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【コラム】

富樫鉄火のグル新
第111回
清廉な人たらし、フレデリック・フェネル

ツィッターほど短くもなく、ブログほど個人的でもない、
同じような話題をグルグルめぐるけど、基本は最新の話題。グル新。

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 今年は、東京佼成ウインドオーケストラの桂冠指揮者フレデリック・フェネルの生誕100年で、様々な催しがあったが、そのクライマックスともいうべきメモリアル・コンサートが9日(火)に、東京・杉並公会堂で開催された。
 
 演奏は、東京佼成ウインド・オーケストラの現役・OBを中心としたバンドで、すべての出演者・スタッフともボランティアだという。その誰もが実に楽しそうで、なるほどフェネルとは、ひとを魅了する何かを持っていたのだなと思わせるに十分だった。おそらく、生涯にわたって、その人柄に魅せられたひとが、常に周囲にいたのではないか。
 それを感じたのは、8月に、FM番組で「LPで聴く/生誕100年、フレデリック・フェネルとマーキュリー・レーベル」を制作した時だった。

 この番組では、フェネルと、レコード・レーベル「マーキュリー」とのかかわりを中心に紹介したのだが、彼に、初の本格的な吹奏楽の商業録音レコードを振らせたのは、同社のプロデューサー、ウィルマ・コザートだった。彼女は、のちに結婚することになるエンジニア、ロバート・ファインとコンビを組み、フェネル&イーストマン・ウインド・アンサンブルを起用し、数々の名録音を残した。それらはいま聴いても(番組では、当時の初版LPを再生した)、モノラルなのに、楽器の位置関係が何となくわかる立体的な響きで出来上がっている。

 彼らは、たった1本のマイク――テレフンケンのノイマンU47を、オーケストラ最前列のほぼ真上、7メートル62センチに設置した。アメリカのオーケストラ録音では、指揮者の頭上、3メートルあたりがマイクの定位置だった。しかしウィルマ・コザートは、試行錯誤の結果、この位置こそが、オーケストラ全体の響きを、もっとも忠実にとらえることができることを見つけたのだった。

 彼らにそこまでさせたものは何か。おそらくフェネルの魅力だろうと思う。
 吹奏楽は本格的クラシック音楽と同レベルのものだ、。だから、手抜きをしないでほしい、(当時、マーキュリーでベストセラーとなっていた)クーベリックの《展覧会の絵》や、ドラティの《1812年》と差別をしないでほしい――きっとフェネルは、そんな気持ちだったと思う。そこを、ウィルマ・コザートが汲んで、ホルストグレインジャーの名盤が次々と誕生したのではないだろうか。

 「人たらし」という言葉がある。井原西鶴が『好色一代男』の中で初めて使ったもので、要するに「口八丁手八丁の詐欺師」のことだが、同時に、どこか魅力があるようなニュアンスもある。フェネルは、稀代の、実に清廉で、美しい「人たらし」だったのではないだろうか。でなければ、一銭にもならないのに、コンサートであれだけの音楽を奏でるひとたちが、いまでもいる理由が、わからない。


富樫鉄火(昭和の香り漂う音楽ライター)
FMカオン、毎週(土)23時〜「BPラジオ/吹奏楽の世界へようこそ」パーソナリティもやってます。パソコンやスマホでも聴けます。12月は、《アフリカン・シンフォニー》大会と、CDのジャケット・アート特集です。

◎Eastman Wind EnsembleのCD

(2014.12.10)


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