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【コラム】

富樫鉄火のグル新
第107回
なぜ浪曲師に人間国宝がいないのか

ツィッターほど短くもなく、ブログほど個人的でもない、
同じような話題をグルグルめぐるけど、基本は最新の話題。グル新。

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▲10月11日(土) 国立劇場(小劇場)にて
▲10月24日(金) 浅草公会堂にて

 曲亭馬琴の『南総里見八犬伝』刊行200年にちなんで、国立劇場が、「八犬伝を聴く」と題した邦楽公演を開催した。『八犬伝』を音楽として楽しむ、マニアックな企画だ。長唄、常盤津節、新内節、薩摩琵琶の4つのスタイルで、名場面が口演された。個人的には、常盤津がいちばんよかった。伏姫が命と引き換えに八つの珠を「出産」する場面だが、常盤津の、艶やかながらもの哀しいハイトーンがピッタリで、思わずもらい泣きした。

 しばらくして、今度は、日本浪曲協会主催の「豪華浪曲大会」を聴いた。「桃中軒雲右衛門百回忌」「広沢虎造没後五十年」を記念し、昼の12時から夜7時過ぎまで、オールスターによるぶっ続けである。定員1000人余の浅草公会堂、ほぼ満席だ。

 「八犬伝を聴く」も「豪華浪曲大会」も、どちらも「語り芸」である。だが、この二者には大きなちがいがある。前者の邦楽流派からは、人間国宝が認定されている。だが、浪曲に人間国宝はいない。なぜか。「長唄や常盤津は“芸術”で、浪曲は“大衆芸能”だから」と、多くの方々は思うだろう。だが、果たしてそうだろうか。

 実は、明治時代、浪曲は貧民街で誕生した「差別される芸能」だった。ゆえに、一般の小屋には出演できなかった。彼らは河原や、ムシロの囲い小屋で口演した。そこへ登場したのが桃中軒雲右衛門(1876〜1916)で、政治結社・玄洋社の面々と協力して、武士道鼓吹の新しい浪曲を開拓した(ちなみに彼の弟子に「桃中軒牛右衛門」というのがいて、本名は革命家・宮崎滔天。その息子が、「花子とアン」で、柳原白蓮と駆け落ちした宮崎龍介である)。雲右衛門の新しい浪曲はたちまち大人気となり、皇族の御前公演、さらには歌舞伎座公演を実現させる(このときも、歌舞伎役者からたいへんな妨害を受けた)。

 戦後、浪曲はラジオの電波に乗って、日本人に欠かせない娯楽となる。特に広沢虎造は大人気で、「寿司食いねえ。江戸っ子だってね」「神田の生まれよ」は流行語となった。 

 その後、テレビや映画の台頭で浪曲人気は下火となったが、最近は、NHK−Eテレの「べべんさん」でおなじみ国本武春や、女流の玉川奈々福春野恵子なども登場し、なかなかの人気である。

 浪曲から人間国宝が出ない理由が、その出自のせいかどうか、私は知らない。単に「重要無形文化財」にふさわしい芸を保持している対象者がいないからかもしれない。しかし、同じ大衆芸能の、落語や講談、演劇や女流義太夫からは、ちゃんと人間国宝が出ている。そのことを思うとき、どうも腑に落ちないのは私だけだろうか。


富樫鉄火(昭和の香り漂う音楽ライター)
FMカオン、毎週(土)23時〜「BPラジオ/吹奏楽の世界へようこそ」パーソナリティもやってます。パソコンやスマホでも聴けます。11月は「全英ブラスバンド選手権・課題曲、栄光の歴史」前後編です!

(2014.10.30)


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