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【コラム】

富樫鉄火のグル新
第22回 冬季オリンピックと吹奏楽(1)
    山本直純≪白銀の栄光≫

ツィッターほど短くもなく、ブログほど個人的でもない、
同じような話題をグルグルめぐるけど、基本は最新の話題。グル新。



 1971年の夏休み、中学生だった私は、東京・上野の東京文化会館で、新日フィルの「世界5大B演奏会」なる、不思議なコンサートに行った。バッハ、ベートーヴェン、ブラームス(ここまでは「3大B」)、ビートルズ、バート・バカラック……(いや、もっといて「7大B」とか「8大B」だったかもしれない)を演奏する、愉快な音楽会だった。

 このときの指揮が、ヒゲでおなじみの山本直純だった。私は「TVによく出てくるタレント指揮者」程度の認識でいた。

 その山本直純が、プログラム終了後、マイクをもって「さっき、バッハの≪小フーガト短調≫をやりましたが、冒頭のオーボエが、リードが割れかかっていました。お詫びします。もう一度演奏しますから、聴いてください」と言って、同曲をまた演奏した。「そういえば、ものすごいビブラートのかかった音だったなあ」とは思ったが、奏法の一種なのだと思い込んでいた。そんな裏事情を堂々と告白して、もう一度演奏する山本直純が、いっぺんで好きになってしまった。

 終演後、プログラムにサインをしてもらおうと、楽屋口で待ち構えていた。やがて出てくると、嫌な顔ひとつせず、「ハイハイ」と応じてくれる。しかも、こちらの差し出したボールペンを制して、自分のカバンから、24色もあろうかと思われるサインペン・セットを出して「どの色がいい?」と聞く。私のほかにも数人、サインをねだっているひとがいたが、いちいち好みの色でサインをしてあげていた。私はオレンジでサインをしてもらった。面白い指揮者だなあ、とさらにファンになった。

 その翌年の1972年。札幌で冬季オリンピックが開催された。TVで開会式の入場行進を見ていたら、実にカッコいい、モダンなマーチが聴こえる。いままで聴いたことのない曲だった。すでに吹奏楽部に入っていたから、「こういうマーチを演奏したいものだ」と思った。

 やがてそのマーチが、山本直純作曲≪白銀の栄光≫と知った。驚いた。あの、サインペンのヒゲのおじさんが作曲したというのだ。山本直純は、タレントどころか天才作曲家であることを、このとき、初めて知った。

 高校生になって、部室に≪白銀の栄光≫の楽譜があったので、やってみた。とんでもなく難しい曲だった。室内楽曲みたいな、すべてのパートがむき出しになる恐ろしい曲だった。低音リズム部が、よく聴くとちゃんとした「メロディ」になっているところも新鮮だった。

 いま、この曲の楽譜は、容易に入手できるのだろうか。現代のアマチュア吹奏楽は、当時よりずっとレベルがアップしているから、さほど難曲ではないだろうが、もっといろんなところで演奏されていい名曲だと思う。

 バンクーバー大会の開会式、先住民族のオン・パレードも独特のヴィジュアルだったが(どうも近年、夏も冬も、開会式は先住民族が主役のようなイメージがあるが)、≪白銀の栄光≫を凌駕する音楽は、まったく流れなかった……と私は思っている。

(2010.02.15)


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