吹奏楽マガジン バンドパワー 吹奏楽マガジン バンドパワー

【コラム】

富樫鉄火のグル新
第62回 大阪市音楽団の歴史(下) 〜100回定期記念〜

ツィッターほど短くもなく、ブログほど個人的でもない、
同じような話題をグルグルめぐるけど、基本は最新の話題。グル新。

(週2〜3回更新しています。バックナンバーは最下段「目次ページへ」からお入り下さい)

(承前)
  「第四師団軍楽隊」の廃止は決まった。だが、その決定を、大阪市民やマスコミは、すぐに受け入れようとしなかった。彼らが最後までシベリアの地でがんばったことを、みんな忘れていなかったのだ。それほど同隊は、大阪の町に定着していたのである。

 そこで、師団長や楽長補・林を中心に、大阪市に対して軍楽隊をそのまま引き取ってくれるよう、交渉が開始される。

 その結果、楽器も演奏者もそのままで、運営費は大阪市が補助を出すことで、吹奏楽団「大阪市音楽隊」となって再スタートする。隊長は林亘。

 当初の運営幹部は大阪市と陸軍の双方からなる「半官半軍」組織だったが、昭和9年に大阪市の完全直営となり、隊員はすべて大阪市職員となった。そして戦後の昭和21年、「大阪市音楽団」となり、現在に至るのである。もちろんいまでも、日本で唯一の、地方自治体が直営するプロ・バンドである。

 余談だが、軍楽隊時代からの中心メンバーで初代隊長をつとめた林亘(1870〜1950)は、クラリネットの名手としても知られていた。留学先のイギリスで、クラリネット・ソロを披露して大喝采を浴びたこともあったという。市音のクラリネットに定評があるのは、その影響かもしれない。

 市音の存在が本格的にクローズ・アップされ始めたのは、1960年より定期演奏会を開催するようになってからだった(当初の名称は「特別演奏会」だった)。

 その第1回は1960(昭和35)年4月、大阪の毎日ホールで開催された。指揮は第三代団長・辻井市太郎(1910〜86)。辻井は、戦前に旧制中学を卒業後、大阪市音楽隊時代に入団してクラリネットやサクソフォン奏者として活躍、戦後の混乱期に弱体化していた同団を日本有数のバンドに育て上げた「中興の祖」である。

 第1回定期演奏会の曲目は、以下のとおり。

 (1)カンツォーナ(ピーター・メニン) ※日本初演
 (2)交響詩《献身》(カール・フランカイザー)
 (3)吹奏楽のための交響曲変ロ調(ヒンデミット) ※日本初演
 (4)ピアノと交響吹奏楽のための祝典協奏曲(ルドルフ・シュミット)
                    ※真木利一(ピアノ)、日本初演
 (5)組曲《キージェ大尉》(プロコフィエフ/辻井市太郎編曲)

 昭和30年代に、このようなプログラムで定期演奏会を開始していたことに、驚愕せざるをえない。この3年後に開催される東京佼成ウインドオーケストラの第1回定期演奏会がクラシックの「泰西名曲」中心だったのに比べると、当初から吹奏楽オリジナルを中心にしていたことがわかる。

 以後も市音は、徹底的にオリジナルの発掘につとめた。同年11月の第2回定期演奏会では、シェーンベルク《主題と変奏》、モートン・グールド《ジェリコ》などを日本初演しているし、その後も、グレインジャー《リンカンシャーの花束》、チャンス《呪文と踊り》といった名曲を次々に紹介し、日本吹奏楽界のレパートリーとして定着させている。

 そのほか、1985年に木村吉宏が団長に就任してからは、さらに活動の幅が広がり、1995年には、オランダの指揮者ハインツ・フリーセンを首席指揮者に迎え、国際色豊かなウインド・オーケストラとなった。

 アルフレッド・リードやフレデリック・フェネルといった人気指揮者、関西楽壇の重鎮・朝比奈隆、ヤン・ヴァンデルローストのような人気作曲家も客演指揮に迎えている。ヴァンデルローストの人気曲《シンフォニエッタ〜水都のスケッチ》は、2003年、同団創立80周年記念の委嘱作品である。現在は、特別指揮者・芸術顧問に秋山和慶を迎えている。

 同団が地元でいかに愛されているか、大阪以外の方には実感が湧かないかもしれない。毎夏の金曜日夜に開催されている「たそがれコンサート」は、昭和25年以来つづいている人気行事である。ほかにも、ランチタイム・コンサート、青少年コンサート、ファミリー・コンサート、学校の音楽鑑賞会など、多くのコンサートを開催。その多くは入場無料の気軽な内容である。地元の学校吹奏楽部との共演もさかんに行なっている。会場に野外劇場が多いのは、軍楽隊時代に中之島公園の野外音楽堂で人気となった、その名残りかもしれない。

 レコーディングもさかんで、特に同団が大阪市振興教育公社からリリースしているCD「ニュー・ウインド・レパートリー」シリーズは、ヨーロッパ発を中心とした最新曲をいちはやく日本に紹介するものとして注目を浴びている。

 市音の存在感や力量がいかんなく発揮されたのが、1993年にリリースされた『大栗裕作品集』である(朝比奈隆・木村吉宏指揮)。まさに「大阪のバンド」が、「大阪の指揮者」により、「大阪の作曲家」が「大阪を描いた曲」を収録した、大阪尽くしのアルバムだ。特に、名曲《大阪俗謡による幻想曲》は、曲の生みの親でもある朝比奈隆の指揮だが、熱狂と冷静な品格の境界線上をゆく素晴らしい演奏である。

 今秋には、東京公演も予定されている。日本最古のプロ吹奏楽団は、これからも大阪市民に愛されながら、世界最先端を突っ走るにちがいない。
(敬称略)

※木村吉宏の「吉」は、上部が「土」です。

富樫鉄火(吹奏楽大好きの音楽ライター)

■大阪市音楽団のCD
http://item.rakuten.co.jp/bandpower/c/0000000843/

(2010.06.17)


※本稿の著作権は富樫鉄火が、出版権はバンドパワーが独占しています。両者の許諾なく、出典元表記のない引用や、引用の範囲を超えた複写、コピー&ペーストを固く禁止します。
吹奏楽マガジン バンドパワー
吹奏楽マガジン バンドパワー
吹奏楽マガジン バンドパワー
 
 
 
 
 
 
jasrac番号吹奏楽マガジン バンドパワー