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【コラム】

富樫鉄火のグル新
第9回 市原愛の≪うぐひす≫

ツィッターほど短くもなく、ブログほど個人的でもない、
同じような話題をグルグルめぐるけど、基本は最新の話題。グル新。



 1月13日(水)、ひょんなことから、リート歌手・市原愛 http://www.aiichihara.com/ のソプラノ・リサイタルに行くことになった(横浜みなとみらい小ホール)。

 何の予備知識もなく行ったのだが、その歌声と実力に驚いてしまった(美貌にも!)。主にドイツを中心にヨーロッパで活躍しているひとで、今回が、ほとんど日本デビュー・リサイタルらしい。とても張りがあって、深みと迫力と繊細さがバランスよく同居している声だった。表現力も、ほとんどオペラ歌手である。

 恥ずかしながら私は若いころ、オペラ・マニアだった時期があって、休みが取れたときは、NYのメトロポリタン歌劇場にトンボ帰りをしていたことさえあるのだが、あのころ、彼女に出会っていたら、追っかけになっていたかもしれない。ぜひオペラも聴きたいものだ(ジークリンデなんか、合うんじゃないかなあ。もう少し歳をとったら、元帥夫人も聴きたい)。

 当日の曲目は、リヒャルト・シュトラウスやドボルジャークなどの、ドイツ語リートが中心だった。

 ところが、1曲だけ、変わった曲があった。早坂文雄≪うぐひす≫である。戦後の昭和22年、佐藤春夫の詩に作曲された、無伴奏歌曲だ。同時期、早坂は、佐藤春夫の詩を連続して無伴奏歌曲化しており、ほかに≪嫁ぎゆく人に≫≪孤独≫≪×洲橋畔口吟≫がある。どれも小節縦線や拍子のない、自由記譜で書かれている。特に≪うぐひす≫は、カウンター・テナーの米良美一が歌い、アルバム・タイトルにしていたので、それでご存知の方もいるかもしれない。

 私は、ドイツ歌曲の専門家である彼女が、この曲を選んでくれたことを、とてもうれしく思った。

 ≪うぐひす≫は、なんとも不思議な、漂うような旋律で、一説には尺八の響きを模倣したようだが、私は前から、太古の日本人が初めて「旋律」らしきものを口ずさんだのを、さらに昇華させた歌曲のように感じていた。だから、美しく歌うよりも、少し力強く、原初的な雰囲気で歌われるべきだと思っていた。そういう歌唱に初めてめぐり合ったような気がした。

 早坂文雄といえば、黒澤映画『羅生門』『七人の侍』などの音楽が有名である。その『七人の侍』の音楽が、松木敏晃の編曲で、3楽章構成の吹奏楽版交響組曲になっているのをご存知だろうか。すでに陸上自衛隊中央音楽隊が初演しており、近々、楽譜も発売されるらしい。

 正規の音楽教育も受けず、一切を独学で学んで40歳そこそこで世を去った天才は、もっと多くのひとに聴かれ、演奏されるべきだと思う。市原愛の≪うぐひす≫を聴いて、そんなことも感じた。

※「×」印=「さんずい」に「章」

■市原愛 Official Website
http://www.aiichihara.com/

富樫鉄火(吹奏楽大好きの音楽ライター)

(2010.01.18)


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