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【コラム】

富樫鉄火のグル新
第48回 映画『クロッシング』

ツィッターほど短くもなく、ブログほど個人的でもない、
同じような話題をグルグルめぐるけど、基本は最新の話題。グル新。

(週2〜3回更新しています。バックナンバーは最下段「目次ページへ」からお入り下さい)

 4月17日(土)から、東京・渋谷の「ユーロスペース」で驚くべき映画が公開されるので、ご紹介したい(その後、東京「銀座シネパトス」や、大阪「シネマート心斎橋」などで順次公開)。

 韓国映画『クロッシング』(キム・テギュン監督)である。

 舞台は現代。北朝鮮の田舎町で暮らす、父・母・息子の3人家族の物語だ。息子が敬愛する父は元サッカー選手で、現在は炭鉱夫である。貧しいながらも幸せな一家だった。

 あるとき、母が結核に倒れる。だが、いまの暮らしでは、薬を入手するカネもない。

 意を決した父は、カネを稼ぐため、密かに国境の河を越え、中国へ「脱北」する。そして、身分を隠して林業に従事する。もちろん不法就労者である、「脱北者」と判明すれば強制送還、それは「死」を意味する。

 だがその間、母は、息子の介抱のかいもなく、息を引き取っていた。孤児となった息子は、父を求めて、たった一人で国境を越えるが、逮捕され、強制収容所へ……。

 そうとも知らない父は、ボランティア団体の助けを借りて、ドイツ大使館に駆け込むが……。

 物語の後半は、この父と息子が再会できるかどうかに収斂されていく。北朝鮮の飢餓や強制収容所の実態、ボランティア団体の不可思議さもちゃんと描かれる。少年役のシン・ミョンチョル、その友人少女を演じるチュ・ダヨンの、子役2人の名演も忘れがたい。

 これは、まことに胸を衝かれる、そして、どうしようもなくやるせない映画である。辛口の映画評論家・前田有一氏ですら「感情を揺さぶる力は『火垂るの墓』より上」と絶賛している
http://movie.maeda-y.com/movie/01451.htm)。

 こんな国家が、21世紀のいま、日本の目の前にあることに、私たちは、どう反応し、どう対処すればいいのか、途方にくれるばかりだ。

 だが、これが現実なのだ(実話をもとに制作されている)。ぜひ多くの方々に、特に若いひとたちに観ていただいて、とにかく「現実」を知っていただきたい。 

 なお、この映画の音楽担当はキム・テソン。韓国芸能界に詳しい方は、「人気女性歌手アイビーの彼氏」としてご存知だろう。東方神起の曲なども作曲しているようだが、ここでは、ひたすら静謐で、上品な音楽を書いている。特に父子が空き地でサッカーに興じる場面に流れる曲や、全編に控えめに流れるストリングス曲など、「出しゃばらない映画音楽」のお手本のようなつくりなので、そちらにも耳を傾けていただきたい。

 実は本作は、すでに2008年秋の時点で日本公開が発表されていたにもかかわらず、なぜか公開されず、半ば「封印」されかけていた。それがようやく、2010年4月のいまになって正式公開されるのだ。その間、様々な問題があったようだが(宣伝にある「命がけのロードショー」は、大げさでも何でもなかったのだ)、それらを乗り越えて日本公開にこぎつけた配給関係者各位に喝采を送りたい。

■映画『クロッシング』公式サイト(予告編も観られます)
http://www.crossing-movie.jp/index.html

富樫鉄火(吹奏楽大好きの音楽ライター)

(2010.04.15)


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