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【コラム】

富樫鉄火のグル新
第109回
サイレント映画ピアニスト・新垣隆

ツィッターほど短くもなく、ブログほど個人的でもない、
同じような話題をグルグルめぐるけど、基本は最新の話題。グル新。

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  「難聴の作曲家」佐村河内守のゴーストライターとして、作曲家・ピアニストの新垣隆が名乗りを上げたとき、多くの映画マニアは「あの新垣さんか!」と声をあげた。
 実は新垣隆氏は、天才的なサイレント映画ピアニストでもあるのだ(騒動の時、そのことをキチンと報じたメディアは、なかったのではないか)。私は、彼の伴奏で(彼が所属する伴奏楽団「カラード・モノトーン」も含めて)サイレント映画を何度か鑑賞しているが、毎回、映画よりも、新垣氏の腕前に呆然となって帰路につく。

 近年、1900年代初頭のサイレント映画が大人気だ。上映方式には何種類かあって、(1)完全無音上映(ただフィルムを上映するだけ)、(2)活動弁士による説明付き上映、(3)ピアノ(楽団)伴奏付き上映、(4)活動弁士+ピアノ(楽団)伴奏付き上映……等々がある。このほか、後年に録音された音楽がフィルムにサウンドトラックとして焼き付けられた「サウンド版」上映などもある。
 サイレント映画の伴奏は、生易しいものではない。
 当然ながら、映画全体を頭に入れておかなければならない。ほとんどは90分前後だが、中には『ナポレオン』(1927年、アベル・ガンス監督)『愛よ人類と共にあれ』(1931年、島津保次郎監督)のように、「4時間」前後などという超大作もある。
 その間、ずっとスクリーンを観ながら、ドラマにあわせてピアノを弾き続ける(通常のコンサートで、4時間のピアノ曲など、まずない)。多くのピアニストは、主要部分の楽譜を見ながら、細部をアドリブやリピートでこなしていくが、新垣氏は楽譜なし。全編を暗譜とアドリブで平然とこなす。

 この11月6日、東京国立近代美術館フィルムセンターにおける「MoMA ニューヨーク近代美術館・映画コレクション」における『タイタニック』(1921年、アラン・ドワン監督)上映で、ひさびさに新垣氏の伴奏を聴いたが、言葉を失った。「作曲家」のせいか、音楽の深みがちがう。カップルの幸せの予感を、《結婚行進曲》をちりばめたアドリブ演奏で表現し、そのまま画面がタイタニック号の航海シーンになると、同じ音楽が短調に変わって、今度は不幸を予見する音楽に変わるところなど、唖然となる見事さだった。終映後も拍手が鳴りやまず、まるで、通常のピアノ・コンサートのような熱気だった。

 サイレント映画ピアニストといえば、いまや世界的な存在の柳下美恵さんが、追っかけがいるほどの人気だが、ぜひ新垣隆氏の伴奏も、もっと聴きたいものだ。100年近く昔のフィルムに新たな生命を宿らせる、崇高な仕事だと思う。(一部敬称略)


富樫鉄火(昭和の香り漂う音楽ライター)
FMカオン、毎週(土)23時〜「BPラジオ/吹奏楽の世界へようこそ」パーソナリティもやってます。パソコンやスマホでも聴けます。11月は「全英ブラスバンド選手権・課題曲、栄光の歴史」前後編です!

(2014.11.17)


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