コンサートの模様を収録した映像だ。
  いままでの音楽フィルムとちがうのは、大スクリーンでの公開を前提とし、音響が5.1サラウンドであること。この5.1とかは、それほどスゴイものではなかったが、大写しになるラトルやオケ団員の表情や手許のアップは、これはもう、家庭のDVD映像では絶対に味わえない、ものすごい迫力である。相当数のカメラが使用されており、ほとんどすべての楽器と団員をアップで観ることができる。ラトルの頬を伝う一滴の汗も確認できる。
  曲目は、ラフマニノフのピアノ協奏曲第2番(ピアノ独奏=ランラン)と、チャイコフスキー≪くるみ割り人形≫第2幕全曲。ほかにアンコールが、ショパンのエチュード1番(ランラン独奏)と、≪くるみ〜≫第1幕ラスト<雪片のワルツ>の2曲。
  ランランのピアノも素晴らしかったが、なんといっても≪くるみ割り人形≫がよかった。通し演奏を、ピットではなくステージ上で聴く(観る)機会は、なかなかない(組曲ならしょっちゅうやっているが)。特に組曲に入っていないため、意外と知られていない≪ジゴーニュおばさんと道化師≫におけるラトル&ベルリン・フィルのノリノリぶりは、観ていてワクワクした。
  入場料3000円と、通常の映画より割高だが、その価値は十二分にある。筆者は、東京・新宿のバルト9で観たのだが、1日1回の上映のみで、しかも、毎回満席札止めだった。もう少し、多くの人たちに観てもらいたかった。

富樫鉄火(吹奏楽大好きの音楽ライター)

(2010.08.16)


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