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【コラム】

富樫鉄火のグル新
第16回 小長谷宗一≪幻影≫

ツィッターほど短くもなく、ブログほど個人的でもない、
同じような話題をグルグルめぐるけど、基本は最新の話題。グル新。



 1月31日(日)、アンコン東京支部大会があった。ここで、小長谷宗一≪幻影≫(金8)を演奏した団体が3つあった(ただし、抜粋個所は別)。

 「大学の部」で創価大学と東海大学(この2団体は、抜粋個所も同様で、しかも出番が連続だった)。そして、「職場一般の部」から、創価グロリア。

 結果は、3団体ともすべて「金賞」。しかも、東海大学と創価グロリアは代表金賞(全国大会行き)も射止めた。これには、私も少々驚いた。道楽者の私が、あまり偉そうなことはいえないが、なるほど、こういう曲と演奏が、今の時代には評価されるのかと、あらためて勉強になった。世田谷学園中学のクラ8≪悲愴≫(ベートーヴェン)=ダメ金/世田谷学園高校の管打5≪花〜in the style of Mozart≫(滝廉太郎・小林滉三編曲)=銀賞/中央大学のクラ8≪ピアノ四重奏曲第1番〜第4楽章≫(ブラームス・奥田英之編曲)=銅賞……などに感動していたのだが、審査結果を聴いて、それどころではないような気にさせられた。

 ≪幻影≫は、2001〜02年にかけて、創価グロリアの委嘱で書かれた3楽章の金8曲(Trp3+Hrn+Trb2+Euph+Tuba)で、9・11テロに触発された作品だ。すでに当時のアンコンにも登場していた。

 小長谷氏といえば≪グランド・マーチ≫≪空の精霊たち≫、あるいは数多いフランス・バレエを中心とした編曲作品などに代表される「わかりやすい」作品が知られがちだ。だがこの≪幻影≫は、一筋縄ではいかない。いわゆる「ゼンエイオンガク」である(詳述しないが、その「ゼンエイ」ぶりは、いまのアンコンにおいては、かなりの過激度を見せる)。

 それが、9・11テロから約10年を経たいま、こうして、再び演奏され、評価されている。なぜだろう。誰か「仕掛け人」がいるのだろうか。それとも、「時代」がなせるワザなのか。小長谷氏は、10年前に、音楽で2010年を予言していたのか。

 すべてフォローしていないが、ほかの地区の予選・支部大会にも登場しているのではなかろうか。

 ≪幻影≫が、アンコン勝ち抜けに有利らしいなどと安易な考えの方はおられないと思うが、発表から10年のいま、あらためて演奏・評価されている事実を、考え直すべきと思われた。9・11テロによって顕在化した問題は、10年たっても、何も解決していないことの証左なのかもしれない。いまこそ、もっと多くのひとに聴かれて、何かを考えるきっかけにしてほしい作品だ。

 今回、≪幻影≫に挑んで東京支部大会に進んだ3団体に、お礼をいいたい気持ちでいっぱいだ。そして東海大学と創価グロリアには、全国大会での名演を期待したい!

※東海大学は≪幻影≫のT<切り裂かれた都市>を、創価グロリアはU<すれ違う心>とV<歪んだ時間(とき)>を演奏しました。この曲は全3楽章なので、全国大会では全曲が演奏されることになります。

【小長谷宗一≪幻影≫が収録されたCD】
■第32回全日本アンサンブルコンテスト全国大会
<大学・職場・一般編>(全32団体)【CD2枚組】
http://item.rakuten.co.jp/bandpower/cdi-0103/

富樫鉄火(吹奏楽大好きの音楽ライター)

(2010.02.01)


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