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吹奏楽ポップスの父 昭和大爆走!


最終回 楽しい吹奏楽を!


  昨年の6月からえんえんと語ってきたこの連載も、とりあえず今回で一段落、最終回です。
  今回は、最近の吹奏楽の世界に関して、僕が感じたことをざっくばらんにお話して、終わりにしたいと思います。


■ほんとうの「ヴァラエティ」とは

 僕自身は、もうコンクールの現場から離れてしまったから、あまり最前線の様子は知らないんだけど、それでも、各地へポップスの指揮や指導で呼ばれる際に見たり聴いたりしていると、ずいぶん個性がなくなってしまったなあ、と感じるね。

 シンフォニック系の曲なんか、どこも実に見事な演奏ばかりで、確かに技術はすごく上がっている。いまの中学生が演奏しているレパートリーなんか、昔じゃ考えられない難曲ばかりですよ。

 ところが、そういうレベルの高い中高生のバンドが、定期演奏会の第2部などでポップス系を演奏すると、とたんにボロが出ちゃうんだね。これが同じバンドかと思うくらい、差がある。多くは音量や迫力でごまかしちゃうから、みんな、こんなもんだと思って聴いているけれど、日本では、吹奏楽ポップスのレベルは、まだまだだなあ、と感じる。

 なぜかというと、みんな「音楽」で遊ばないからなんです。

 この連載で、たとえばシティ・スリッカーズのおバカな冗談音楽の話が何度か出てきたでしょう。ああいう「バカ」を真面目にやる精神が、いまの若いひとたちには、ない。

 まあ、昔は、TVをつければ、クレージー・キャッツとか、初期のドリフターズとかが冗談音楽をしょっちゅうやっていたから、その感覚も自然と身につくようなところがあったけれど、いまは、まったくない。TVでは、お笑いタレントをスタジオに呼んできて、好き勝手なことをしゃべらせて、それを「ヴァラエティ」なんて呼んでる。

 とんでもない話です。「ヴァラエティ」っていうのは、緻密な構成と台本、音楽があって、考えに考え、リハーサルを繰り返してこそ生まれるものなんです。ドリフターズの「8時だよ!全員集合」が、毎週ナマ放送で、その前3日間が徹底したリハーサルだったっていうのは、有名な話じゃないですか。

 音楽、特に吹奏楽ポップスも、それと同じ。
 演奏するほうに、「楽しもう」「徹底的につくりこもう」との意識がないと。


■照れてちゃダメ

 僕の吹奏楽ポップスの原点が「静岡市民バンド コンセール・リベルテ」であることは、前にお話しました。

 もうひとつ、陸上自衛隊第3音楽隊(兵庫県伊丹市の千僧駐屯地)がそうなんです。ここは、たいへん広報活動に熱心な部隊で、音楽隊とも長いお付き合いです。とにかく役者が揃っている。歌をうたうなんて当たり前、コント、仮装、冗談音楽、なんでもできる。実は、僕の書いたコミカルな吹奏楽譜は、大半が、ここのために書いたものです。彼らのコンサートなんか見たら、ドリフターズといい勝負ですよ。それだけに、僕も書きがいがあった。昨年レコーディングした僕の作品集CD『EVERGREEN』に、ボーナストラックで≪靴が鳴る≫ってのが入ってますが、これも、第3音楽隊のために書いた譜面です。

 ただ、彼らが役者揃いだといっても、相応の練習や打ち合わせをするんですよ。その準備たるや、たいへんな労力です。

 僕は、一時期、近畿大学や駒澤大学のポップスを振っていました。これもまた、たいへんなつくりこみ方でしたね。まあ、僕も若かったから、あんなことができたんだけど。

 たとえば、ステージ下手側に「擬音部隊」がいて、音楽にあわせていろんな擬音を出す。そのうち、ずれてきて(この「ずれる」のもリハーサルずみ)、演奏は大混乱になる。一升瓶を持ってきて、指揮している僕の横に座り込んで酒盛りを始めるとか、勝手に前方で踊りだすとか。

 お客さんには、メチャクチャになったように見えるんだけど、すべて、細かい台本があって、練習に練習を重ねてやるんです。

 駒澤大学高校でもやりましたね。そのときは、さすがに未成年なので、あまりお下劣なことはできない。でも、TVのプロの振付師を呼んできて、前方で本格的なダンスを繰り広げながら≪雨に歌えば≫なんかをやったもんです。

 こういうのは、昔のTVに、きちんとしたお手本があった。しかも昔の吹奏楽部は、男子ばかりだったから、堂々とバカをやれた。
 いまは女の子のほうが多いから、こういうことは、難しいだろうけど、でも、冗談音楽とまではいかなくとも、「楽しい音楽」をやるには、照れてちゃダメ。「恥ずかしい」とか「キザなんじゃないか」とか、その種の感覚を持った瞬間、もうオシマイです。


■市民バンドの面白さ

 その点、社会人一般バンドだと、さすがに大人だし、いまさら怖いものなどなにもないせいか(笑)、照れがなくて、いろんなことをやれる。
 実は、いまでも僕は、全国各地の市民バンドにゲスト指揮者などでうかがっているんですが、それというのも、中高生ではできないこと(でも、昔はみんなやっていたこと)ができるからなんですね。

 いま僕がかかわっている市民バンドは……

 ……おおむね、これくらいだと思うんだけど……抜けてるかな……もし、落としているバンドがあったら、ゴメンナサイ(笑)。

あとは、先述の陸上自衛隊第3音楽隊(兵庫県伊丹市)http://www.mod.go.jp/gsdf/mae/3d/
それと、青森中学山田高校
http://www.aomori-yamada-hs.ac.jp/bukatu/suisoubu/suisou-TOP.htm は、クリスマス・コンサートにうかがっています。

