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【コラム】

富樫鉄火のグル新
第118回
タゴール・ソングが流れる、インドのミステリ映画

ツィッターほど短くもなく、ブログほど個人的でもない、
同じような話題をグルグルめぐるけど、基本は最新の話題。グル新。

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 インド映画といえば、一本の中に歌・踊り・恋・アクションがすべて盛り込まれている構成が売り物だったが、最近はそうでもないらしい。現在公開中の『女神は二度微笑む』は、歌も踊りもない、生粋のミステリ映画である。しかもずば抜けた面白さだ。

 ロンドンに住むインド人夫婦。夫がインド・西ベンガル州のコルカタへ出張したまま消息を絶った。妻は、妊娠中で身重にもかかわらず、健気にも、一人で夫を探しに、コルカタへやってくる。ところが、どこにも夫がいた形跡がない……。

 まるで松本清張『ゼロの焦点』を思わせる設定だが、事態は予想を裏切る方向へ進み、ラストではアッと驚くドンデン返しが待っている。主演女優の美しさも筆舌に尽くしがたく、コルカタの光景や風俗などもたいへん魅力的だ。

 プログラムの澁谷俊樹氏(インドお祭り研究家)の解説によると、物語のクライマックスの舞台になるコルカタの祭りは、ある神話に基づいており、ゆえに、コルカタ市民がこの映画を観ると、かなりの人は、驚愕のドンデン返し以前に、おおよそ、仕掛けの見当がつくんだそうである。

 さらに驚いたのが、ラスト・クレジットのバックに流れた歌だ。最初、歌詞の字幕を観ていて「どこかで読んだ詞章だな」と思っていたのだが、これもプログラムの松岡環氏(字幕監修)の解説を読んで気が付いた。インドの大詩人で、ノーベル文学賞受賞者、タゴール(1861〜1941)の「ひとり歩め」だったのだ。「汝の声、誰も聞かずば、ひとり歩め、ひとり歩め」という有名な詩で、インド独立の父ガンジーが愛好したことでさらに有名になった。松岡解説によると、タゴールの詩に曲を付けたものはたくさんあるそうで、「タゴール・ソング」なる一大ジャンルを形成しているらしい。この「ひとり歩め」も、「ベンガル人なら誰でも口ずさめる小学校唱歌的存在」の曲だそうだ。しかも映画の中で歌っていたのは、インド映画界の大御所俳優だという。ネタバレになるから言えないが、この詩の内容が、映画のヒロインにまことにぴったりで、ある意味、ストーリーをも象徴しているのである。

 従来の“盛りだくさんシステム”に頼らず、近年人気の北欧ミステリもかなわない仕掛けを用意し、地元の神話や、果てはタゴールの詩まで持ち出すインド映画界のパワーには、驚く。東京の上映劇場が、どちらかというとアート系作品が多くかかるユーロスペースなので、つい見逃されていると思う(本来なら、ル・シネマや、シネスイッチ銀座あたりでかかるべき作品では?)。ぜひ、多くの方々に観ていただきたい。
(一部敬称略)

※東京以外の上映劇場については、公式サイトをご覧ください。


富樫鉄火(昭和の香り漂う音楽ライター)
FMカオン、毎週(土)23時〜「BPラジオ/吹奏楽の世界へようこそ」パーソナリティもやってます。パソコンやスマホでも聴けます。2月28日(土)は、「がんばれ! 大阪市音楽団」の再放送です。

 

 

(2015.02.24)


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