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【コラム】

富樫鉄火のグル新
第116回
官能クラシック

ツィッターほど短くもなく、ブログほど個人的でもない、
同じような話題をグルグルめぐるけど、基本は最新の話題。グル新。

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『50シェイズ・オブ・センシュアル・クラシックス』

  先日、NML(ナクソス・ミュージック・ライブラリー)で、ワーナーの『50シェイズ・オブ・センシュアル・クラシックス』なるアルバムにぶち当たった。

 なんだ、これは。明らかに、近々公開される映画『フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ』の便乗CDではないか。イギリスの主婦が、趣味でネット投稿した官能小説がブレイクし、正式出版され、全世界で1億冊以上売れた。その映画化である。地味な女子大生が、金持ちでサディストの企業家に“調教”され、その方面に目覚めていく物語だ(渡辺淳一の『シャトウルージュ』みたいだ)。
 このCDは「官能的な響きのする音楽」を集め、小説・映画のタイトルを一部拝借したコンピのようだ。ジャケットも、いかにもという感じだ。

 で、半ば呆れながら、曲目を見て、ちょっと驚いた。
 1曲目が、トマス・タリスの《汝のほかに我望みなし》で、最終曲がベートーヴェンの弦楽四重奏曲第16番の第3楽章である。いうまでもなく、《汝のほかに〜》は、タリスの名を決定的にした「40声のモテット」だ。確かに聴いているうちにクラクラしてくる。ベートーヴェンのほうは、彼の生涯最後の作品。葬送ムードも漂って、不倫関係の末路のようでもある。そのほか、多くはパッヘルベルやヴィヴァルディ、ショパンなど、お決まりの教科書的な名曲だが、それでもよく見ると、時折、カントルーブの《オーベルニュの歌》や、シューベルトの《二重ソナタ》、ストラヴィンスキーのバレエ音楽《妖精の口づけ》などがある。なかなか凝った選曲だ。これらが「官能」かどうかは聴く人によって様々だろうが(私など、すぐに『エマニエル夫人』のテーマが浮かぶのだが)、単なる便乗CDとはいえない味わいがある。

 そこでさっそく、こういうものを面白がる知人に知らせてやりたくなったのだが、いつものアマゾンの購入バナーがない。アマゾン内で検索しても、それらしき商品がない。どうやら配信専用のアルバムらしい。こういう「CD」は、この世にないようだ。

 CD(12pアルバム)の年間売上枚数は、1998年の約3億枚が頂点だった。2014年は約1億5000万枚にまで落ちた(日本レコード協会調べ)。本も同様の落ち込みで、昨年は、ついに公共図書館における貸出冊数が、実売部数を上回った。もう、物体としてのCDや本は、「買う」ものではないのだろうか。

 その知人は、パソコンやスマホで音楽を聴く生活をしていない。ぜひともNMLで「官能クラシック」の凝ったコンピを聴かせてやりたいのだが、さすがに半世紀にわたって「物体」(LP、CD)で聴いてきた習慣を変えさせることは難しそうだ。


富樫鉄火(昭和の香り漂う音楽ライター)
FMカオン、毎週(土)23時〜「BPラジオ/吹奏楽の世界へようこそ」パーソナリティもやってます。パソコンやスマホでも聴けます。1月31日(土)は、ノンストップ・ウインドミュージックです

 

(2015.01.27)


※本稿の著作権は富樫鉄火が、出版権・公衆送信権はバンドパワーが独占しています。両者の許諾なく、出典元表記のない引用や、引用の範囲を超えた複写、コピー&ペーストを固く禁止します。
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