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【コラム】

富樫鉄火のグル新
第130回
書評『「戦場のメリークリスマス」30年目の真実』

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『「戦場のメリークリスマス」30年目の真実』
WOWWOW「ノンフィクションW」取材班(東京ニュース通信社)

 仕事柄、さまざまな「メイキング本」を読むが、こんな面白い本は、ひさしぶりだった。 大島渚監督の映画『戦場のメリークリスマス』(1983年、日・英・豪・ニュージーランド合作)の制作過程を追った本だ。WOWWOWのTVドキュメントの書籍化らしい。そのせいか、余計な解説は少ない。いわば、長めのTV台本である。それがよかった。妙な“解釈”を読まされることなく、関係者の証言に集中できた。

 内容は、ほぼ全編、アクシデント&トラブル列伝である。特に驚いたのは、セリアズ少佐(デヴィッド・ボウイ)とヨノイ大尉(坂本龍一)の抱擁シーンだった。「西洋」と「東洋」の接近を象徴する名シーンだが、スローモーションで、半ば夢か幻想のような画面となっていた。

 ところが、この名場面は「事故」だったという。カメラの回転部分にフィルムが正確に絡んでおらず、現像してみたら、1秒=24コマ中、8コマずつしか映っていなかった。仕方なく、映ったコマだけをつないでみたら、不思議なコマ落としのようになった。しかし、かえって効果的だと、そのまま採用になる。助監督の伊藤聡は「神懸かり的についていた」と回想しているが、大島渚の臨機応変の対応ぶりもさすがだ(ほぼ全シーン、ぶっつけ本番のファーストテイクをOKとしていた)。

 主演・音楽の坂本龍一は、役者も映画音楽も、初体験だった。出演依頼に来た大島監督に、「音楽もやらしてください」と言ったら、その場でOKしてくれた。「東洋人が聴いても西洋人が聴いてもエキゾチックに聴こえるクリスマスの曲」を、3か月かけてじっくりつくった。関係者全員で「オーシマ・ギャング」のTシャツを着てカンヌに乗り込む話なども、ワクワクさせられる。

 この映画を初めて観た日のことは、忘れない。1983年6月、いまはなき、1,300人収容(当時)の新宿ミラノ座で観た。劇場前は長蛇の列、客席内も立ち見でギッシリだった。私は、後方の階段通路に座り込んだ。ラスト、ビートたけしの顔がアップになり「メリークリスマス、ミスター・ローレンス!」とほほ笑んだ瞬間、ストップモーションに。坂本龍一の名曲が流れる。すると、場内から一斉に拍手が起こった。私は、なぜか涙が出た。理屈はわからないが、まったく新しい映画に出会えたような気がした。坂本龍一、デヴィッド・ボウイ、ビートたけし……大島渚は、プロ俳優を避けて、戦後生まれの私たちのための戦争映画をつくってくれたような気もした。

 あれから30年。いったい何回、この映画を観ただろう。そしていま、本書を読むと、大島渚の声が聴こえてくるようだ。「やりたいことをやれよ! ひたすら念じていれば、絶対に実現するんだから!」と。
(敬称略)


富樫鉄火(昭和の香り漂う音楽ライター)
FMカオン、毎週(土)23時〜「BPラジオ/吹奏楽の世界へようこそ」パーソナリティもやってます。パソコンやスマホでも聴けます。 6月は、「シリーズ戦後70年/ノルマンディ上陸1944」と「来日直前、ジェイムズ・バーンズの魅力」です!

 

(2015.06.12)


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