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吹奏楽ポップスの父 昭和大爆走!


第26回 ニュー・エイトの会(2)

 

 1974年7月13日に、郵便貯金ホールで第1回のニュー・エイトの会コンサートを開催しましたが、意外と好評でした。それまで、日本人の吹奏楽オリジナル曲といえば、コンクール課題曲が中心だったでしょう。どうしたってアマチュアの演奏レベルにあわせなければならないし、演奏時間もせいぜい4分程度におさえなきゃならない。楽器編成も、多くの学校吹奏楽部に通用する標準的なものにする必要もあった。

 つまり、なんとなく、制限だらけというか、がんじがらめの中で作曲していたようなもんなんです。ちょっと欲求不満ぎみだったかもしれない。

 だから、何の制限もなく、思い切り自由な曲ばかりで構成されたこのコンサートは、とても新鮮に受け止められたんです。


■ニュー・エイトの軌跡

 で、その後、10年近くにわたって、この会はつづきました。

 「ニュー・エイトの会」の自主開催だったこともあるし、笹川賞(日本音楽財団が主宰していた、吹奏楽曲の公募コンクール)発表会に便乗して開催したこともある。また、当時僕がかかわっていた、一般市民バンドの老舗「静岡市民バンド コンセール・リベルテ」のコンサートに便乗して開催したこともあります。

 おおむね、年に1回くらいの割合で、開催したはずなんだけど……実は、なぜだか、資料がほとんど、僕のもとにないんですよ。僕は、けっこう、自分が関わった仕事に関しては、資料を残しておくほうなんだけど、なぜかニュー・エイトの会に関しては、ほぼ、何も残っていないんだ。

 いったい、何でかなあ……引越しのときに、どこかへまぎれてしまったのか。あるいは、事実上、僕が事務局長をやっていたせいで、開催することで精一杯、そこまで気が回らなかったのか……。

 確かに、正直いうと、毎回毎回、とにかく曲を集めてコンサートを開催することに必死で、まさか、その後、再びそれらが求められるなんて予想もしなかったからね。コンサートで演奏してしまえば、それで終わり……みたいな意識だったんでしょう。吹奏楽が、こんなにブームになるなんて、当時は思いもしなかったし。
 でも、こうして自伝を語ったりするようになると、確かに、それなりに重要なことをやっていたんだなあ、と思いますね。

 とにかく、残っている限りのメモ類をもとに、ニュー・エイトの会がやってきたことを、記してみます。もし、読者の皆様方の中で、さらに詳しいことをご存知の方がいらっしゃたら、ぜひ、BP編集部までお知らせいただけると、うれしいです。

▲静岡市民バンド コンセール・リベルテとの縁で、
静岡でもよく開催された。

●第1回ニュー・エイト オリジナルコンサート(1974年7月13日、郵便貯金ホール)
……これは、前回、曲目をすべて紹介しました。

●邦人作品コンセール・リベルテの夕べ(1975年11月10日、静岡市公会堂)
  これが、僕がかかわっていた「静岡市民バンド コンセール・リベルテ」のコンサートです。このとき、事実上、ニュー・エイトの会の新作発表をかねた内容にさせてもらいました。

 バンドのための組曲≪ラプソディー≫(奥村一)
 吹奏楽のための治承今様楽(桑原洋明)
  確か、このとき僕も何か新作を書いたはずなんだけど、もう分からない。ほかにも何曲かありましたが、全員ではなかったような気がします。

●ニュー・エイト オリジナルコンサート(1976年6月6日、静岡市公会堂)
  これも、前回同様、コンセール・リベルテの演奏ですが、このときは、完全にニュー・エイトの会の新作発表が全編を占めています。

 七色のファンタジー≪虹≫(岩井直溥)

  この日の曲は、正確には、この僕の新作があったことしかわからない。これは録音が残っているから間違いありません。ただ、翌月に東京でまた開催しているので(次項)、おそらく、それと内容は同じだと思いますよ。

●笹川賞受賞記念新作発表会(1976年7月22日、石橋メモリアルホール)
  すでに何度か出てきているこの「笹川賞」というのは、日本船舶振興会の関連団体だった日本音楽財団が主催する、吹奏楽の公募コンクールです。当時の代表だった笹川良一さんの名前に由来しています(ちなみに、いまでも「笹川賞」ってあるけど、それは競艇の賞です)。

 確か、1974年が第1回だと思います。けっこう、名曲が生れているんですよ。たとえば保科洋さんの≪吹奏楽のためのカプリス≫、カネビン(兼田敏)の≪吹奏楽のための交響的瞬間≫など。公募課題曲で何度も入選している松尾善雄さんも何度も入選しています。90年代まで続いていたはずです。

  で、この受賞記念コンサートに便乗させてもらって、第1部が受賞作演奏会、第2部がニュー・エイト演奏会という構成で開催しました。演奏は航空自衛隊航空中央音楽隊。ちなみに、このときだったか、その前だったか、ほぼ同時期の笹川賞受賞作が、藤掛廣幸さんの名曲≪吹奏楽のためのシャコンヌ≫でした。

