吹奏楽マガジン バンドパワー 吹奏楽マガジン バンドパワー
【コラム】

富樫鉄火のグル新
第104回
パンドラの匣を開けた「ボカロ文楽」

ツィッターほど短くもなく、ブログほど個人的でもない、
同じような話題をグルグルめぐるけど、基本は最新の話題。グル新。

バックナンバーは最下段「目次ページへ」からお入り下さい)
*本文に埋め込みリンクがあるので、カーソルでなぞりながらお読みください。

ボーカロイドオペラ葵上with 文楽人形
台本・音楽ほか 田廻弘志
監督ほか 加納真
製作 株式会社スターゲイト/田廻音楽事務所

 新聞で話題になっていた『ボーカロイドオペラ葵上with文楽人形』を観た。コンピュータによる合成音声「ボーカロイド」の歌声にあわせ、文楽人形が演じる、約30分の短編映像である。
 音楽は、時々古風な言い回しの入る現代日本語を、ボカロが、涙ぐましいまで懸命に、たどたどしく歌う(だから詞章字幕が出る)。人形遣いは、吉田幸助ほか、文楽協会からの若手出演で、「ガブ」「娘」「若男」の三体。物語は、『源氏物語』の「葵の巻」に基づいた能『葵上』がベースになっている(ようだったが、どうもわかりにくかった)。

  文楽は人形芝居だから、当然、生身の人間が演じるよりずっと、表現は劣る。そこを補足するのが、大夫の語り(義太夫)と三味線で、彼らが、老若男女から効果音、BGMまで、すべてを演じる。この「三業」(人形、三味線、大夫)が一体化したとき、人形が生きているかのような輝きを放つのである。

 ところが今回は、補足役が不鮮明なボカロなので、ただでさえ表現の制約を受けている人形が、さらに締め付けられているように感じる。よって、長年、文楽を観てきた立場としては、次第にイライラしてくる(それが、この出し物の魅力なのかもしれないが)。
 しかしその一方で、限りない可能性を秘めているようにも感じた。もしかしたら、制作者たちは、パンドラの匣[はこ]を開けたのではないだろうか。

 たとえば、あれほどのことが可能なら、いっそオリジナルの「義太夫」をボカロに歌ってもらうことはできないのだろうか(メロディ・ラインの取り方が難しいだろうが)。昔は「娘義太夫」が盛んだった。明治時代、竹本綾之助といえば、いまのAKBなみの人気で、常に追っかけがいる、元祖アイドルだった。しかし彼女たちは、あくまで「寄席芸」だったから、本流の文楽で人形と競演することは、かなわなかった(いまでも、女流義太夫が文楽協会の人形と競演する機会は、なかなかない)。しかし、ボカロだったら、それができそうだ。初音ミクの『曽根崎心中』、結月ゆかりの「酒屋」(艶容女舞衣)なんて、ちょっと聴いて(観て)みたいではないか。あるいは、新たな合成音声で、「平成版・竹本綾之助」を開発してくれないか。

 文楽をおさめた映像といえば、カナダのマーティ・グロス監督による『冥途の飛脚』(1980)が有名だ。このときは、大型スタジオ内に文楽舞台を再現設置して撮影された。今回も、劇場に近い雰囲気の舞台セットで撮影されていたが、もっとはみ出して、通常映画のようなカメラワークでも面白いと思った。
 いっそ、国立劇場や国立文楽劇場の文楽鑑賞教室は、一部をボカロでやったらどうですか。居眠りしている高校生たちも、一発で目を覚ますと思うのだが。
(9月24日、下北沢トリウッドにて


富樫鉄火(昭和の香り漂う音楽ライター)
FMカオン、毎週(土)23時〜「BPラジオ/吹奏楽の世界へようこそ」パーソナリティもやってます。パソコンやスマホでも聴けます。


(2014.09.30)


※本稿の著作権は富樫鉄火が、出版権・公衆送信権はバンドパワーが独占しています。両者の許諾なく、出典元表記のない引用や、引用の範囲を超えた複写、コピー&ペーストを固く禁止します。
吹奏楽マガジン バンドパワー
吹奏楽マガジン バンドパワー
吹奏楽マガジン バンドパワー
 
 
 
 
 
 
jasrac番号吹奏楽マガジン バンドパワー