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【コラム】

富樫鉄火のグル新
第103回 ハワイから日本を憂えていた、井原高忠さん

ツィッターほど短くもなく、ブログほど個人的でもない、
同じような話題をグルグルめぐるけど、基本は最新の話題。グル新。

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  十数年前まで、ハワイの日本語AM放送局に、「ラジオKOHO」(コホ)があった。放送内容は、まるで昭和30年代にタイムスリップしたかのようだった。流れる音楽は戦前から戦後にかけての懐メロが中心。お彼岸になれば、先祖供養の奨め。暮れになれば、おせち料理の作り方。ラジオ体操も流れていたし、毎日必ず日系人の訃報のお知らせもあった。そこには、素朴で美しい、昔の日本の姿が残っていた。

 そんなラジオKOHOに、説教調でぼやく年輩のパーソナリティがいた。うろ覚えだが、こんな話をしていた記憶がある。

  「先日、近所のお年寄りが、日本へ十数年ぶりに里帰りしたんですよ。ところが、うんざりした様子で帰ってきた。空港も駅も段差だらけ、エスカレータもエレベータもない。電車の優先席は若者に占領されている。車に乗ればどこも渋滞で予定の時間に着けない。マンションに住む親戚は、隣人が何者か知らなかった。日本は、いつからあんな暮らしにくい国になったのか、なぜみんな、文句も言わずに従ってるのか……そう言ってがっかりしてるんです。僕も同感です。そもそも戦後の日本は、ろくなもんじゃない……」
 と続くのだが、なかなか正鵠を射た指摘で、聞いていて心地よかった。

 このパーソナリティが、9月14日に米アトランタで亡くなった、日本テレビの元ディレクター、井原高忠さんだった(享年85)。「シャボン玉ホリデー」「11PM」などを生み、テレビ・ヴァラエティを確立した人だ。近年、ビールのCMに流れたマーチ《ゲバゲバ90分》(宮川泰作曲)は、井原さんが制作した大ヒット番組「巨泉×前武ゲバゲバ90分!」のテーマ曲である。

 井原さんは、アドリブを嫌った。一見、おふざけでやっているようなコントでも、綿密な台本を作り、音楽構成を考え、リハーサルを重ねた。台本を読まずにスタジオ入りするタレントがいると、平気で追い返していた。芸能界を席巻する某プロダクションにも平然と逆らっていた。やがて50歳で日本テレビを退職し、ハワイに移住。海の彼方のラジオから、日本を憂い続けていた(近年は養女の住むアトランタに移っていた)。

 最近のテレビ・ヴァラエティは、スタジオ内に椅子を並べ、タレントを座らせて勝手にしゃべらせ、字幕テロップで煽る、まことにお手軽なものばかりだ。井原さんだったら、ああいう番組をどう斬っただろう。もっとも、30年以上前に、テレビ界のみならず、故国・日本を抜け出していた時点で、答えを出していたのだろうが。
 最近、吹奏楽のコンサートで《ゲバゲバ90分》をよく聴く。そのたびに、ハワイのラジオKOHOで痛快な説教を唱えていた井原さんの声を思い出す。

富樫鉄火(昭和の香り漂う音楽ライター)
FMカオン、毎週(土)23時〜「BPラジオ/吹奏楽の世界へようこそ」パーソナリティもやってます。パソコンやスマホでも聴けます。


(2014.09.25)


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