  この日の曲目は、8人分、全部分かっています。

 バンドのためのカンツォーネ(藤田玄播)
 吹奏楽のためのコンチェルティーノ(齋藤高順)
 吹奏楽のための劇的アラベスク(岩河三郎)
 吹奏楽のための≪哀歌≫1975(桑原洋明)
 七色のファンタジー≪虹≫(岩井直溥)
 黒のファンタジー(名取吾郎)
 吹奏楽のための詩曲(川崎優)
 秩父の夜まつり〜武甲山への祈り/屋台囃子(奥村一)


  齋藤さんの≪コンチェルティーノ≫は名曲として知られています。前回も書きましたが、2006年に出たCD『ブルー・インパルス/斉藤高順吹奏楽作品集』 (航空自衛隊航空中央音楽隊)の中に新録音で収録されています。

●第2回ニュー・エイト オリジナルコンサート(1977年5月14日、都市センターホール)
  純粋にニュー・エイトの会の主催で開催した、2回目のコンサートです。演奏は、なかなかの豪華版で、警視庁音楽隊、東京佼成ウインドオーケストラ、国立音楽大学シンフォニック・ウインド・アンサンブルという顔ぶれです。

  これも曲目は、8人全部分かっています。

 バンドのためのメルヘン≪マッチ売りの少女≫(齋藤高順)
 音詩≪雪国に聞こえる夜の歌≫(岩河三郎)
 幻想的詩曲≪十和田湖≫(奥村一)
 吹奏楽のための詩曲(名取吾郎)
 越天楽の主題による詩曲(藤田玄播)
 随想曲≪模索≫(岩井直溥)
 吹奏楽のためのロンド・トリステメント(桑原洋明)
 祈りの曲第2≪悲歌≫(川崎優)


  この中では、川崎さんの≪悲歌≫が特に重要です。
  川崎さんはフルーティスト、指導者としても有名ですが、広島での被爆経験を持っているんですね。で、この前年、広島からの委嘱で、祈りの歌第1≪哀悼歌≫を作曲している。これは、それにつづく第2弾です。確か、スイスで海外初演されたはずですよ。たいへん真摯な葬送行進曲風の音楽です。吹奏楽で、こういう響きが生み出されたのは初めてのことだったように思いますね。

●第3回ニュー・エイト吹奏楽新作発表会(1978年5月27日、石橋メモリアル・ホール)
  このときも東京佼成ウインドオーケストラが協力してくれました。

 吹奏楽曲≪子供の世界≫(桑原洋明)
 天使ミカエルの嘆き(藤田玄播)
 吹奏楽のための交響的ワルツ(岩河三郎)
 クラリネットと吹奏楽のためのバラード(齋藤高順)
 御陣乗太鼓への幻影(奥村一)
 前奏曲≪岬≫(名取吾郎)
 若者への贈り物(岩井直溥)
 祭りの曲(川崎優)


  この中では、なんといっても藤田さんの≪天使ミカエルの嘆き≫が有名ですよね。この年、ヤマハ吹奏楽団から委嘱された曲で、彼らの定期演奏会で初演されました。ニュー・エイトでの演奏も、ほぼ同時期だったような記憶があります。ヤマハは、この年、この曲でコンクール全国大会に進出し、金賞を獲得しています。その後も、しばしばコンクールに登場していますし、日本の吹奏楽史に残る名曲として知られています。

●第4回ニュー・エイト・コンサート(1980年11月29日、川口市民会館)
  こうしてみると、回数だけはきちんと重ねているけれど、コンサートの名称は、毎回変わっている……いいかげんだねえ(笑)。
  このときの演奏団体は、メモに残っていないんだけど、おそらく佼成か航空自衛隊だと思います。

 子供のための小組曲〜前奏曲/かくれんぼ/子守唄/自転車(藤田玄播)
 吹奏楽のための二つの民謡によるラプソディとフーガ(桑原洋明)
 吹奏楽のための詩曲≪ポエム≫(川崎優)
 吹奏楽のためのドラマティック・ファンタジー≪阿修羅≫
  
〜怒り/悲しみ/救い(奥村一)
吹奏楽のための劇的アラベスク(名取吾郎)
交響詩≪自然への回帰≫(齋藤高順)


 この回の記録は、これしか手許にない。あと、僕と岩河さんの曲もあったはずなんだけど。作曲した自分が覚えてないんだから、どうしようもないね(笑)。
 齋藤さんの≪自然への回帰≫も、先のCDに新録音で入っています。これも真摯ないい曲でした。

●第5回
  これが、まったく資料もメモもない。とにかく第5回をやったことは間違いないんです。確か、静岡の駿府会館でやったような記憶があるから、それかもしれません。しかし、誰のどんな曲をやったのか、僕にはまったくわからない。
  無責任ですいません。まあ、植木等と一緒に活動していた男ですから(笑)。

