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【コラム】

富樫鉄火のグル新
第25回 冬季オリンピックと吹奏楽(4)
     映画『白い恋人たち』

ツィッターほど短くもなく、ブログほど個人的でもない、
同じような話題をグルグルめぐるけど、基本は最新の話題。グル新。



 1964年の東京オリンピックを記録した映画『東京オリンピック』(1965、市川崑監督)は、空前の大ヒットとなった。初公開時の観客動員数は1800万人。これは、2001年に『千と千尋の神隠し』が登場するまで、破られなかった。

 この映画は、独特の映像美の連続である。勝敗の結果などは、ほとんど説明されない。選手名や競技名さえ出てこないシーンがほとんどだ。マラソンでは、途中脱落する選手の姿をえんえんと追う。よって国会で「芸術か、記録か」の議論となった。

 このとき、市川崑の脳裏にあったのは、1936年のベルリン・オリンピックを記録した映画『民族の祭典』『美の祭典』(1938、レニ・リーフェンシュタール監督)だった。戦後、ナチスのプロパガンダ映画として半ば封印されていたが、これもまた独特の映像美で知られるドキュメント映画である。この手法を、市川崑は、さらに推し進めたのだ。

 以後、オリンピック記録映画のあり方は、ガラリと変わってしまった。その影響を最初に受けたのが、映画『白い恋人たち』(1968、クロード・ルルーシュ監督)である。これは、1968年にフランスのグルノーブルで開催された冬季オリンピックの記録映画だ。

 ここでは、もはやナレーションさえ登場しない(『東京オリンピック』では、三國一郎のナレーションが入っていた)。雪と氷の上で戦う人間たちや、男女の姿を、ひたすら美しく追った「映像詩」である。いったい、どうやれば、こんなに美しいスポーツ映像が撮れるのかといいたくなるほどだった。

 だが、「美しい」と感じるのは、映像の力だけではない。なんといっても、フランシス・レイの音楽が、特筆ものの素晴らしさだった。あの音楽が付かなかったら、これほど名を残す映画にはならなかったかもしれない。中には、画面中の選手の動きと音楽が、見事にシンクロしているような部分さえある。実は、クロード・ルルーシュ監督は、フランシス・レイに、先に音楽を書いてもらい、それにあわせてフィルムを編集したのである。いわば、プロモーション・ビデオの先駆けであった。この手法は、2年前の名作映画『男と女』(1966)ですでに実験すみであった。

 名曲≪白い恋人たち≫は、70年代、よく演奏している吹奏楽部があったが(スキー場やスケート場でも、必ず流れていた)、いまは、おそらくミュージック・エイト版くらいしか編曲譜はないのではないか。原曲は電子オルガン(たぶん「ハモンド・オルガン」)が主旋律を奏でる。それがあまりにドンピシャなので、吹奏楽で、あのムードを再現するのは容易ではない。

 しかし、冬季オリンピックを「ロマンチックな冬の祭典」に昇華させたのは、明らかに、映画『白い恋人たち』と、フランシス・レイのテーマ曲である。

※映画『白い恋人たち』の原題は『フランスの13日間』という、そっけないもの。この邦題、傑作だと思う。北海道のお菓子「白い恋人」の元ネタでもある。

富樫鉄火(吹奏楽大好きの音楽ライター)

(2010.02.22)


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