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【コラム】

富樫鉄火のグル新
第39回 ≪紅蓮の斜陽≫

ツィッターほど短くもなく、ブログほど個人的でもない、
同じような話題をグルグルめぐるけど、基本は最新の話題。グル新。



 3月20日、新潟で開催されたアンコン全国大会。残念ながら、仕事の都合でどうしても行けなかったので、結果と演奏曲目を見ての感想を少々。

 第16回でとり上げた、小長谷宗一≪幻影≫を3団体が演奏したり(しかもすべて金賞!)、八木澤教司作品を4団体が演奏するなど、いくつかの人気作品・作曲家がいる。その一方で、一時期大人気だったSax4≪トレヴェールの「惑星」≫〜<彗星>(長生淳)、金8≪高貴なる葡萄酒を讃えて≫(リチャーズ)、金8≪ロンドンの小景≫(ラングフォード)、≪テレプシコーレ≫(プレトリウス)などは、ずいぶん少なくなっているようだ。

 中で、5団体によって演奏された作曲家が2人いる。

 ジャン=ミシェル・デュファイと、ジェリー・グラステイルである。

 デュファイは、5団体とも、Cl4≪オーディションのための6つの小品≫より、を演奏した。うち、「創価学会関西」が金賞を獲得した。

 いっぽうのグラステイルは、打7≪ヴォルケーノ・タワー≫を4団体が、打8≪紅蓮の斜陽≫を1団体が演奏した。うち、≪紅蓮〜≫で「福井県立羽水高校」が、≪ヴォルケーノ〜≫で「しばきや本舗」(愛媛)が金賞を獲得した。

 ≪ヴォルケーノ≫は、すでにアンコンでは人気定番曲だが、≪紅蓮〜≫は、今シーズン初登場の新曲である。

 近年、打楽器アンサンブルの世界で人気のグラステイルは、当バンドパワーで楽譜やCDが発売されているので、「身内贔屓」といわれそうだが、簡単にご紹介しておきたい。

 ≪紅蓮の斜陽≫は、西南戦争がモチーフになっている。

 明治10年9月、西郷隆盛の薩軍を鹿児島の城山に追い詰めた官軍は、いよいよ明朝、最後の総攻撃をかける前夜、軍楽隊による「送別演奏」を薩軍に送ったとの「伝説」がある。深夜の城山一帯に流れた響きは、双方の兵士たちの涙を誘った、とも。この一夜を、打楽器8重奏で描く曲なのだ。

 では、いったい、このとき、何が演奏されたのか。グラステイル氏もずいぶん調べたようだが、さすがに資料がなく、結局、ある具体的な「曲」が演奏されたとの、ファンタジーを想定した。

 その「曲」とは、初代≪君が代≫である。

 いま私たちが歌っている≪君が代≫以前、詞は同じながら、別旋律の「初代」があった。明治初期、薩摩藩軍楽隊の指導に招かれた、イギリスの軍楽隊長ジョン・ウィリアム・フェントンが作曲した(近年、秋山紀夫氏が、このフェントンの子孫を発見し、話題となった)。

 だが、日本語を解さない外国人が作曲したため、詞の抑揚や切れ目と、旋律が一致しておらず、たいへん歌いにくかった。

 そこで明治9年、曲を改訂することになったのだが、折悪しく西南戦争が勃発、フェントンも帰国してしまった。結局、宮内省の奥好義と林廣守によっていまの旋律に改訂されたのは、明治13年のことであった。

 つまり、西南戦争の時点では、まだ≪君が代≫は「初代」だったのだ。しかも、薩摩藩軍楽隊を指導し、日本に吹奏楽の曙をもたらしたフェントンの作曲。その曲を、官軍は、薩軍総攻撃の直前、送別曲として演奏した……のではないか、との想定で作曲されたのが、≪紅蓮の斜陽≫である(城山にある「大西郷永久にあり」の碑に、「紅蓮の斜陽、城山に映え/濃紺の森、赤々と染まる/若人の雄姿これに寸分たり」の文言がある)。

 だからこの曲は、後半で、フェントン作曲の初代≪君が代≫が流れる(たいへんうまく「塗り込め」られているので、そうと指摘されないと、わからないと思うが)。

 今回のアンコン全国大会では、「福井県立羽水高校」の演奏が金賞を獲得したが、熊本の「玉名女子高校」もとり上げている(惜しくも九州支部大会で、僅差で代表の座を逃した)。

 初代≪君が代≫が流れる、たいへん珍しい曲であり、おそらく近いうちに楽譜も発売されると思うので、機会があれば、ぜひお聴き(あるいは「演奏して」)いただきたい。

富樫鉄火(吹奏楽大好きの音楽ライター)

(2010.03.23)


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