●第6回ニュー・エイト・コンサート(1982年11月28日、川口市民会館)
  記録上、これが最後のコンサートだったはずです。これも演奏団体はわからない。

 バンドのための≪喜遊曲≫(作曲者不明、おそらく藤田玄播氏か?)
 バンドのためのエッセイ≪旅するもののバラード≫(岩河三郎)
 トランペット独奏と吹奏楽のための≪ロマンス≫(齋藤高順)
 ピアノとウインド・オーケストラのための≪ラプソディー≫(奥村一)
 サンスター≪ヴィクトリー・マーチ≫(岩井直溥)
 バンドのためのインテルメッツォ≪夢現≫(齋藤高順)
 吹奏楽のための≪永訣の詩≫(名取吾郎)
 吹奏楽のための≪二つの断章≫(桑原洋明)
(アンコール)
 ニュー・エイト・マーチ(第1回で発表した8人の合作)


 どうも川崎さんの曲がないね。もしかしたら、記録の散逸かもしれない。齋藤さんが2曲ある。
 僕の曲は、歯磨きでおなじみサンスターからの委嘱作品です。
 この中では、名取さんの≪永訣の詩≫が名曲で、のちに東京佼成ウインドオーケストラが正式録音しています(CD『能面』に収録)。これは、お兄さんが急逝されて、その思いを綴った曲です。とてもクールで、なんていうか、もう涙も出ない究極の悲しみを描いたような音楽です。

■やがて自然消滅
  まあ、とにかくこんな感じでやってきたんだけど、みんな忙しくなってきたし、やるべきことはやったという意識もあった。それに、多忙な中で無理して作曲していると、どうしても似たような曲ばかりになっちゃうんだ。もう少し、余裕をもって、じっくり取り組めていればよかったんだろうけど。

  そこで、自然消滅となりました。

  この間、レコードにする案もあったんだけど、けっこう長い曲が多くてね。1曲が20分なんて当たり前だった。なかなかレコード会社が乗ってくれなかった。楽譜も、一部、レンタルしたりしてそれなりに人気があったんだけど、みんな、その種の事務管理がぜんぜんダメな連中ばかりで、いつしかやめてしまった。なにしろ、まだフルスコアもパート譜も手書きの時代でしたからね。

  確か、ニュー・エイトの名前だったかどうか覚えていないけど、広島で開催したこともありましたよ。川崎さんが、広島市からの委嘱で≪祈りの歌≫を書いていたから、その関係だったかもしれない。

  そういえば、政治家の講演会に便乗したこともあったなあ。第1部が講演会で、第2部がニュー・エイトのコンサート。あれ、何だったんだろう(笑)。たぶん、笹川賞の関係で、日本船舶振興会の筋から呼ばれた政治家だったんだろうね。何しろ動員がかかってるから、そういうときだけは、立ち見が出るほどの入りだった。

  いまでは、名取さん、奥村さん、齋藤さんも亡くなってしまった。
  やっているときは開催することばかりに夢中で、曲を残すなんて、考えもしなかった。しかしいまになってみると、もっときちんと、楽譜や資料を整理して残しておくべきだったと、残念です。それなりのことをやってきたんだしね。

  だからこそ、読者の方々の中で、詳しいことをご存知の方がいたら、ぜひ教えてください。

【つづく】


 
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【お知らせ】
※第27回は、1回分、夏休みをいただいて、8月28日(金)正午〜、掲載予定。
(毎月15日・30日=土日祝日の場合は、直前の平日=に掲載予定)

(BP編集部/富樫鉄火)

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その輝ける軌跡。巨匠、初の吹奏楽オリジナル作品集がついに登場!


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編曲・作曲:岩井直溥(Naohiro Iwai) 【全曲】

1. シンコペーテッド・マーチ「明日に向かって」 【3:29】
   Syncopated March "Asuni-Mukatte"

2. ポップス・オーバーチュア「未来への展開」 【4:42】
   Pops Overture "Development toward the Future"

3. ポップス描写曲「メイン・ストリートで」 【5:01】 
   On Main Street

4. ポップス変奏曲「かぞえうた」 【5:09】 
   Pops Variation "Kazoeuta"

5. ポップ・コンサートマーチ「すてきな日々」 【4:24】 
   Pops March "Wonderful days"

6. Jump Up Kosei 21 【7:46】  

7. 詩曲「渚の詩」 【8:50】  

8. 響きかぎりなく 【7:02】 

9. あの水平線の彼方に 【11:38】

【ボーナストラック】

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BPショップにて発売中 http://item.rakuten.co.jp/bandpower/cd-1548/

(2009.7.30)>>


■岩井直溥関連CD
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■EVERGREEN〜岩井直溥作品集
■ベスト・ニュー・サウンズ・イン・ブラス100−ベスト吹奏楽II
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