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【コラム】

富樫鉄火のグル新
第122回
あるとんかつ屋の廃業

ツィッターほど短くもなく、ブログほど個人的でもない、
同じような話題をグルグルめぐるけど、基本は最新の話題。グル新。

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 ほぼ創業60年になる、東京・池袋の老舗とんかつ屋が、この4月1日に、閉店廃業した(派手な宣伝やマスコミ取材を避ける店だったので、店名は伏せる)。店主は、学生時代、吹奏楽部で活躍していた人で、たいへん真摯な音楽通だ。そのため、常連客には、作曲家、指揮者、演奏家などの音楽関係者や、愛好家が多かった。甘味のあるしっかりした肉質や、ひき肉がぎっしり詰まったメンチカツ、先代以来の糠漬けなどが名物で、開店から閉店まで、席が空くことはなかった。私も20年近く通っており、常連客や店主と、音楽の話をするのが楽しみだった。

 店主は二代目で、まだ60歳代前半の若さである。「90歳までは、とんかつを揚げ続けますよ」が口癖だった。なのに、なぜ廃業しなければならないのか。店内の挨拶文には「高品質の豚肉を継続入手することが不可能な為」と綴られていた。確かにここ最近、臨時休業することが多かった。食肉流通の事情については知る由もないが、仄聞するに、TPP問題も絡んでいるようである。

 TPP(環太平洋連携協定)交渉で、アメリカは豚肉の輸入関税撤廃(もしくは大幅ダウン)を要求しており、日本政府は、ほぼ受け入れる方向である。日本人は大の豚肉好きだ。牛肉の倍以上を消費している。ところが牛肉と違って、豚肉は、日米で同じ品種が多いらしい。よって、日本の養豚業者を保護するため、アメリカ産の豚肉には、高率の関税が課せられている。これが撤廃もしくは低減されれば、アメリカ産の豚肉がいま以上に大量に流れこんでくることは確実だ。日本の養豚飼料は輸入に頼っているが、アメリカは自前だ。だから、ものすごく安い。安い豚肉が食べられるのならありがたい話だが、日本の養豚業者は立ち行かなくなる(第一、安全面でも不安だ)。すでに、1970年代に豚肉輸入が解禁される以前、40万戸以上あった国内養豚業者は、現在は7000戸にまで減っている。かくして、ここ数年、実は私たちの前から、国産の上質豚肉は、明らかに減っていたのである。

 そんな中、先の池袋の店主は、たいへんな努力をして、高品質の豚肉を確保し続けていた。それもついに限界に達し、廃業を決意した。「少しくらい肉質が変わっても、店を続けてほしい」との我々の願いは、彼には通じない。「それは、長年通い続けて下さっているお客様を、だますことになる。自分には、そんなことはできない」と語っていた。

 アメリカは、TPPで、著作権保護期間の延長も要求している(それでいて「戦時加算」廃止には応じようとしない)。多くの人に愛され、真面目に営業し続けるとんかつ屋を廃業に追い込み、さらにミッキーマウスや「アナ雪」で日本人からカネを搾り取る。アメリカによる「戦後占領」は、いつになったら終わるのか。


富樫鉄火(昭和の香り漂う音楽ライター)
FMカオン、毎週(土)23時〜「BPラジオ/吹奏楽の世界へようこそ」パーソナリティもやってます。パソコンやスマホでも聴けます。4月は、「シリーズ戦後70年/日本の戦後復興」、そして「新発見! 19世紀イタリア巨匠の吹奏楽曲」です。

 

 

(2015.04.06)


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