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【コラム】

富樫鉄火のグル新
第52回 ≪エル・カミーノ・レアル≫

ツィッターほど短くもなく、ブログほど個人的でもない、
同じような話題をグルグルめぐるけど、基本は最新の話題。グル新。

(週2〜3回更新しています。バックナンバーは最下段「目次ページへ」からお入り下さい)

 映画『アバター』の2D版DVDとブルーレイが、4月22日に全米で発売され、4日間で670万本を達成。早くも今年ナンバーワンになったと報じられた。もちろん、日本盤もたいへんな人気らしい。

 【第34回】の『アバター』の項で、「アメリカの歴史は異文化侵略の歴史」と書いたが、異文化を侵略したのは、もちろんアメリカだけではない。続きを以下に記す。

 特にスゴかったのは、スペインの南米侵略である。

 それがいかに凄まじかったかは、『インディアスの破壊についての簡潔な報告』(岩波文庫)を読むと一目瞭然だ。現地に赴いた聖職者ラス・カサスが、あまりの残虐ぶりに、これ以上、先住民を虐殺しないよう、母国スペインの皇太子に直訴した報告書である。

 コロンブスがアメリカ大陸を発見した1492年以後、スペインの征服者たちは、金銀財宝を求め、さらには先住民をキリスト教化するため、中南米に殺到し、「1500万人」の先住民を虐殺したという。エスパニョーラ島では、当初「300万人」いた島民は、最後はなんと「200人」にまで減った。

 『簡潔な報告』には、その殺戮方法も如実に書かれており、正直、最後まで冷静に読み通すのはつらい。もっとも穏やかな描写部分ですら、こんな調子である……

「(キリスト教徒たちは)誰が一太刀で身体を真二つに斬れるかとか、誰が一撃のもとに首を斬り落とせるかとか、内蔵を破裂させることができるかとか言って賭をした。彼らは母親から乳飲み子を奪い、その子の足をつかんで岩に叩きつけたりした」

「ある大きな村から、インディオたちは多くの食糧や贈物を携えて、われわれを一〇レグワも先に出迎えてくれた。村へ着くと(中略/キリスト教徒は)何一つしかるべき動機も原因もないまま、われわれの前に座っていた男女、子供合わせて総勢三〇〇〇人以上のインディオを短剣で突き刺した」

 まさに『アバター』ではないか。純朴なインディオたちは、当初、キリスト教徒を「天から来た人」と呼んでいたそうだが、あの映画のナヴィも、地球人を「スカイ・ピープル」と呼んでいた(もしかしたらキャメロン監督は、この『簡潔な報告』を読んでいたかもしれない)。

 八木澤教司の人気曲≪空中都市「マチュピチュ」〜隠された太陽神殿の謎≫でもおなじみ、ペルーのマチュピチュ遺跡は、高山の上にあって、地上からは確認することができない。なぜ、こんな場所に「都市」(神殿?)が建設されたのかは、いまでも謎らしいが、スペインの虐殺から逃れるためだったとの説がある。

 私は、『簡潔な報告』を学生時代に読んだのだが、その後の1980年代後半、吹奏楽界で、ある新曲が大人気となった。アルフレッド・リードの≪エル・カミーノ・レアル≫である。題意は「(スペイン)王の(進む)道」で、文字通り、スペインの華やかな「海外進撃」ぶりを音楽化した曲であった(コンクール全国大会初演は、1986年の富山ウインドアンサンブルと福井大学)。

 もちろんリードは、虐殺行為を描いたわけではなく、スペインが続々と世界中に進出していく様子を、あくまで「幻想」として描いただけなのだが(現に副題に<ラテン・ファンタジー>とある)、当時まだ若かった私は、曲と『簡潔な報告』の中身が重なってしまい、しばらく複雑な気分だったものだ。

 そういえばリードは、それ以前に≪アルメニアン・ダンス≫パート1・2を発表しているが、こちらは、トルコのジェノサイド(大量虐殺)に苦しんだアルメニアの民謡舞曲が題材であった。

 嫌な話だが、人間は、侵略や虐殺を繰り返す生き物なのだ。はるか未来のパンドラ星ででさえ、同じことが起きているのだから。

【注】現在トルコ政府は、アルメニア人に対して組織的ジェノサイドを行なった事実は認めていません。

富樫鉄火(吹奏楽大好きの音楽ライター)

【記事関連CD】

■吹奏楽曲でたどる世界史
【第23回】大航海時代以後(15〜16世紀):キリスト教の世界進出
http://www.bandpower.net/soundpark/togashi_sp/00_history/23_el/01.htm

【第34回】アルメニア人虐殺(1800年代末〜1900年代初頭)
http://www.bandpower.net/soundpark/togashi_sp/00_history/34_armenian/01.htm

(2010.04.28)


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