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【コラム】

富樫鉄火のグル新
第21回 十束尚宏とシェーンベルク

ツィッターほど短くもなく、ブログほど個人的でもない、
同じような話題をグルグルめぐるけど、基本は最新の話題。グル新。



 2月6日(土)、東京・立川の「アミュー立川」(立川市市民会館)で、シエナ・ウインド・オーケストラによる、子供向けのコンサートがあった。私も解説などでほんの少しお手伝いさせていただいたのだが、アンコール曲に仰天した。

 シェーンベルク作曲≪「グレの歌」のモチーフによるファンファーレ≫が演奏されたのである。

 あらためて述べるが、この日のコンサートは「こども音楽館in多摩」と題され、聴衆は小学生とその家族、それに中学生が中心。プログラムも≪アルメニアン・ダンス パート1≫や、≪ディズニー・メドレー≫≪はとぽっぽ世界旅行≫など、いわゆる「ファミリーで楽しめる曲」ばかりである。

 ゆえに、アンコールでは≪オーメンズ・オブ・ラブ≫あたりが演奏されるかと思いきや、なんと「シェーンベルク」とは!

 当日の指揮者は、十束尚宏氏である。

 十束氏は、昨年秋から、断続的にシエナWOの定演やコンサートに客演しており、高い評価を得ていた。ヴォーン=ウィリアムズ≪トッカータ・マルツィアーレ≫、グレインジャー≪リンカンシャーの花束≫、ホルストの≪第一組曲≫といった古典的オリジナルなど、近年聴いた中でトップクラスの名演だった。私は不勉強なので、十束氏が、過去にどれほど吹奏楽を指揮してきたのか知らないのだが「もしかしたら、十束氏と吹奏楽の相性はドンピシャなのでは?」と思わされるに十分だった。

 さすがに、佐渡裕氏のような、ポップス・ステージでの楽しいパフォーマンスまではないのだが、≪惑星≫のようなクラシックでも、リードの曲でも、また≪ディズニー・メドレー≫でも、とにかく徹底的に楽譜を読み込んでキチンとした音楽を聴衆に届けようとする姿勢にあふれているのがわかる。

 プレイヤー諸氏に聞いても「ひたすら真摯に楽譜に向き合って、細かいところまで的確な指示を出してくれる指揮者」と、多くが口をそろえていた。

 それにしても……いくらアンコールとはいえ、子供向けコンサートでシェーンベルクとは……だが、十束氏自身がマイクをもって解説してくれた話を聞いて、なるほどと思った。

 この曲は、音楽史に残るウルトラ級の超大作≪グレの歌≫の中のモチーフをいくつか使用し、金管アンサンブルと打楽器群のために、作曲者自身が2分弱にまとめたファンファーレである。ストコフスキー指揮=ハリウッド・ボウル・コンサートの、オープニング用に書かれた(ただし、本番には間に合わなかった)。

 十束氏は、シェーンベルクを、特に≪グレの歌≫をこよなく愛していた。ウィーンの住居も「シェーンベルク・センター」のそばだという。だが、≪グレの歌≫は、編成も演奏時間もあまりに巨大で、そうそう演奏されるものでもない。そこで、エッセンスが詰まった、このファンファーレを、いつか多くの人たちに聴いてもらいたいと願っていた。そのために、自ら楽譜を購入して、演奏の機会を待っていたのだという。

 確かに日本では、1992年に東京佼成ウインドオーケストラが、フレデリック・フェネルの指揮で録音したことがあるくらいで、そうそう頻繁に聴ける曲ではない。

 そこで今回は、子供向けのコンサートではあるが、こういう吹奏楽曲もあるのだということを知ってもらいたくて、とりあげたようだ。子供たちは、ビックリ仰天の表情だったが、少なくとも「なにやらスゴイ音楽があるんだなあ」と感じただろう。それで十分だと思う。当日、会場にいた子供たちの中の、何人かの脳裏に「シェーンベルク」「グレの歌」というキイワードが刻まれる、それが重要だと思う。

 「十束吹奏楽」は、今後、見逃せない何かを生むような気がする。

※≪グレの歌≫原曲は、語り手1人、ソロ歌手5人、男声4部合唱3群、混声8部合唱が必要。オケも、ホルン10、トランペット6、ティンパニ6台(2人)を含む、とてつもない編成。演奏時間は、ほぼ2時間。

富樫鉄火(吹奏楽大好きの音楽ライター)

【シェーンベルク「グレの歌」収録CD】
■セレブレーション!/東京佼成ウインドオーケストラ
http://item.rakuten.co.jp/bandpower/cd-1495/


(2010.02.12)


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