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【コラム】

富樫鉄火のグル新
第53回 「奏楽堂の響き3」

ツィッターほど短くもなく、ブログほど個人的でもない、
同じような話題をグルグルめぐるけど、基本は最新の話題。グル新。

(週2〜3回更新しています。バックナンバーは最下段「目次ページへ」からお入り下さい)

 21世紀のいま、このようなコンサートが開催されることに喝采を送りたい。おなじみ「奏楽堂の響き」が、はやくも第3回を迎えた(5月1日、東京・上野の旧東京音楽学校奏楽堂にて)。

 これは、日本の近現代の作曲家(特に東京芸大=旧奏楽堂に縁のある作曲家)の吹奏楽曲、もしくは吹奏楽編曲版を発掘・復元・編曲し、福田滋氏が主宰するリベラ・ウインド・シンフォニーが演奏する、いい意味で「病膏肓に入った」催しである。

 演奏曲目は、事前告知されていたアンコール曲も含めて、なんと「17曲」!(詳細→http://www.bandpower.net/news/2010/04/11_sougaku/01.htm)。いくら小曲があるとはいえ、解説をしながらこんなに演奏できるのかと不安を抱いていたら、案の定、最後は困った事態になるのだが……(後述)。

 とても詳述している紙幅がないので、印象に残った曲を。

 まず驚いたのは、深井史郎の≪英魂を送る〜故山本五十六元帥の霊へ捧ぐ≫(1943)であった。昭和18年に、このような鎮魂葬送曲が吹奏楽でつくられていたとは衝撃だった。これは、まるでマーラーとブルックナーを足して、伊福部昭をスパイスにしたような、なんとも凄まじい音楽であった。

 芥川也寸志の≪JALマーチ≫(1964)は、なんとなく≪世界の恋人≫(芥川作曲の日産社歌、TVCM曲。昔のTBSラジオ「パック・イン・ミュージック」テーマ曲)に、≪史上最大の作戦≫マーチを足したような感じだったが、とても明るくて楽しいマーチだった。

 だが、同じ芥川の(松木敏晃編曲)、≪組曲「八つ墓村」≫(1977)の3曲目<落武者のテーマ>は、 やはり何度聴いても≪赤穂浪士≫そのもので、差異を面白がるべきなのか、そっくりぶりを楽しむべきなのか、少々、複雑な気分だった。

 そして私がいちばん感動したのは、なんといっても黛敏郎作曲(堀井友徳編曲)の≪組曲「東京オリンピック」≫(1964)であった。よくぞ、このような企画を実現させてくれたものだと、最大級の賞賛を送る次第であります。

 実は私は、ある事情から、近年、映画『東京オリンピック』(1965、市川崑監督)のオリジナル版、ディレクターズ・カット版(いずれもDVD)、および、黛敏郎作曲のサントラ完全版、それどころか、1964年のオリンピック東京大会関連資料を、それこそ「吐き気をもよおすほど」繰り返し、観たり聴いたり読んだりしたのだが、そのたびに、「この音楽が吹奏楽版になって、いまの中高生たちに演奏してもらえれば」と、本気で感じていたのである。だから、とてもうれしかった。

 正直なところ、管弦楽版で書かれた映画音楽を、吹奏楽版にすることには少々不安を覚えていたのだが、聴いてみたら、まったくの杞憂であった。確かに、スクリーンに流れていたあの音楽が、実に美しく再現されていた。第2楽章<体操>では、漆黒をバックに舞うチャスラフスカが目に浮かんだし、第3楽章<マラソン>では、スローモーションのアベベの筋肉がよみがえった。第4楽章<エンディング>で、ボツ・トラックが再現されていたのもうれしかった。

 ぜひともこのスコアを出版していただいて、多くの場で演奏されるようになってほしい(その際は、今井光也のファンファーレと古関裕而のマーチも一緒に!)。

 新作としては、川島素晴≪吹奏楽のための協奏曲≫や、江原大介≪フレイム〜吹奏楽とクラリネットのための協奏曲≫などが初演された。前者は、まことに脳髄を直撃される内容で、私のような素人には、いま目の前で起きていることを追うので精一杯だったが、これは実力バンドがコンクール自由曲に取り上げる価値が十分にあると思った。後者は、昨年の同氏作曲の課題曲≪躍動する魂≫を演奏した団体なら、すぐに親しみをもてるはずだ。これも、腕利きクラリネット奏者がいるバンドなら、とり上げたくなる曲だろう。

 だが……こうして次々と曲が演奏されるのだが、やはり、伊福部昭は、いまさらいうのも恥ずかしいのだが、とんでもない作曲家だと思った。最終曲、≪SF交響ファンタジー第3番≫(1983)の、福田滋新編曲初演である。いったい、ここまで聴くものを興奮させ、 血をたぎらせる音楽が、この世にあるだろうか。『キングコング対ゴジラ』『海底軍艦』『地球防衛軍』……もう、脳内血管がぶちきれる寸前であった。

 そして、結局、残り2曲は時間切れで演奏できなくなったのであった(奏楽堂は21時退館が義務づけられているらしい)。形式上「アンコール」扱いの2曲だったが、そうとはいえ、事前に告知されていたばかりか、当日のプログラムにも、堂々と曲名・解説が掲載されていたのに、それが、演奏されなかったのだ。これには、あえて苦言を呈したい。料金をとるコンサートで、プログラム上の曲が時間切れで演奏されないというのは、かなりまずいのではないか。松木敏晃新編曲の、黛敏郎≪天地創造≫など、ぜひ聴きたかった。企画制作者たちの意気込みはよくわかるが(私が企画者側だったら、やはり、これくらいやってしまったと思うけど……)、やはり、もっと曲目を絞って、解説やゲストのコメントなども、もう少し刈り込む進行を考えるべきだったと思う。

 それから、無茶な感想なのだが……これほどの内容と、臨時編成とはいえプロ中心のバンド(サクソフォン・セクションなどは、ヴィーヴ!SQ中心だった)なのだ。ぜひ一度、残響が十分あるコンサート・ホールで聴いてみたいのだが……。それでは「奏楽堂の響き」ではなくなってしまう、といわれるのは承知だが、内容があまりに素晴らしいので、つい、そんな思いも抱いてしまう、そういうコンサートであった。今回もCD化されると思うが、早く聴いてみたい。

富樫鉄火(吹奏楽大好きの音楽ライター)

(2010.05.03)


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