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【コラム】

富樫鉄火のグル新
第129回
劇評『愚かもの梶鉄』

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グループK+直也の会 合同公演『愚か者梶鉄』
作・演出/石橋直也
プロデューサー・主演/香川耕二
(6月2〜7日、笹塚ファクトリーにて)

 ヤクザ映画の基本モチーフは、ほぼすべて「組織の維持・継承」と「世代交代」である。これらがうまくいかない話を、手を変え品を変え、描く。実はどの家庭や組織にもある問題で、大塚家具の父娘対立も、映画『ゴッドファーザー』も、パール・バック『大地』も、トーマス・マン『ブッデンブローク家の人びと』も、北杜夫『楡家の人びと』も、シェイクスピア『リア王』も、基本はみんな同じだ。いまベルリン・フィルの次期音楽監督が決まらなくて話題になっているが、あれなど、三島由紀夫がギリシャ悲劇にたとえたヤクザ映画の名作『博奕打ち 総長賭博』(1968)を彷彿とさせるではないか。だがその後、ヤクザ映画は実録路線となり、『仁義なき戦い』シリーズ(1973〜)を経て、邦画界の衰退と共に、ジャンルとしては、ほとんど消えてしまった。

 それを、ナマの舞台でよみがえらせ、客席を泣かせた演劇集団がある。俳優・香川耕二(グループK)と、俳優・劇作家・演出家の石橋直也(直也の会)の合同公演『愚かもの梶鉄』である。

 戦後の復興期、関東と関西の二大ヤクザが大戦争に突入しようとするのを、双方のトップ(すでに年老いて、事実上、引退している)が、最後の力を振り絞って静止させようとする物語だ。舞台は、好々爺となった関東の組長・梶鉄男(香川耕二、名演!)が、過去を回想しながら進行する。梶鉄が、しばしば、さびれた映画館に入り浸るシーンが出てくる。客席がスクリーンに重なり、まるで物語全体がフィルム上の幻影であるかのような錯覚に陥る。凡百のヤクザ物語をファンタジーに昇華させるような演出で、石橋直也のアイディアに感心した。

 梶鉄の組と敵対する関西のトップは、かつての刑務所仲間で、苦労をともにしてきた親友である。二人は争う気などないのだが、エネルギーが余っている若い者たちに、彼らの思いは通じない。彼ら旧世代の願いは、次世代に通じるのか……。

 ベテラン声優・大塚明夫の貫録、二反田雅澄のブチ切れ寸前ぶりなど、出演俳優たちの熱演も忘れがたい。映画やTVドラマのように目まぐるしく場面が転換し、セリフや演技をじっくり味わう舞台劇本来のスタイルとは、かなりちがう。だが今や、スクリーンで、こういうヤクザたちに会うことは不可能である。香川・石橋には、ぜひ、この「梶鉄」をシリーズ化してほしい。今作では描かれなかった戦時中の出来事や(梶鉄も出征したのでは?)、戦後、占領軍とのかかわり、さらには半島系ヤクザとの確執など、様々なドラマが描けるはずだ。それら外伝は、そのまま、日本の近現代裏面史になる。映画で観られなくなった任侠の男たちを、ぜひ舞台で再現しつづけてほしい。[6月4日、夜の部観劇]
(敬称略)

※草なぎ君を逮捕した、右側の黒い刑事が香川耕二です

富樫鉄火(昭和の香り漂う音楽ライター)
FMカオン、毎週(土)23時〜「BPラジオ/吹奏楽の世界へようこそ」パーソナリティもやってます。パソコンやスマホでも聴けます。 6月は、「シリーズ戦後70年/ノルマンディ上陸1944」と「来日直前、ジェイムズ・バーンズの魅力」です!

 

(2015.06.08)


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