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【コラム】

富樫鉄火のグル新
第110回
映画評/不器用な男、ルーウィン・デイヴィス

ツィッターほど短くもなく、ブログほど個人的でもない、
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 アメリカ映画『インサイド・ルーウィン・デイヴィス 名もなき男の歌』は、今年の5月に日本公開されたが、以後、ロードショーが終わっても、二番館で静かな人気を呼んでいた。先月まで、東京・飯田橋のギンレイ・ホールでも上映されていたが、毎回、満席に近い人気だった。

 舞台は1961年のニューヨーク、グリニッチ・ビレッジ。ルーウィン・デイヴィスは、場末のライブ・カフェでギター片手に歌う、冴えないフォーク・シンガーである。カネもないし家もない。知人の家を泊まり歩く侘しい毎日だ。それなりの才能もあるのだが、不器用な性格で、世の流行に合わせることができないのだ。せっかく腕利きプロデューサーのオーディションを受けても、イギリスに古くから伝わる暗い民謡《クイーン・ジェーンの死》を歌ってしまう(ほかに明るい売れ線の曲もあるのに)。案の定、ただひとこと「カネの匂いがせんな」でオシマイだ。

 だが、映画を観ている我々には、わかる。彼がホンモノの「音楽」を奏でていることを。本来のフォークソングとは、文字通り「民謡」で、大半は、虐げられた労働者や黒人の叫びである。ルーウィンは、ひたすらそれを歌う。だが、受け入れられない。

 1961年といえば、アメリカとキューバが国交を断絶した年である。ドイツでは「ベルリンの壁」の建設が始まっていた。いわば「政治の季節」の入口だ。にもかかわらず、まるで世相に背を向けるように、コーヒーを飲みながら、静かにフォークソングを聴いて歌っていた若者たちが、グリニッチ・ビレッジには、いたのだ。

 ルーウィンを演じるオスカー・アイザックは、吹き替えナシで、ギターを弾いて、カメラの前で歌う(これが実に素晴らしい)。つまりこの映画の中の歌唱シーンは「ライヴ」なのだ。よって、通常の音楽映画とは違い、半ばドキュメントを観ているような気にさせられる。コーエン兄弟監督の抑揚の効いた演出や画面作りが、1961年のニューヨークをリアルに再現している。

 先述のように、二番館、三番館で静かな人気を呼んでいたが、今月、DVDやブルーレイになるので、ぜひ多くの方に観ていただきたい。(できればスクリーンで、大きな音で鑑賞してほしいが)。
 昨今の、初速売り上げのデータばかりが重要視されるCDや出版業界にいると、ルーウィンの姿が他人事には思えなくなってくる。しかもこの男、フィクションではなく、れっきとしたモデルがいた。デイヴ・ヴァン・ロンクというフォーク・シンガーで、ボブ・ディランは、彼の背を見てデビューしたそうである。


富樫鉄火(昭和の香り漂う音楽ライター)
FMカオン、毎週(土)23時〜「BPラジオ/吹奏楽の世界へようこそ」パーソナリティもやってます。パソコンやスマホでも聴けます。12月は、《アフリカン・シンフォニー》大会と、CDのジャケット・アート特集です。

(2014.12.02)


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