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【コラム】

富樫鉄火のグル新
第113回
ヒンデミットとポール・サイモン

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 11月22日、東京佼成ウインドオーケストラ定期演奏会の終演後、若いひとに感想を聞いたら、こんな主旨のことを言っていた。

「ヒンデミットの《ウェーバーの主題による交響的変容》が面白かったです。普段、LINEやツイッターで他人とつながってばかりいるので、ああいう、突き放したようなクールな感じは、コミュニケーション不全みたいで、かえって新鮮でした」

 ヒンデミットの音楽は「新即物主義」(ノイエ・ザッハリッヒカイト)と呼ばれた。本来が美術用語で(特に建築、写真、映画)、「感情に左右されず、純粋に構成要素の構築のみを追う」ようなムードがある。

 この感想を聞いて思い出したのが、サイモン&ガーファンクルのデビュー・アルバム『水曜の朝、午前3時』(1964年10月リリース)だった。このライナーノーツで、アート・ガーファンクルは、こんなことを書いている。

 「作者のポール(・サイモン)は、現代のコミュニケーションが及ぶ範囲は、所詮皮相的なものでしかなく、ネオン・サインで象徴されるような虚影なのだということを知っています。真のコミュニケーションが行なわれないところに、厳粛なる理解が存在するわけがありません。(略)深い意味をこめたコミュニケーションが失敗した時、聞こえてくるその響きは、静寂の音(サウンド・オブ・サイレンス)だけなのです」(内田久美子訳)

 上記《ウェーバーの主題〜》は、太平洋戦争真っ盛りの1943年にアメリカで発表された。たしかに「突き放したようなクールな感じ」があるが、第4楽章などは、感情の爆発ギリギリの境界線上を歩んでいる。戦況は無視したいのだが、時々、興味をもってしまうようなスリルがある。
 そして終戦を迎えるが、1950年、アメリカは今度は朝鮮戦争に突入し、ソ連と代理戦争を繰り広げる。その翌1951年、ヒンデミットは《吹奏楽のための交響曲 変ロ調》を、ワシントン陸軍軍楽隊のために書いた。その曲は、《ウェーバーの主題〜》以上にクールで、即物的で、「構築」のみで出来上がった見事な建造物だった。

 その後もアメリカは、公民権運動、ベトナム戦争(1960年〜)、そしてケネディ暗殺(1963年)を経験し、1964年、ポール・サイモンが前記アルバムで《静寂の音》(サウンド・オブ・サイレンス)を発表して、「コミュニケーション不全」は頂点に達する。

 ヒンデミットが「コミュニケーション不全」を描いたとは思わない。だが、LINEやツイッターに疲れた若い人が新鮮さを感じるとしたら、彼の音楽は、たいへん饒舌な「静寂の音」なのではないか。そんなことを考えながら、2014年の暮れを迎えている。

※2015年1月17日(土)のシエナ・ウインド・オーケストラ第37回定期演奏会で、上記、ヒンデミット《吹奏楽のための交響曲 変ロ調》が演奏されます。


富樫鉄火(昭和の香り漂う音楽ライター)
FMカオン、毎週(土)23時〜「BPラジオ/吹奏楽の世界へようこそ」パーソナリティもやってます。パソコンやスマホでも聴けます。

◎12月は、《アフリカン・シンフォニー》大会と、CDのジャケット・アート特集です。
◎1月は、スーザ特集と、『サンダーバード』の作曲者、バリー・グレイ特集です。

(2014.12.16)


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