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【コラム】

富樫鉄火のグル新
第55回 佐渡裕、ベルリン・フィルを振る

ツィッターほど短くもなく、ブログほど個人的でもない、
同じような話題をグルグルめぐるけど、基本は最新の話題。グル新。

(週2〜3回更新しています。バックナンバーは最下段「目次ページへ」からお入り下さい)

 すでにニュースでご存知のように、指揮者の佐渡裕が、来年5月、ベルリン・フィルの定期公演を振ることになったそうだ。曲目は武満徹≪From Me Flows What You Call Time〜5人の打楽器奏者とオーケストラのための≫と、ショスタコーヴィチの5番。

 BP読者にとっては、シエナ・ウインド・オーケストラの首席指揮者としても有名だろう。普段、吹奏楽も振っている指揮者が、世界最高のオーケストラの定期公演に登場することを、私たちは、素直に喜びたい。

 1990年に結成されたシエナWOは、その後、バブル崩壊などの影響もあって、一時、活動が盛んではなくなった時期がある。そんな時期に、団員たちは、イチかバチか、佐渡裕に声をかけた。

 佐渡は、これに乗った。

 京都市立芸術大学の学生時代、アルバイトで高校吹奏楽部を指導していたし、卒業後は、龍谷大学を指揮して、初の全国大会出場に導いている(1986年、銀賞)。同じ関西圏には、淀工の丸谷先生がいて、羨望のまなざしで見ていた。だから佐渡にとって、吹奏楽は十分感度のある音楽ジャンルだった。

 かくして1997年、シエナWOの第3回定期演奏会に、佐渡裕が登場したのである。このときの曲目の一つが≪アルメニアン・ダンス パート1≫だった。会場には、たまたま来日中だったアルフレッド・リードが来ていた。終演後、興奮さめやらない様相で楽屋を訪れたリードは、佐渡に抱きつき、「いままで聴いた中で最高の名演だった」と絶賛した。以後、ERATOレーベルからCDをリリースするなど、佐渡&シエナWOは、怒涛の進撃をつづけることになる。

 私が佐渡裕に関して忘れられないのは、アンコールの≪星条旗よ永遠なれ≫を、「みんなで演奏しよう」と呼びかけつづけたことだ。「ぜひ、楽器をもってきて、舞台の上で、みんなで一緒に演奏しましょう。楽器がなければ手拍子だっていいんです。指揮したいひとは、指揮したっていいんですよ」と。

 だが、当初、これに応じる聴衆は、ほとんどいなかった。確か私の記憶では、あるとき、高校生らしき男子が「2人」、Trpを持って上がってきたのが最初だったと思う。このとき客席の聴衆は「ひえ〜、あいつら本気かよ」と驚いていたものだ。

 だが、いまはどうだろう。もう呼びかけなどせずとも、みんな、楽器をもって舞台に上がってくる。その数、200人を超えたこともあった。ひたすらあきらめず、呼びかけつづけた佐渡裕の勝利である。

 今回、ベルリン・フィルを振るにあたって、佐渡裕は、あるTVインタビューで「子供のころの夢をずっと抱きつづければ、必ずかなうんだなあ、と思いました」と語って、子供時代の卒業文集を見せた。確かに「(大きくなったら)ベルリン・フィルの指揮者になる」と、拙い字で書かれていた。

 ちょっとやそっとであきらめてはいけない、そして、夢は、そう簡単にかなうものではない、しかし抱きつづけていれば、いつかきっとかなう。

 今回のニュースは、そんなことも教えてくれたような気がする。
(敬称略)


富樫鉄火(吹奏楽大好きの音楽ライター)

(2010.05.13)


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