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【コラム】

富樫鉄火のグル新
第30回 勘十郎と黛の≪BUNRAKU≫

ツィッターほど短くもなく、ブログほど個人的でもない、
同じような話題をグルグルめぐるけど、基本は最新の話題。グル新。



 2月23日(火)、東京・大手町の日経ホールで「桐竹勘十郎 人形の世界」なる文楽公演があったが、演目のひとつ『関寺小町』の伴奏音楽が、黛敏郎作曲、独奏チェロのための≪BUNRAKU≫だった(堤剛演奏のテープ使用)。

 私は文楽好きなのだが、大夫(浄瑠璃)と三味線以外の伴奏音楽による文楽は、あまり記憶にない(昨年、国立劇場が、シェイクスピアの≪テンペスト≫を文楽化したが、これだって旧来の床本・浄瑠璃アレンジで、音楽は大夫と三味線だった)。

 ≪BUNRAKU≫は、1960年、倉敷の大原美術館開館30周年記念に委嘱され、同館で松下修也が初演した。チェロ1本で、大夫と三味線を表現し、人形の動きまでをイメージさせる異色作だ。この時期の黛はまさに絶頂期で、≪涅槃交響曲≫≪曼荼羅交響曲≫といった代表作を発表し、アメリカで吹奏楽(管楽アンサンブル)曲や≪舞楽≫などを続々生み出している。そのころの名曲のいくつかは、名盤『トーンプレロマス55』(岩城宏之指揮、東京佼成ウインドオーケストラ)で聴くことができる。

 『関寺小町』は、本来が能の演目である。近江の関寺近くに庵をいとなむ100歳の老女が、若き日を回想する。実はこの老女は、かつて絶世の美女だった小野小町である。恋に燃えたころの思い出に小町の心は浮き立つが、明け方になると、老いを自覚し、やがて庵に帰っていく……。

 文楽では、人形舞踏四部作『花競四季寿』(はなくらべしきのことぶき)の一編となっており、この『関寺小町』は、秋の部にあたる(冬の部が有名な『鷺娘』)。先日まで、国立劇場でも四部通し上演されていた。

 黛が『関寺小町』を意識して≪BUNRAKU≫を作曲したのかどうか知らないが、今回の上演は、実にピッタリだった。この選択が勘十郎によるものだとすれば、さすがだと思う(私が知らなかっただけで、『関寺小町』を≪BUNRAKU≫でやった前例があるのかもしれないが)。

 冒頭は夕闇迫るススキの荒野。三味線の爪弾きがピッツィカートで、大夫の唸りが擦弦で表現されると、石の上に呆然と座っていた老女が、ジワリジワリと動き出す。

 なるほど、黛は≪BUNRAKU≫で、こういう世界を表現したかったのかもしれない。国立劇場では絶対にできないことで、ぜひ、この種の試みを増やしてほしいものだ。

 『関寺小町』の勘十郎は陰遣いだったが、舞台全体が薄暗い美術だったので、出遣いでもよかったのではないか(つづく『鷺娘』は出遣いだった)。幕間、トーク相手の中丸三千繪(オペラ歌手)が、「オペラと人形の共演もできそうですね」といっていたが、それはやめてほしい。

富樫鉄火(吹奏楽大好きの音楽ライター)

(2010.03.03)


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