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【コラム】

富樫鉄火のグル新
第20回 『THIS IS IT』と美空ひばり

ツィッターほど短くもなく、ブログほど個人的でもない、
同じような話題をグルグルめぐるけど、基本は最新の話題。グル新。



 マイケル・ジャクソンの映画『THIS IS IT』をご覧になった方も多いと思う。急逝によって中止となった公演のリハーサル風景を記録したドキュメント映画だ。最近DVD化されたが、たいへんな売れ行きのようで、タワー・レコードなど、なんとクラシック売場にまで並べている。

 私は、この「グル新」第1回で、マイケル・ジャクソンに触れたが、別にマイケルが嫌いなのではなく、さんざん「奇人変人」扱いしていながら、亡くなったら「聖人」扱いする、メディアの変節ぶりがイヤなのだ

(朝青龍引退報道も同様。あれほど引退を期待していながら、いざホントウに辞めたら、惜しい力士がいなくなるだの、親方にも責任があるだの、報じ方が変わった。確かに大ちゃん=高砂親方も情けないが、朝青龍はもうすぐ30歳の大人だよ?)。

 『THIS IS IT』で驚くのは、マイケルが、実に緻密に、熱心に、自ら参加して公演準備を進めていることだ。しかも、常にファンのことを気にしていて、「ファンが楽しめるものを」「誰も見たことのないものを見せる」「2時間だけ、ファンを別世界に連れて行く」と、見事なプロフェッショナルぶりである。≪スリラー≫≪今夜はビート・イット≫≪ブラック・オア・ホワイト≫などの往年のヒット曲では、ちゃんと、当時のままの振りつけや歌い方を再現する。

 これを観ていて思い出したのが、1988年4月の「不死鳥 美空ひばり in TOKYO DOME」公演である。ひばりの、退院後初の復活公演にして、最後の大型コンサートだった。

 私は、この公演を、一観客として東京ドームで観たあと、舞台裏の取材にかかわったことがある。そこで知った、本番にかけるひばりの姿勢は、まさに『THIS IS IT』のマイケルとそっくりだが、ひとつだけちがっていたことがある。ひばりのほうは、すでに体調が絶不調だったのだ。大腿骨骨頭壊死で「普通なら一歩も歩けない」状態だった。

 にもかかわらず、ひばりはラストで、≪人生一路≫にのって、強烈な腰の痛みに堪えながらアリーナ全長にわたる花道を見事に歩きとおした。このとき私は、「いま、たいへんな光景を見ているのだ」と興奮を抑えきれなかった(ひばりは、当初「私、こんなに長い距離、歩けない」とビビッていたのである)。だがこのとき、ひばりの脳裏にあったのは、ただひとつ「ファンを楽しませる」ことのみだった。

 さらに驚いたのは、昔の曲を歌うとき、振りだけでなく、声質までもが昔(のスタイル)にもどることだった。私が子供のころ、祖母が「ひばりは、昔の曲を昔のまんま歌ってくれるのがいい」とよくいっていたが、このことだったのかと納得したものだ。これまた、マイケルにそっくりである。

 マイケルが亡くなったのは、『THIS IS IT』本番直前だった。ひばりが亡くなったのは、東京ドーム公演から約1年後。そんな2人の(ほぼ)最期の姿が、ともに大がかりなコンサートがらみの映像で残っていることに、不思議な因縁を感じる。

※『不死鳥 美空ひばり in TOKYO DOME』も、コロムビアからDVD化されています。これが大病を抱えた病人かと思う、驚異の映像です。

富樫鉄火(吹奏楽大好きの音楽ライター)

(2010.02.09)


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