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【コラム】

富樫鉄火のグル新
第61回 大阪市音楽団の歴史(上) 〜100回定期記念〜

ツィッターほど短くもなく、ブログほど個人的でもない、
同じような話題をグルグルめぐるけど、基本は最新の話題。グル新。

(週2〜3回更新しています。バックナンバーは最下段「目次ページへ」からお入り下さい)

 6月12日、大阪市音楽団の定期演奏会が、「第100回」を迎えた。詳しい内容に関しては、BPの樋口幸弘氏のレポートをご覧いただきたいが、数日前から、ツイッター上ではリハーサル風景などが実況中継され、たいへんな盛り上がりだった。だが、関西圏以外にお住まいの方には、その意義が、ちょっとわかりにくいかもしれない。

 今回から、2回にわたって、大急ぎで、その歴史をご紹介しよう。
 
  日本に現存するすべてのオーケストラ、バンドの中で、最古の楽団が、この「大阪市音楽団」、略称「市音」(しおん)である。その歴史は、まさに日本の吹奏楽史と軌を一にしている部分がある。

 日本の吹奏楽の元祖は、幕末の薩摩藩に設置された鼓笛隊である。これが「薩摩藩軍楽隊」となり(指導していたのは、最初の《君が代》の作曲者で、イギリス陸軍軍楽隊長だったジョン・ウィリアム・フェントン)、明治維新後、同隊を吸収する形で「陸軍教導団軍楽隊」が設置された。いわゆる「陸軍軍楽隊」である。

 やがて軍備拡張にともない、各地に軍楽隊が増設される。その増設第一号が、明治13年設置の「第二軍楽隊」(のちの近衛師団軍楽隊)で、次が明治19年設置の「大阪鎮台軍楽隊」、これがのちの「第四師団軍楽隊」である。

 この時点で、東京に2隊、大阪に1隊の計3隊(計142人)の陸軍軍楽隊員がいたことになる。まさに彼らこそが、「日本吹奏楽の曙」といっていい。

 このうち、大阪の「第四師団軍楽隊」は、本隊である教導団軍楽隊の選抜隊員50名でスタートした。一般公演は中之島公園の野外音楽堂で行なわれ、たちまち大阪市民に親しまれる存在となった。

 当時、同隊の演奏を聴いての感想を記した文章がある。

「私はサキソフォンの独奏に心引かれた。それはその音色が非常に柔らかく優雅で、しかも人間の音色に似たところがあるからである。但し現代に於いて用いられているサキソフォンは優雅な音色をもっていないのは、どういう訳か。楽器が違うわけでもあるまいから、多分その奏し方が異なるところから、明治時代のサキソフォンのような優雅な味が出ないのではあるまいか」(田辺尚雄『明治音楽物語』青蛙房刊より)

 同書に記された当時の演奏曲目は、マーチはもちろん、邦楽曲の《越後獅子》《勧進帳》、端唄の《春雨》《カッポレ》、さらには当時流行していた明清楽(みんしんがく=中国の明朝や清朝時代の音楽)を洋楽風にアレンジした《九連環》《算命曲》《茉莉花》などがあったという。

 彼らの存在がひときわクローズ・アップされたのが、シベリア出兵である。

 大正7(1917)年のロシア革命により、ロシア帝政が崩壊、社会主義国家の誕生は確実になった。危機感を覚えた当時の連合国(日米英仏伊)は、ロシア革命軍に囚われたチェコ軍を救出するとの名目で出兵を開始する。典型的な干渉戦争である。

 このとき、陸軍軍楽隊にも出動命令が下り、2隊の臨時軍楽隊が編成された。この第一臨時軍楽隊の中心メンバーが、大阪の「第四師団軍楽隊」であった(第二臨時軍楽隊は名古屋の「第三師団軍楽隊」が中心)。

 彼らは、楽長・守谷範造に率いられ、同年8月、舞鶴から出港した。ハバロフスクやウラジオストックを中心に活動し、のちに楽長補・林亘が率いる交代要員と入れ替わりながら、大正11年10月に司令部が総引き上げを完了するまで現地にとどまり、演奏活動をつづけた。

 慣れない土地で、しかも戦時下とあって、彼らの演奏活動は過酷を極めた。途中、隊員の病死もあった。ゲリラに射殺される隊員まで出た。ロシア軍の反乱にも出会った。しかし彼らは、慰問、壮行会、歓迎会、パーティー、地元民のための演奏、パレードと、とにかく毎日、演奏をつづけた。

 ところがそのころ、世界は未曾有の経済恐慌に襲われていた。日本も軍備縮小をせざるをえなくなる。その結果、三つの軍楽隊の廃止が決まった。名古屋の「第三師団軍楽隊」、東京の「近衛師団軍楽隊」、そして、大阪の「第四師団軍楽隊」である。

 シベリア出兵中の「第四師団軍楽隊」は、大正11年7月、内地から来た新聞で、自分たちの軍楽隊の廃止を知る。もう日本へ帰っても仕事はないのだ。彼らは最後まで任務をまっとうしながらも、意気消沈のまま帰国した。

 ところが、この廃止決定を、大阪市民やマスコミは、容易に受け入れなかった。

富樫鉄火(吹奏楽大好きの音楽ライター)

(2010.06.08)


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