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【コラム】

富樫鉄火のグル新
第31回 『上海バンスキング』

ツィッターほど短くもなく、ブログほど個人的でもない、
同じような話題をグルグルめぐるけど、基本は最新の話題。グル新。



 第19回で紹介した『上海バンスキング』に行ってきた(2月27日、東京・渋谷のBunkamuraシアター・コクーン)。1979年の初演から31年、最終公演から16年ぶりである。まるで同窓会にでも出るような気持ちで客席に入った。

 客席は、8割がたが50代以上の中高年。昨年の東京ドームにおける「サイモン&ガーファンクル」公演の雰囲気に近かった。

 あまりにいいたいことがたくさんあるので、ほんのいくつかだけ。

 出演者の大半は還暦過ぎ。しかも、楽器ができるといっても、プロ・ミュージシャンではない。あくまで「役者」である。

 なのに、なぜ、こんなに素晴らしいのだろう。

 串田和美のクラリネットは、相変わらずの「チンドン屋奏法」である。アンブシュアもなにもあったものではなく、とにかく「息の量」だけで無理やり鳴らしている。なのに、なぜ、あんなに哀しげで、味のある音楽を奏でられるのだろう。

 笹野高史のトランペットは、高音がキツキツで、音もかすれている。小日向文世のテナー・サクソフォンは、大幅にピッチが狂っている。吉田日出子は昔ながらのヨレヨレ台詞まわしで(それが味なのだが)、案の定、噛み噛みである。

 なのに、なぜ、プロの演奏よりも、はるかに感動させられるのだろう。

 バクマツ(笹野高史)が、後ろ向きで≪赤とんぼ≫を吹きながら、ポケットから「赤紙」(召集令状)を出すと、リリーが「コレ、ナニカイテアリマスカ」と聞くシーン(ここは、観るたびに泣かされる)。マドンナ(吉田日出子)が、アカペラで、ダミアの≪暗い日曜日≫を歌うシーン。ラスト、亡霊たちがあらわれて≪ウェルカム上海≫を寂しげにセッションするシーン。

 世界一のジャズ・ミュージシャンが揃っても、こんな感動的な音楽シーンは再現できまい。

 芝居の力、言葉の力が加わったとき、音楽は、テクニックなど関係ない、なにか、別のものに昇華するのかもしれない。

 ほかに……

 カーテン・コールで≪シング、シング、シング≫が演奏されたが、明らかに、ベニー・グッドマンの1938年カーネギー・ホール・リサイタルの演奏をもとにしたアレンジだった。よくやったと思う。

 四郎(串田和美)が、マドンナの父親の前で、ジャズをやめると誓い、「ノコギリで斬ったクラリネット」は、昔は「セルマー」だったはずだが、いまでは「クランポン」になっていた。

 クラリネットを花瓶の中に隠す際、バクマツが小声で「16年前もここに隠したっけな」と囁いたのがケッサクだった。

 最後に、もう一度同じことを。

 どこかの出版社さん、吹奏楽版で≪「上海バンスキング」メドレー≫、出してくれませんか。

■上海バンスキング
http://www.bunkamura.co.jp/cocoon/lineup/shosai_10_bansking.html

富樫鉄火(吹奏楽大好きの音楽ライター)

(2010.03.04)


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