 どこも、とても楽しいコンサートです。しかも、なかなかの腕前ですよ。ポップスの基本の一つは、リズムがぶれないことですが、どこも、たいへんしっかりしたリズム・セクションです。ドラムスなんか、プロでもだんだん速くなっちゃう曲を、ちゃんとイン・テンポでやれますからね。

 演奏する曲は、すべて僕の譜面で、「ニュー・サウンズ・イン・ブラス」(NSB)の譜面が多いんだけど、実は、市販されている譜面と、ちょっとちがうんです。

 同じ「NSB」の譜面でも、市民バンドで演奏する曲は、「4・4・5」編成が多いんです。つまりトランペットT〜W、トロンボーンT〜W、サクソフォン5本(アルトT・U+テナーT・U+バリトン)。前にお話したビッグバンドの編成です。時折、オーボエをT・Uにしている譜面もある。これに、ピアノやハープを加えたり、打楽器も増やしたりする曲もある。

 実は、僕は毎年、「NSB」を書くとき、最初からこの大編成で書いておくんです。だけど、出版するのは、普通の学校吹奏楽部向きなので、通常のトランペットT〜V、トロンボーンT〜V、サクソフォン4本にしておく。
 だから、僕が指揮するコンサートに来たお客さんの中には、「うちのバンドでも、同じNSBの譜面をしていますけど、どうも響きがちがうみたいなんです。ホントに同じ楽譜ですか」と聞いてくるひとが、ときどきいる。スイマセン、ちょっとちがうんです(笑)。

 でも、この「4・4・5」にすると、ほんとうに厚みのあるポップスになるんですよ。もっと、「4・4・5」編成の吹奏楽ポップスが一般に広まるようになるといいんだけどねえ。
  もし機会があれば、こういう市民バンドのポップス・コンサートに、中高生も来てもらって、ほんとうの吹奏楽ポップスに触れてほしいですね。

 というわけで、ずいぶん勝手なことを、あれこれと述べてきましたが、少しは面白かったかねえ。僕なんかの話が、若いひとたちの参考になるのかどうか、なんとも不安だけど、どこか一つでも得るところがあって、日本の吹奏楽の世界がもっといいものになっていけば、これに勝る喜びなし、ってとこですね。

  とにかく吹奏楽は、楽しいものなんです。そのことを忘れずに、みなさん、いつまでも音楽を捨てずに、ずっと友達でいてやってください。

  じゃ、サヨ〜ナラ!

▲岩井先生、長期連載、ありがとうございました!
これからもますます楽しい吹奏楽ポップスを期待しています!


【終わり】


 

【連載を終えて】

  1年余にわたって連載してきました「吹奏楽ポップスの父 昭和大爆走! 岩井直溥 自伝」は、今回で終了いたします。
 毎回、煩雑な取材や資料収集にご協力いただいた岩井先生に、心から感謝します。
 なお、連載中に書ききれなかった逸話、紹介しきれなかった資料・写真、また、連載終盤になって判明したエピソードなど、まだまだたくさんの話題があります。
 それらを加え、のちほど、全面改訂を加えてバンドパワーより単行本化される予定ですので、楽しみにお待ちください。

富樫鉄火/バンドパワー編集部

(C)岩井直溥・富樫鉄火/バンドパワー
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その輝ける軌跡。巨匠、初の吹奏楽オリジナル作品集がついに登場!


『EVERGREEN 〜岩井直溥作品集〜』

岩井直溥&東京佼成ウインドオーケストラ

 日本音楽界の生き証人、岩井直溥の自作自演による吹奏楽オリジナル作品集。名アレンジャーとして名を馳せる氏の吹奏楽オリジナルといえば、70〜80年代にかけて綺羅星のごとく輝いたコンクール課題曲が有名だが、このアルバムではさらに自由曲として全国大会での演奏経験もあるオリジナル作品や、秘蔵の名曲も収録。岩井×TKWOのゴールデン・タッグによるこの記録は、日本吹奏楽にとって大いなる遺産となるであろう。

BPショップにて発売中 http://item.rakuten.co.jp/bandpower/cd-1548/

【収録曲】

編曲・作曲:岩井直溥(Naohiro Iwai) 【全曲】

1. シンコペーテッド・マーチ「明日に向かって」 【3:29】
   Syncopated March "Asuni-Mukatte"

2. ポップス・オーバーチュア「未来への展開」 【4:42】
   Pops Overture "Development toward the Future"

3. ポップス描写曲「メイン・ストリートで」 【5:01】 
   On Main Street

4. ポップス変奏曲「かぞえうた」 【5:09】 
   Pops Variation "Kazoeuta"

5. ポップ・コンサートマーチ「すてきな日々」 【4:24】 
   Pops March "Wonderful days"

6. Jump Up Kosei 21 【7:46】  

7. 詩曲「渚の詩」 【8:50】  

8. 響きかぎりなく 【7:02】 

9. あの水平線の彼方に 【11:38】

【ボーナストラック】

10.靴が鳴る/弘田龍太郎(arr.岩井直溥)

BPショップにて発売中 http://item.rakuten.co.jp/bandpower/cd-1548/
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■岩井直溥関連CD
■ニュー・サウンズ・スペシャル
■EVERGREEN〜岩井直溥作品集
■ベスト・ニュー・サウンズ・イン・ブラス100−ベスト吹奏楽II
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